社外取締役に求められる監督機能

2026年10月10日

小池広靖 (野村アセットマネジメント 取締役会長)

[ 雑誌「コーポレートガバナンス」Vol.22 - 2026年8月号 掲載 ]

コーポレートガバナンスを考えるうえでは、経営の機動性を確保しながら、資本市場から託された信認にどのように応えていくかが重要な論点となる。上場企業にとっても、制度の有無そのものより、経営の質を高め、持続的な企業価値向上につなげる実効性が問われる。その中で社外取締役は、単に独立性を備えた存在にとどまらず、経営を監督し、必要に応じて規律を与え、企業変革を後押しする中核的な役割を担う。本稿では、投資家としての対話と議決権行使の実践を踏まえつつ、社外取締役に求められる監督機能を考察したい。

日本において進展するモニタリング·ボード

日本企業の取締役会は、長く社内取締役を中心に経営の意思決定を主たる役割とするマネジメント·ボードの色彩が強かった。しかし現在、その構造は明確に変わりつつある。社外取締役が過半を占め、経営陣から独立した視点で監督を行うモニタリング·ボードへの移行が、広く現実の選択肢となっている。

野村アセットマネジメントでは、社内取締役が中心で経営陣への助言を主な役割とするアドバイザリー·ボードではなく、社外取締役が中心となって経営陣を監督するモニタリング·ボードへの移行が望ましいと考えている。その考え方を具体化するため、図のようにモニタリング·ボードとみなす8つの要件を設定し、ガバナンスとして先進的で望ましい経営の姿を明示している。これらの要件は、形式的な機関設計ではなく、経営陣への適切な権限委譲と社外取締役による実質的な監督を両立させるための基準である。当該要件を満たす企業については、取締役会の経営判断を尊重し、議決権行使において会社提案に賛成する要件を緩和することで、企業変革を後押ししている。

これは、議決権行使は投資先企業へのエンゲージメントの一環である、という考え方によるものである。当社では、原則として独自の議決権行使ガイドラインに則って議案の判断を行っている。2025年は、日本株ではTOPIX構成銘柄を中心に2,000社強、東京をベースとした外国株でも2,000社近くの議案を判断、行使した。さらに、日本企業610社に対して1,100件のエンゲージメントを実施し、企業変革を促すことで、議決権行使とエンゲージメントの一体運営を強化した。外国株でも海外拠点が中心となり、グローバルで430社に対して協働エンゲージメントや国際イニシアティブと連携した対話を進めている。

当社は2020年からモニタリング·ボードを推奨してきた。当時、その要件を満たす企業は東証一部上場企業でも約50社にすぎず、日本企業に浸透するかについては懐疑的な見方も少なくなかった。しかし、コーポレートガバナンス改革の進展とともに、透明·公正かつ迅速·果断な意思決定の重要性が広く認識され、監督と執行を分ける流れが定着しつつある。

さらに、本年公表されたコーポレートガバナンス·コード改訂でも、社外取締役の役割として経営の監督が第一に記載され、あるべき姿としてモニタリング·ボードが明確に認識されたといえる。実際、今年度は社外取締役が取締役の過半を占める企業数がTOPIX構成銘柄全体の3割を超える見込みである。かつては少数にとどまっていたモニタリング·ボードの考え方が、いまや日本企業における標準的な経営モデルの1つとして広がりつつあるのである。

モニタリングボードの条件(2025年11月1日改訂)
  1. 取締役の人数が5名以上20名未満
  2. 独立性を満たす社外取締役が過半数
  3. 社外取締役が過半数を占める指名・報酬委員会(議長は社外取締役)を設置
  4. 女性の取締役が取締役の人数の15%以上
  5. 買収防衛策を導入していない
  6. 政策保有株式を過大に保有していない(金融:純資産の25%未満、他:投下資本の10%未満)
  7. 監査役会設置会社の場合、取締役の任期が1年
  8. 支配株主がいる場合、取締役会議長は社外取締役

※8項目をすべて満たす必要がある。

求められる取締役会の更なる実効性向上

もっとも、制度が整っただけでは十分ではない。次に問われるのは、取締役会がどれだけ実効的に機能しているかである。企業価値の向上には、形式的な会議体ではなく、経営の重要論点を深く議論し、必要な局面で是正を促せる取締役会が不可欠である。その中心にあるのが、社外取締役を軸とした指名·報酬ガバナンスである。

指名委員会に期待される役割は、CEOの評価、後継者計画の策定、候補者選定である。とりわけ、現CEOを定期的に評価し、再任·不再任を含めて適切に審議する仕組みを確立することが重要だ。近年、社外取締役がCEOの指名プロセスを主導し、経営に対する牽制機能を発揮する事例は増えてきたが、なお実効性の面では十分とは言えない例が少なくない。

報酬委員会についても同様である。報酬制度は、単に役員処遇を決めるものではなく、経営者の意思決定を中長期の企業価値創造へと方向付けるものである。資本効率性、株価、環境·社会課題への対応をどう織り込むかは、経営の優先順位を映す。近年、日本の報酬制度は改善が進み、透明性の向上や適切なインセンティブ設計につながる事例も増えたが、内容の開示や投資家への説明はなお改善の余地が大きい。

今年の株主総会を振り返ると、社外取締役の役割とスキルへの関心が一段と高まった。アクティビストからは、CEOの再任反対や解任要求に加え、新たな社外取締役の選任を求める提案も増えている。また、買収提案や不祥事対応で設置される特別委員会や調査委員会では、独立性、公正性、透明性はもちろん、財務·会計·法務に通じた専門性が厳しく問われる。さらに近年は、キャピタルマーケット·リテラシー、すなわち資本市場への理解やファイナンスの知見が不可欠となり、加えて多様なステークホルダーの考えを汲み取る力も求められている。社外取締役は、単なる監視者ではなく、複雑化する経営課題に対して高い視座から判断する統治人材でなければならない。

国際優良企業など先進的な企業では、すでに資本市場に精通した人材や財務·監査に強い人材を登用し、指名·報酬委員会の全員を社外取締役とするなど、取締役会の構成を高度化する動きが進んでいる。日本企業全体にこの動きが広がっていくことを期待したい。モニタリング·ボードの更なる定着と取締役会の実効性向上を同時に進めることが、持続的な企業価値向上へとつながっていくだろう。

小池広靖氏

小池広靖Hiroyasu Koike
野村アセットマネジメント株式会社 取締役会長
兼 野村ホールディングス株式会社執行役員
インベストメント·マネジメント部門長
1990年野村證券入社。9年間の支店勤務の後、1999年より金融法人部へ配属。リスク·ソリューション部長を経て2016年より金融法人、公共法人担当役員。2018年よりコーポレート·ファイナンス担当常務。2020年より野村アセットマネジメント副社長、2021年よりCEO兼代表取締役社長。2026年4月より現職。

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