コーポレートガバナンスで
企業と経済の成長に向けた
ムーブメントを起こす
日本取締役協会 会長 冨山和彦
Message
コーポレートガバナンスで
企業と経済の成長に向けた
ムーブメントを起こす
日本取締役協会 会長 冨山和彦
Message
会長に就任して1年が過ぎました。
1年目の振り返りとして、日本取締役協会(以下JACD)の会員数は順調に増加し、委員会、研究会などの活動は頻度も参加者も大きく増やすことができました。これは世の中全体の流れとして、コーポレートガバナンスを学び考える重要性について、会社レベル、個人レベルの両方で意識が高まっていることを反映しているものと考えています。
重点項目として掲げていたトレーニングプログラムの充実については、専門の委員会を組織して大きくアップデートした新プログラムの検討を開始しました。また、活動のスコープを広げるという観点では、グローバル指向のスタートアップにとって重要な、ガバナンス体制、投資契約書などのストラクチャー、ストックオプションなどのインセンティヴスキームのグローバル標準化を目指した提言をまとめました。これはグローバルに飛躍する日本発ユニコーン企業がなかなか輩出されない現状において、我が国のベンチャー・エコシステムの環境整備を図るための提言としてもかなりのインパクトを与えるものと期待しています。
JACDの体制面においては、新たに理事に広瀬道明・東京ガス会長を迎え、新指名委員長に立石文雄・オムロン会長にご就任頂くなど、さらに充実した布陣となりました。
2年目の活動テーマについては、おかげさまでコーポレートガバナンスは、今や人口に膾炙する概念となり、現在、その実質化を巡る方法論についての論争はあるものの、それが不要であるかのような議論は無くなりました。JACDとしては、その実質化の鍵は、何より「担い手」、すなわち社外取締役、経営執行部のレベルアップ、そして機関投資家によるエンゲージメントの質の向上であると考えており、それを後押しする活動を強化していく所存です。
ガバナンスに関わる社内外の取締役及び取締役事務局の能力強化に関しては、新しくスタートする3階建て構造のトレーニングプログラムを実施し、これが一つの標準的なロールモデルプログラムとなることを目指しています。近い将来、全ての上場企業の取締役会関係者がこれと同レベルのトレーニングを受けるようになることを期待しています。
エンゲージメントについては、東証がフォローアップ委員会で提示したPBR1未満問題などを踏まえ、そこで企業が配当増・自社株買いや有休資産の売却などによる近視眼的、一過性の財務的マニピュレーションに終始するのではなく、より長期持続的な「稼ぐ力」の向上、成長に向けて的確な経営努力を行うことをエンカレッジする、本来的な意味でのエンゲージメントの充実が行われるためにどうすればいいかを、今年の重要活動課題の一つにしていきます。これは人的資本投資の開示も同様で、表層的なアリバイ作りではなく、人的資本の充実によって知識集約産業時代において重要な無形資産による収益力の強化につながらなければなりません。投資の大きな流れとしてインデックスなどのパッシブ運用が主流となるなか、企業収益の長期持続的な成長という、ガバナンスの真の目的にコミットする、エンゲージメントの担い手が空洞化するリスクはむしろ拡大しており、ここに大きな危機感を持つべきです。
もう1点、日本企業のほとんどが非公開企業、中堅中小企業であり、今やそうした企業群がGDP及び雇用の7割以上を生み出しています。こうした企業が持続的に生産性を上げ、収益力を上げ、賃金を上げていくうえで、コーポレートガバナンスの問題は重要な意味を持っています。創業オーナー家との関係など上場企業とは違った特性や課題を抱えている非公開企業のガバナンスについても研究・勉強の対象としていきます。会員の中には上場を予定していない非公開企業及びその関係者も多数おり、JACDとしてそうした皆さんの期待にも応えていきたいと思います。
(2023年5月15日 会員総会にて 日本取締役協会協会 会長 冨山和彦)