企業の信頼が失墜し、かつ、企業価値を棄損させる不祥事がなくならない。企業を取り巻く不祥事の範囲は、不適切な会計処理等による会計不正だけでなく、データ改竄や品質不正、さらには人権侵害によるコンプライアンス違反に該当する不祥事等、さまざまな類型の不正ないし不祥事へと著しく拡大してきているのである。
こうした状況下にあって、社外取締役や社外監査役(以下、総称して「社外役員」と称す)は、いかなる役割を担うことが期待されているのであろうか。コーポ―レートガバナンス・コードの趣旨に従うならば、基本的に、業務執行に関与しないということで、非業務執行の立場に置かれており、そこでの最大の役割期待は、取締役および執行役等の業務執行の健全性を監視・監督することであるといえる。因みに、経営の助言やアドバイスというのは、健全企業での社外役員における役割であるといえるのである。
ひとたび、社会からの批判を浴びるような不祥事等が発覚したおりには、当然に、いち早く、執行サイドの役員が自浄能力を発揮して、問題の芽を摘み取るとともに、再発防止策を全社的に徹底させることが求められる。しかしながら、昨今の風潮として、企業不祥事が発覚すると、メディア等は、直ちに第三者委員会を設置して問題の原因究明および再発防止策の提言を受けるように要請するのである。不祥事の発生を確認した企業としては、まずは、経営トップ主導で自組織の不祥事の真因究明を行うのが筋であり、直ちに、第三者委員会に丸投げする姿勢は、自らに自浄能力がないことを露呈するようなものといえる。それは、経営者としての資質にも疑念が生ずるものといわざるを得ないのである。
そもそも、第三者委員会に関しては、その設置に対しての十分な大義があることが不可欠なのである。それは、当該不祥事が明らかに経営サイドに関わる事案と解されている場合や、そうした不祥事が長年にわたって潜在し、または、多くの事業拠点で顕在化してきている場合などが考えられるのである。このような状況下では、もはや、内部者のみでの解明は困難であるばかりか、内部者に対する社会からの不信感が増幅していることから、外の目による立場での調査が求められるからである。したがって、まずは、株主の代理として選任されている社外役員が、独立かつ公正の立場で、監視・監督機能発揮に向け、不祥事の調査に深く関与することが期待されているのである。そのため、近時の事例として、社外役員のみで構成された調査委員会が不祥事の原因究明と再発防止策等の提言等を行った報告書を公表している企業も散見される。しかし、不祥事案件が、経営執行部の関与が疑われるような場合には、取締役会や監査役会等、同じ役員会の構成員である社外役員のみの調査委員会が関与することについては、別途、利益相反の疑いもあり、独立性および公正性の観点で十分な説明責任を果たすことは困難であろう。その場合にこそ、独立の社外役員として、堂々と第三者委員会の設置を提言すべきである。
八田進二
青山学院大学 名誉教授