会長メッセージ

Message

激変する経済環境

本年に入り世界の経済は、コロナウィルス感染の蔓延により、企業活動は停止を余儀なくされ、結果としてGDPが大幅に下がるという、我々にとっては経験したことのない状況になりました。今日現在、コロナウィルス禍はいつ収束するか知ることはできません。世界の経済活動が再活性化するには、相当の期間を要することも覚悟しなければならないかもしれません。そしてこのような大規模災害から抜け出した後は、元のような経済社会に戻ることはないと思われます。

さて、このコロナ禍の渦中にある私共にとって、安全と経済回復が喫緊の課題であることは言うまでもありません。思い起こすと、日本が長年評価されてきた勤勉性と協調的精神は、結果として世界有数の経済力をもたらしました。このような緊急事態において、あらためて日本のidentityは社会性をもった経済力であることを再度認識する必要があります。

これからも日本の経済力を更に高めるには、各企業をイノベーションへ駆り立てるシステム構築への努力を続けることが必要であり、それを達成する一つの構成要素が、引き続きコーポレート・ガバナンスであることは間違いありません。

それはこれまで主張してきた、単に不祥事、不正防止といった負の監視組織のみでなく、また独立社外取締役や任意の委員会設立といった形式だけのものではない、大きな視野をもったコーポレート・ガバナンスを確立することが課題ということにもなります。

特に世界を視野に入れて活動する企業にとっては、経営者の強い成長への取組みと、独立取締役が中心になって経営陣に前向きなプレッシャーをかけることで、企業の中長期的な成長に役立てる、真のコーポレート・ガバナンスへと深化させることが必要条件になってきます。

今までのコーポレート・ガバナンス

これまでの日本企業の多くは失われた20年以降、それなりの回復は見せたものの、世界を席巻してきた過去の姿には程遠くなってきました。私共はこの現状を座視するのではなく、能力の限りを尽くしてこれを前向きに変化させ、再び世界の中核を占める方向に歩みたいと思います。

ウィルス感染症による国家危機の中、各国のリーダーはその指導力を大いに発揮し存在感を高めた一方、その資質に疑問を持たれるケースも見受けられ、今回ほど国家機能におけるリーダーの役割の重要性をあらためて認識したことは、久しくありませんでした。

企業経営においても同様で、これから究極的には、いかに時代に適したCEOを選び、存分に活躍を促し、企業を前向きに躍進させうるか、コーポレート・ガバナンスの実質的な機能が問われます。従来の常識を更に一歩進めた考え方が必要であり、独立取締役を交えた指名委員会やサクセッションプランがますます重要になってきます。

その中で、従来はそのような取り組みに対し保守的であるとみられた大企業の中から、コーポレート・ガバナンスの目的を企業の成長と捉え、経営の中核とする企業がみられるようになりました。独立した取締役が常に経営者の業績を監視し、目標の到達に経営努力を重ねるような仕組みを作り上げ、将来の成長が大いに期待できるようになってきた動きがあります。大変嬉しいことであり、これら企業が日本全体に良い影響を与えることを期待したいものです。

日本取締役協会は、昨年から今年にかけて引き続きコーポレート・ガバナンスを企業の成長を後押しする仕組みと捉え、法制度、証券市場、投資家、企業等多くの分野で知見を深め、提言等行ってまいりました。特に経営者、独立取締役についての在り方、役割を概念ではなく実務において個別、具体的行動、例えば取締役の監督とは何をするのか、何をすべきでないのか、経営者は何を目標とすべきかなどを議論し、行動の指針をまとめました。

これからのコーポレート・ガバナンス

コーポレート・ガバナンスの実態は、各国によって企業の位置付けや経営者の行動様式により違いがあるのでしょう。経営者の暴走を食い止めるもの、不祥事を防止するためにコーポレート・ガバナンスを活用している国もありますが、日本において当分は、やはり企業の稼ぐ力や成長を後押しする仕組みとして認識、行動する必要があると感じます。

これからの企業活動においては、従業員や環境など他のステークホルダーを考慮する、所謂SDGsの考え方、いうならば広い社会性を、企業に求められる収益力と成長力にどう組み込むかが問われることになります。

特に感染症収束後の日本の企業は、経営者の大胆な変革、イノベーションは必須であり、それを判断、実行する経営陣の役割はますます重要になってきます。実行した事柄を分かり易く説明し、これでよいのかを再認識する意味でも、独立取締役が市場の目をもって後押ししていくコーポレート・ガバナンスは、経営陣の大きな味方にもなってくれます。

はしなくも今回のコロナ禍は、ガバナンスに対する新しい考察を我々に求めているのかもしれません。それは企業の社会性とガバナンスの在り方なのでしょう。ほんの一例にすぎませんが、マスク関連企業が高価販売で利益をあげることは許されるのでしょうか。治療薬を作るメーカーの過大な利益は、許されるのでしょうか。あるいは、数多くの従業員を解雇してもよいのでしょうか。また売上減少で倒産に瀕した企業を国が救済することは、どこまで是とできるのでしょうか。これらこれまでコーポレート・ガバナンスの目的である、企業の中長期成長という観点のみからでは、解けないテーマが出てきたように思われます。こうした事例にも、我々の関心を向けねばならない。それを無視して、本当の成長は語れないようにも思えます。

今後の世界においては、自然災害や感染症、地政学リスクは避けられません。過去日本企業は、戦後復興をはじめ多くの困難を乗り越えてきたスピリットを持っています。困難の時こそ、リーダーの能力に差が出ます。日本の経営者は苦境をチャンスと捉え、企業を発展させる上で、このようなコーポレート・ガバナンスを自社の成長の仕組みに組み込み、活動することが期待されます。

日本取締役協会は、こうした考えに沿った活動を今後も続けてまいりたいと存じます。会員の皆様、関係機関の皆様のご理解と引き続きのご支援を賜りますよう、お願い申し上げます。

(2020年6月17日 第17回会員総会 会長所信より)