企業理念(hhc理念)とコーポレートガバナンス

2022年9月13日

内藤晴夫(エーザイ株式会社 取締役 兼 代表執行役CEO)

[ 雑誌「コーポレートガバナンス」Vol.10 - 2022年8月号 掲載 ]

1. 定款へ規定した企業理念

昨今、企業の果たす役割についてSDGsが語られ、継続的な企業価値向上という考え方からパーパス経営や理念経営等について活発な議論が繰り広げられています。

企業理念は、会社の意思決定における道標となるものであり、「会社の目的を示し、何のためにわれわれは集ったのか」を表すものです。当社は、1992年に目指す企業像として企業理念「ヒューマン・ヘルスケア(hhc)理念」を制定しましたが、その後、国内のみならずグローバルにこのhhc理念は広く社内に浸透してきました。指名委員会等設置会社移行後、この企業理念を会社の憲法であり経営の基本的なルールを定めた定款に織り込み、理念経営を明確にして株主と共有してはどうかとの社外取締役からの提案を受け、2005年の株主総会の特別決議で、企業理念を定款にて規定することとなりました。そして、本年6月の株主総会では、hhc理念の主役を、従来の「患者様とそのご家族」から「患者様と生活者の皆様」へと貢献すべき主役を拡大するなど、定款における理念の記載内容を改定しました。

定款に規定した企業理念は5つの柱で成り立っています。(以下、当社定款第2条参照)具体的には、①hhc理念のコンセプト、②社会善の効率的実現、③会社の使命、④社会的責任の遂行、および⑤ステークホルダーズの価値向上に向けた取り組みですが、それぞれが、現在、議論がなされている「企業の存在意義を明確にすることによってビジョンを達成する経営」、すなわち「パーパス経営」と一致するものであるといえます。さらに、これまでのhhcという企業理念をベースにして、他産業との連携によるhhc エコシステムを通じて日常と医療の領域で生活する人々の「生ききるを支える」という新しいビジネスモデルに転換していこうという当社の考えを盛り込みました。

振り返れば、会社法施行時の「定款自治」という考え方からスタートし、現在の「パーパス経営」へと変化してきたわけですが、単に企業理念を掲げることと、これを定款に規定するという意味合いは大きく異なり、企業経営者としてこの趣旨を十分に理解し、責任を持って業務執行にあたっています。

2. 企業理念を冠した全社外取締役で構成する委員会(hhcガバナンス委員会)

2019年度、取締役会において、当社のコーポレートガバナンス(以下、CG)の基本的考え方を定めた「CGプリンシプル」を大幅に改正しました。新たな「CGプリンシプル」では、従来、株主との関係が中心であった内容が、定款に定める主要なステークホルダーズ(患者様、株主、社員)との関係として改正され、あらゆるステークホルダーズとともに当社の企業価値を創り上げていくことが規定されました。

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そして、社外取締役の相互コミュニケーションの場として2008年度より運用してきた「社外取締役ミーティング」を「hhcガバナンス委員会」に名称変更し、その役割について、①CEOサクセッションプランの検討、②取締役会の実効性評価、③患者様、株主、社員等のステークホルダーズとのエンゲージメントを中心に、社外取締役の役割を有効に機能させるための仕組みとして充実させました。社外取締役全員で構成される「hhcガバナンス委員会」の名称についても、企業理念の実現に向けてガバナンスの向上を目指すことを企図して、hhcを冠したエーザイらしい名称へと変更しました。

hhcガバナンス委員会は、取締役会のモニタリングや議論の質を高めるため、様々な情報収集、執行部門との情報共有を行う一方、患者様とそのご家族、機関投資家/株主、社員との対話にも積極的に取り組み、それぞれの想いを汲み取り、社外取締役の一人ひとりが経営の監督に活かしていると感じます。(当社ホームページ、2021年度のhhcガバナンス委員会の活動状況参照

社外取締役が過半数を占め、議長が社外取締役である取締役会が、ステークホルダーズの代表者である社外取締役との重要な議論の場であると考えれば、執行系の代表としての取締役会への出席には入念な準備が必要であり、また、定款に規定された企業理念に基づいてなされる様々な指摘やアドバイス等は真摯に受け止め、経営トップとして業務執行に活かしています。

以上のように、今日のエーザイのCGの最大の特長は、取締役会の過半数を構成する独立社外取締役の存在と「hhcガバナンス委員会」を中心とした継続的、自律的なガバナンス充実の仕組みであることを理解していただけたと思います。

最後に、当社指名委員会の内規において、社外取締役候補者の選任基準に「企業理念への共感」という項目があります。定款に規定した企業理念は、取締役候補者の選任からはじまり、取締役の取締役会および各委員会における職務遂行まで、あらゆる場面での価値判断の基軸となっています。このように当社の企業理念であるhhc理念は、「患者様と生活者の皆様、株主の皆様および社員」という主要なステークホルダーズの価値増大のため、取締役を含め、社業に関わる全てのメンバーが、継続的な企業価値向上に向けて取り組む原動力であり原点であると考えています。

定款の第2条に記載されている<企業理念>
  1. 本会社は、患者様と生活者の皆様の喜怒哀楽を第一義に考え、そのベネフィット向上に貢献することを企業理念と定め、この企業理念のもとヒューマン・ヘルスケア(hhc)企業をめざす。
  2. 本会社は、日本発のイノベーション企業として人々の健康憂慮の解消と医療較差の是正という社会善を効率的に実現する。
  3. 本会社の使命は、患者様と生活者の皆様の満足の増大であり、他産業との連携によるhhc エコシステムを通じて、日常と医療の領域で生活する人々の「生ききるを支える」ことである。その結果として売上、利益がもたらされ、この使命と結果の順序を重要と考える。
  4. 本会社は、コンプライアンス(法令と倫理の遵守)を日々の活動の根幹に据え、社会的責任の遂行に努める。
  5. 本会社の主要なステークホルダーズは、患者様と生活者の皆様、株主の皆様および社員である。本会社は、以下を旨としてステークホルダーズの価値増大をはかるとともに良好な関係の発展・維持に努める。
  1. 未だ満たされていない医療ニーズの充足、疾患の啓発や予防に資する情報・サービスの提供、高品質製品の安定供給、薬剤の安全性と有効性を含む有用性情報の伝達
  2. 長期的な視野に基づく社会のサステナビリティへの貢献
  3. 株主共同の利益と長期的な企業価値の向上、積極的な株主還元、経営情報の適時開示
  4. 安定的な雇用の確保、人権および多様性の尊重、自己実現を支える成長機会の充実、働きやすい環境の整備
内藤晴夫氏

内藤晴夫
Haruo Naito
エーザイ株式会社 取締役 兼 代表執行役CEO
1975年エーザイ入社。取締役、研究開発本部長などを経て1988年代表取締役社長に就任。2014年に取締役兼代表執行役CEO就任。1998年に日本製薬工業協会副会長、2009年-2010年に国際製薬団体連合会会長、2012年-2014年に日本製薬団体連合会会長を歴任。2013年にロンドン大学より名誉学位を受領。英国から1999年にCBE、2014年にKBEの2回の名誉大英勲章を受章。

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