第三者委員会の有用性と限界を考える

2025年11月10日

上山信一(ZEN大学 副学長、慶應義塾大学 名誉教授)

[ 雑誌「コーポレートガバナンス」Vol.19 - 2025年8月号 掲載 ]

近年、「第三者委員会」が注目されている。宝塚歌劇団(阪急阪神ホールディングス)、フジテレビ、兵庫県庁(文書問題)、日本大学など、事件や不祥事が発生するたびに設置されてきた。 多くの場合、第三者委員会による調査報告書の公表をもって、事態は沈静化する。経営者にとっては最後のよりどころともいえる存在だ。しかし、その「第三者性」については批判も多い。企業が委員を任命し、報酬も支払うことから、経営者の意向を忖度しているという疑念は消えない。また、調査に当たる弁護士や学者には現場の実態が理解できないのではないかという指摘もある。今回は企業の課題解決における第三者委員会の活用とその限界について考えてみたい。

本来、社内の調査で済むはずが、なぜ外部の委員会が必要になるのか。第一には組織のしがらみや慣習を離れた「客観中立性」である。第二には社内に欠ける「専門性」の導入である。会計、税務、IT、医療、安全管理といった分野の知見、さらに調査や報告書作成のノウハウも専門性といえよう。それで弁護士や大学教授が委員長に選ばれやすい。第三には「社会的信用力」である。専門資格や元経営者などの肩書きが、報告の信頼性を担保する。そして第四には簡便さと迅速性だ。不祥事や疑惑の解明は社内調査だけでは不十分だ。一方、司法による本格調査は時間がかかるし「裁判沙汰」にはしたくない。そこで"第三の道"として第三者委員会が設置される。

調査結果の公開が改革と信用回復を促す

筆者は経営コンサルタントであり大学教授でもある。企業の経営改革と並行して、行政改革や政策評価に携わり、交通系企業や自治体の第三者委員会の委員や座長を務めてきた。

第三者委員会には二類型ある。第一は、不祥事や事故の後の調査委員会である。社内調査が困難、または対外的な信用回復が難しい場合に設けられる。筆者は07年のJR西日本・変革推進会議(福知山線事故後の経営体質点検)、21年の富士急ハイランド・安全マネジメント検証委員会、17年の東京都オリンピック調査委員会、19年の愛知県・国際芸術祭(あいちトリエンナーレ)のあり方検証委員会、23年の万博費用監視委員会(経産省)などに参画してきた。多くの場合、事件は突然発生し、メンバーを急ぎ集めて突貫作業で調査する。情報公開・記者対応にも細心の注意が必要で過酷な仕事といえよう。

第二は、平時において業務の健全性や改革の進捗を定期チェックする委員会である。調査は内部職員が主体で外部委員会は監督・指導を担う。例えば国土交通省の政策評価会では毎年4、5件の政策テーマについて1年かけて効果を検証した。こうした業務では、報告書が完成するまでの折衝が要諦である。担当部局は課題や解決策を曖昧にしがちだが、外部委員は分析の甘さを指摘し、具体的な改善目標や達成期限の記載を迫る。公開された評価報告書は課題を可視化し、改革のマイルストーンとなる。

社内と社外への「示し」をつける

第一類型の委員会は、社内に対しては事実の直視、原因分析を迫り、改善の動機を与える。かたや外部には報告書公表をもって「一件落着」とする、いわば「禊(みそぎ)」の効果をもたらす。しかし内容次第では「禊」とならない。宝塚歌劇団では、初期の調査の甘さや忖度が批判を招いたといわれる。兵庫県の場合は委員の中立性に疑問が呈され、知事も提言を全面的には受け入れなかった。

第二類型では、第三者と組織が継続的に関与するため持続的な改革につながる半面、なれ合いのリスクがある。事件性がないので公表されても注目されない。しかし数年かけて自己点検の習慣や評価ノウハウが浸透すれば、持続的な改革につながる。第三者委員会は改革の触媒役という意味では、第一の類型は「劇薬型」、第二は「漢方薬型」といえる。

委員会を成功させる秘訣

第三者委員会を有効に機能させるためのポイントを4つ挙げたい。

第一に、委員の人選では多様性を確保する

全員が弁護士というのはよくない。経営コンサルタント、学識経験者など多様な背景を持つメンバーで構成し、性別、経験、専門領域にも配慮すべきだ。委員は実のところ完全な第三者ではない。まったく関係のなかった方ばかりだと業務理解に乏しく、的外れな報告になる恐れがあるからだ。しかし会社の関係者ばかりでは客観中立性が損なわれる。バランスが大事だ。

第二に、経営者との真摯な対話の場を設定する

調査中に会社幹部や現場と意見交換を行うと提言の実効性が高まる。ヒアリングにとどまらず、提案を現実に落とし込むには双方向の議論が欠かせない。

第三に、「社内には厳しく、社外には中立」の姿勢を

社内には寄り添いながらも、外部には一切の擁護も批判もせず、ものごとの是非を客観的に提示する。この立場の使い分けが鍵となる。

第四に、インテグリティ(高潔さ)の堅持

委員長は委員の間に異論があれば両論併記し、多様な意見を排除しない。委員会全体の誠実性と公正さを保つ運営を行う。

第五に、司法判断との区別の説明

対外的な権威付けを考え、会社は委員に弁護士や元裁判官を起用しがちだ。本人らも判決文を作るつもりで報告書を出すが、これは危険だ。委員会の目的はあくまで社内の実態改革である。元経営者やコンサルタント等の経験に基づく知見も入れた柔軟な報告書にすべきだ。

第三者委員会は、今後も不祥事対応や外圧を使った組織改革の手段として広く活用されるだろう。あたかも訴訟の代替手段として示談が普及したようにもっと多用されるだろう。ならば各社の経験をノウハウとして蓄積・共有し、有効な社会的制度として成熟させていくべきである。

上山信一

上山信一Shinichi Ueyama
ZEN大学 副学長 慶應義塾大学 名誉教授
専門は「経営戦略」と「行政改革」。国土交通省(旧運輸省)、マッキンゼー(パートナー)、慶應大学 総合政策学部教授等を経て現職。(株)平和堂、(株)スターフライヤー 社外取締役等を兼務。東京都 顧問、大阪府・大阪市 特別顧問、京都市 特別顧問、愛知県 政策顧問、国土交通省 政策評価会座長等を歴任。京都大学 法学部卒業、プリンストン大学 大学院修了。

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