日本の製造業の展望と課題

2021年11月11日

市村雄二(コニカミノルタ株式会社 常務執行役 CIO/DX改革)

[ 雑誌「コーポレートガバナンス」Vol.7 - 2021年8月号 掲載 ]

日本の製造業は戦後の急速な復興、経済発展、国是としての外貨獲得時代、経済と雇用の基盤を支えながら、ジャパンアズナンバーワンの時代を経て、世界三位のGDPと豊かさを享受する、それなりの国際的な地位保持に寄与している。

ただ現実には残念ながら国際競争力(スイスのビジネススクールIMDが毎年発表している主要63か国中「世界競争力ランキングで日本は昨年30位、今年は34位」)や、日本の企業力(企業の俊敏性は63位)は衰退し、その現実は衝撃的ですらある。20世紀型のビジネスモデルを踏襲し、世界のパラダイムシフトについていけていない現実は、極めて危機的な状況にもかかわらず、国内では危機感の共有や切迫感は感じられない。日本人の大半は、未だ本当の危機を感じていない。国として社会課題を解決するにも、国力を再回復させるにも、日本の製造業が復活する事が不可欠であるが、時すでに遅しなのか。製造力は中国に勝てず、デジタルネイティブ力は米国にやられ、ますます高速、スマート化が進む技術革新の中で先行きは真っ暗なのか。

私は、道徳高い、心のある日本の製造業こそが、経済力を再度押し上げ、土地も資源も無い少子高齢化社会の先駆者である日本の国力復活を可能にすると考えている。ただし、そのためには、いくつかの戦略実行が必要となる。

コロナ禍の前からデジタル社会の到来とVUCA(Volatility, Uncertainty, Complexity and Ambiguity)な事業環境の中で、日本企業の復活に最も欠けているものは「イノベーション」だと捉え、それを支えるカルチャー(文化)への大変革を踏まえた「イノベーション志向経営」を私は掲げている。これは新規事業開発に限らず、企業の売上・利益を支える既存・基盤事業の変革にこそ必要且つ効果の大きいアプローチなのだ。有形・無形資産の棚卸し、事業の集中領域を特定し、起業家精神(Entrepreneurship)を元にデジタルを組み合わせた製造業の変革・復活が最も重要なテーマの一つとなる。

製造業は、長きに渡り技術優位にあるメーカーが作った製品(モノ)を社会・市場で消費していただいてきた。ところが今では、消費者側から欲しいモノやコトが生まれサービス型で提供し継続改善していくモデルが主流となっている。

デジタルネイティブなディスラプターや新規事業で急成長するユニコーンに目がいきがちであるが、ディスラプターではなく、そのディスラプションに、デジタル化(Digitization)ではなくデジタル変革(Digitalization)に注目すると、如何にゼロベースから創造していく事が短期間でも可能で、且つ重要か理解出来るであろう。業界が既にディスラプションされている事例は10年以上前から枚挙にいとまがない。

2007年以降、手のひらにはひと昔前のスーパーコンピューターの処理能力と空間には高速広帯域のネットワークが存在し、ソフトの革新によるAIやDLで人の脳を超越する処理が可能となり、サイバー空間では無限のデータ処理が毎秒行なわれている。

従来の基礎研究、技術開発、製品開発、その先の事業モデルの選択肢がメーカー寄りであった時代から、顧客体験を基にしたデジタルビジネスモデルそのものが競争力の源泉になっているなかでは、製造業の過去からの成功モデル、マネジメントシステムの改革無しには成功は望めない。製造業には「重力」と私は呼んでいるが、目に見えない力、自前主義や品質の呪縛、無手勝流に頑張る風土(高い標準スキームを元にした科学的マネジメントとは対極)など、一定の方向に組織を引っ張り、変化に対しては後戻りをさせてしまうような力が重くのしかかっている。誰もが良かれと思った過去から馴染んだ判断や習慣が変革の大きな阻害要因になっている場合が多いのだ。

今どきのテクノロジーを活かすには、それらに関連する深いナレッジとリーダーシップ、そのベースとなる文化が重要となる。製造業からの成功事例がほぼ未だ無いデジタル変革(DX)に関しては、現場での継続改善や事例からの学びが得意でも、ビジョン・シナリオ・ビジネスケースを描きスピード感を持って具体的に実行する活動計画を描けずにいる。いかに問題の解決能力が高くとも、問題そのものを考える力が問われているからだ。

マネジメントに関しても、従来からの社内継承型では、真に客観性を持って評価し、何を残し、捨て、何をどう改革するのかの判断は極めて難しい。そこで、コニカミノルタでは、イノベーションの重要性を踏まえ、いわゆる「出島」として、世界5極にお客様のビジネスをイノベーションするセンター(BIC:Business Innovation Center)を2014年に構築・活動開始し、新規事業開発と人財育成、新たな企業文化の醸成に取り組んできた。今では、そのセンターを重要な本体に組み込む(二階建ての二階と母屋を一つにする、タグボートが母船をけん引する)形でイノベーション活動と文化革命を進めている。また、デジタルトランスフォーメーション(DX)に関しては、全社を挙げて各事業部門・機能組織、無形資産にも目を向けDXを主要8要素に分け、オーケストレーションをしながら進めている。その際には 振り返り可能な指標を盛り込み、客観的な羅針盤を持てるような仕掛けで進めている。

成功のパターンは個々の企業によりバラバラであり、各会社の持つDNAや文化を深く洞察した改革でなければ成功は出来ないと言う。一方で、失敗のパターン化は出来るらしい。つまり、日本企業とか製造業、ケイレツと言った塊ではなく、個々の企業の真価が問われている。そこで、新たなマネジメントの重要性が増している。欧米では経営のプロが育成される環境が昔からあり、デジタルテクノロジーに対する理解もある。資本政策にファイナンスの知識、M&A手法も熟知している。CEOのボスとしての取締役会の重要性は、社会的な関心の高まりを受け、手法・ノウハウと共に25年以上前から格段の進化を遂げている。日本企業にとって、ベストの型を創り、実効性をあげていくことが重要であろう。そのなかでは、単に資本効率向上に留まらず、イノベーションマネジメント、社会課題の達成に重要な企業力の向上と文化、社会価値と経済価値をどう合わせていくか、エンゲージメントをどうしていくか等、テーマは多岐に渡る。

グローバルな日本企業でも、過去の栄光を支えた中長期重視の経営があり、スピードは苦手だ。現代をどうとらえるか、社内外環境をリアルタイムでスキャンし機会・脅威を捉え、エビデンスに基づく透明性のある意思決定を進め、迅速に行動に移しながら継続改善する、と言ったサイクルを回す事がデジタルビジネスのアジリティを持続する唯一の手段であり、覚悟と勇気を持って進める事が出来た企業だけが持続的変革が可能となる。情や過去に囚われず、合理性に基づいた判断、経営のプロによるリーダーシップが重要だ。その際、紆余曲折を経ながら目指す方向を失わずに進むにはCEOとガバナンスボディである取締役会を含め、日本企業の力が試される10年、いやあと5年程だろう。

市村雄二氏

市村雄二
コニカミノルタ株式会社 常務執行役 CIO/DX改革
大手グローバルIT企業にて国内外の営業・企画・事業開発・ベンチャー投資に携わった後、2012年にコニカミノルタ入社。M&A やトランスフォーメーションを進めITサービス事業強化や全社の事業開発を担当する。2015年に執行役、2018年には常務執行役に就任。現在は、デジタル技術とデータを活用し、コニカミノルタグループの業務プロセス、事業のオペレーション及び働き方変革などの「DX改革」をグローバルに統括、マネジメントしている。