2024年8月19日
熊谷五郎(みずほ証券グローバル戦略部産官学連携室 上級研究員、日本証券アナリスト協会企業会計部長)
株価を一株当たり純資産(Book Value Per Share BPS)で割った指標のこと。PER(株価収益率)と並んで最もポピュラーな株価指標である。近年、PBRに注目が集まっているのは、日本企業の資本コストと資本生産性に注目が集まっているからである。 2023年3月、東京証券取引所が上場企業に資本コストと株価を意識した経営を要請した背景に、PBR1倍割れ問題があったことは記憶に新しい。この要請を契機に、海外投資家からの日本株見直し買いが入り、日本株の本格的上昇が始まった。
資本コストは投資家が投資先企業に対して期待するリターンと定義される。資本コストには、株式コストと負債コスト、及びその両者の加重平均資本コストがある。紙幅の関係もあり、厳密な議論は省略するが、資本生産性と資本コストが等しい時、PBR=1となる。また、資本生産性が資本コストを上回る時にPBR>1、逆に下回る時にPBR<1となる。すなわち、PBR1倍割れの企業が過半を占めるという状況は、多くの日本企業が投資家の拠出した資本を使って、期待される収益を達成していないことを意味している。
資本生産性を示す代表的な指標に株主資本利益率(Return on Equity ROE)、投下資本利益率(Return on Invested Capital ROIC)がある。ROICについては次回解説するが、ROEは普通株主に帰属する当期純利益を純資産、つまり株主資本で割った指標である。ROEと比較すべき資本コストは、株主資本コストである。PBR1倍割れとは、ROEが株主資本コストを下回っているという意味になる。
企業経営者が自社の株価を直接的に左右することはできない。できるのは、投資家の期待に働きかけることである。その意味でディスクロージャー、IR、投資家との建設的対話が重要になる。しかし、投資家が将来の期待を形成するにあたって、企業の過去の財務パフォーマンスが非常に重要なファクターとなる。投資家の期待形成にあたって、企業の利益成長率は重要なファクターである。外部資金を調達せず内部資金のみで新規投資を賄う場合の利益成長率を内部成長率と呼ぶが、内部成長率=ROE×(1-配当性向)と定義される。また、ROEは総資産回転率、売上高利益率、レバレッジ(負債資本比率)の積に分解できる。これらは、全て経営管理上、重要な財務比率である。すなわち、ROEは経営者が管理ないしは経営目標として設定できる指標なのである。
経営者は、自社のPBRが資本コストと資本生産性の関係を反映する指標として十分に意識する必要がある。PBR<1という状態が長年にわたって常態化しているとすれば、それは短期的に小手先の施策で解決すべき課題というより、まさに長期的視野に立って解決すべき課題である。PBR1倍割れを解消するためには、短期的に資本生産性が資本コストを上回れば良いのではなく、そうした状態が長期的にわたって持続する必要があるからである。その意味で、PBR、資本コスト、資本生産性は、長期的視点でモニターし、管理・目標とすべき指標であると言えよう。
熊谷五郎
(みずほ証券グローバル戦略部産官学連携室 上級研究員、日本証券アナリスト協会企業会計部長)