AI技術の急速な進展が企業経営に大きな変革をもたらす中、トランスコスモスは「Global Digital Transformation Partner」を目指し、顧客企業のDX推進を支援するとともに、自社の企業価値向上にも積極的に取り組んでいます。特に、技術革新とステークホルダーとの対話を軸としたコーポレートガバナンスの強化は、持続的成長の基盤として位置づけています。
当社はBPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)事業を展開しており、コンタクトセンターなどの領域ではAIが破壊的変化をもたらすといわれています。こうした環境変化の中、AIを積極的に取り入れ、サービスの高度化を進めています。たとえば、独自開発のCXプラットフォーム「trans-DX for Support」には、生成AIチャットボット「trans-AI Chat」を搭載し、日本・中国・韓国の3カ国で展開しています。また、生成AI自動翻訳ツール「Translingo SMART」により、最大15言語でのカスタマーサポートを可能にしました。
AI戦略においては、技術導入だけでなく、全社員のAIリテラシー向上を重視しています。経営理念である「お客様の満足の大きさが我々の存在価値の大きさであり、一人ひとりの成長がその大きさと未来を創る」のもと、環境整備と人材育成に取り組んでいます。多くの企業でAI導入が進む一方、それを担う人材の不足が課題となる中、「社員一人ひとりがAIに親しみ、日常業務で自然に活用できる状況をつくることが重要」と考えています。これは、当社の事業の原点である「people & technology」に根差すものであり、AI時代においても技術と人材の融合によって、我々にしか提供できない付加価値を生み出し続けることを目指しています。
当社はオーナー系企業であり、創業家が大株主として経営に深く関与しています。この体制は、迅速かつ柔軟な意思決定を可能にする一方で、少数株主の権利保護や経営の透明性確保が重要な課題となります。そこで私たちは、取締役会の実効性強化や多様な視点の導入を通じて、バランスの取れたガバナンス体制の構築に努めています。
2025年7月時点で、取締役のうち50%が社外取締役で構成されており、さまざまな業界経験や専門性を持つ方々に参画いただいています。社外取締役の皆様には、取締役会での議論に加え、コンタクトセンターなどの現場視察も実施いただいています。「見てみると昔とあまり変わっていないね」といった率直なフィードバックが、現場改善につながるなど、建設的な対話が経営に活かされています。
一方で、当社の取締役における女性比率が現状では低いことは、課題として強く認識しています。トランスコスモスは、創業以来、女性の力を積極的に活用して成長してきた企業です。現在でも社員の約半数を女性が占めており、オペレーションの現場をまとめ上げるリーダーとしても女性が多く活躍しています。かつては女性取締役の比率がより高かった時代もありました。今後は当社のDNAを体現する女性社員を経営層に登用することなどを通じ、取締役会の多様性を高め、より強固なガバナンス体制を築いていく方針です。
投資家との対話も重要な柱です。2024年には欧州でのロードショーを再開し、海外機関投資家との面談を通じて得られたフィードバックをもとに、株主還元の見直しや開示資料の拡充などに取り組みました。今後は事業ポートフォリオ戦略に基づき、投資や各事業の戦略のブラッシュアップを進めていく方針を示しており、こうした取り組みを通じて、当社の成長性を正しく評価していただけるよう努めてまいります。
さらに、従業員は当社にとって最も重要なステークホルダーです。現在、国内で約4万人、海外合わせると約7万人の方に参画頂いておりますが、「社員は無限の可能性を秘めた最大の資産」という考えのもと、全正社員と役員を対象としたエンゲージメント調査(eNPS)を毎年実施し、その結果をもとに改善施策を実行しています。2023年度には、タウンホールミーティングを新たに開始し、経営トップが18拠点で433名の従業員と直接対話を行いました。多様な文化・価値観を持つ人材が集まるグローバル企業として、組織の一体感と活力を高める取り組みを今後も継続していきます
トランスコスモスは、AI技術への対応、取締役会の実効性強化、女性活躍の推進、投資家との対話という複数の軸を連携させながら、中長期的な企業価値向上を追求しています。これらの施策は、「オペレーショナル・エクセレンスからテクノロジーソリューションカンパニーへの進化」という中期経営計画の実現に向けた具体的なアクションであり、技術と人材の融合による価値創造を通じて社会に貢献し続ける企業でありたい、という私たちの思いを体現するものです。今後もステークホルダーとの対話を重視しながら、持続可能な成長を目指してまいります。
神谷健志Takeshi Kamiya
トランスコスモス株式会社 代表取締役共同社長
1998年東京大学大学院卒、2005年ペンシルベニア大学ウォートン校MBA取得。1998年日本電信電話入社、その後ベイン・アンド・カンパニーを経て2015年トランスコスモス入社。経営戦略本部長として、労働集約型ビジネスモデルから転換し「Digital Transformation Partner」を目指す全社戦略の立案と実行を推進。2023年より現職