子会社に対する親会社の責任はどうあるべきなのか、中でも、子会社で不祥事が顕在化した時の親会社の取締役会はいかなる責任が問われるのであろうか。近時の不祥事案として、例えば、損保ジャパンに対するSOMPOホールディングス、JR九州高速船に対するJR九州、さらには、フジテレビに対するフジ・メディア・ホールディングスの事案など枚挙にいとまがなく、その際の親会社の取締役会の責任問題について考えてみたい。
この点、会社法では、取締役会に対して「取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務並びに当該株式会社及びその子会社から成る企業集団の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備」(第362条4項6号)を要請しており、子会社における内部統制上の重要な不備が確認される場合には、当然に、親会社の取締役会の責任問題が浮上することも想定されるのである。というのも、グループ・ガバナンスの視点から、「親会社の取締役会は、グループ全体の内部統制システムの構築に関する基本方針を決定し、子会社を含めたその構築・運用状況を監視・監督する責務を負う。」(経済産業省『グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針』2019年6月)として、親会社の取締役会の役割を規定しており、この点からも、親会社の各取締役の責任が問われることになると解するのが至当である。
では、その際、子会社のみならず、親会社の社外取締役の責任は、いかに解されるべきなのか。確かに、子会社における不祥事の場合、親会社の直接的関与があったような特殊な場合を除き、第一次的には子会社の取締役等の責任であり、親会社の取締役等の法的責任等が、直ちに問われるものとは考えられない。しかし、日頃より、子会社の管理・監督について、社会が期待する程度の注意義務を果たしていなかった場合には、第二次的な結果責任が問われることも考えられるのである。中でも、かかる不祥事が、子会社の経営トップに関する事案や、子会社の内部統制上の重要な不備に起因する場合には、グループ全体の内部統制上の欠陥であり、親会社の社外取締役も含めた取締役会全体の責任と捉えることができる。
グループ全体の多様性が高まる中、分権組織とした子会社に対しては、自立性および自律性を尊重し、かつ、経営意思決定の迅速性を図ることで、グループの企業価値の維持・向上を図ることが期待されているはずである。しかし一方で、子会社の経営トップの姿勢をなす「統制環境」と、親会社との間の円滑な情報共有の基礎をなす「情報と伝達」といった、内部統制の基本的要素に重大な不備が指摘される場合には、社外取締役を含む親会社取締役の、子会社内部統制監督責任が問われることになろう。そのためにも、日頃から、社外取締役も、子会社の内部統制の有効性に関する情報を入手する努力を怠ってはならないのである。
八田進二
青山学院大学 名誉教授