DCF法とは、企業が事業用資産を用いて生み出されるキャッシュフロー(CF)に基づく、企業価値評価法のことである。企業は株主と債権者から提供された資本をもとに、事業資産に投資し当該資産を使って商品を製造販売、またはサービスを提供することでCFを生み出す。企業は、収益と売上原価・販売管理費の差額である営業利益から、債権者に対して利息を支払った上で法人税を支払う。この残余である(税引後)当期純利益は株主に帰属することになる。
当期純利益に非現金支出である有形固定資産の減価償却費やのれん等無形資産の償却費を足し戻したものがCFである。さらに事業活動水準を維持するのに必要な、一定の設備投資額、運転資本への投資を差し引いたものを「フリーキャッシュフロー(FCF)」と呼ぶ。経営者はFCFを自らの裁量で、成長のための投資、配当・自社株買いなどの株主還元または債権者への元本返済に充てることができる。この将来にわたるFCFの現在価値が事業価値である。
DCF法は、大きく分けて①FCFの予測、②割引率(WACC)の推定、③ターミナル価値(TV)の推定の3要素からなる。
①FCFとは、企業の事業活動によって創出されるCFから事業活動水準を維持していくのに必要な一定の設備投資、運転資本への投資を差し引いて求める。FCFの予測期間は実務上5-10年程度とすることが一般的である。
②全てのFCFは、最終的には株主または債権者に帰属する。したがって予想FCFを割引くにあたって適切な割引率は、株主資本コストと負債コストを時価加重した加重平均資本コスト(WACC)=r である。
③TVは予想期間終了次年度から将来にわたるFCFの現在価値である。予想最終年度tのFCFtが、翌t+1年度以降、毎年g%で永久に成長する仮定する。このgを永久成長率と呼ぶ。ここで、前回解説した定率成長DDMを応用すると、時点tにおいて、TV=FCFt+1/(r-g)となる。TVは、t+1年度以降のFCFの時点tにおける現在価値であるので、時点0の現在価値とするために、さらに(1+r)tで割引く。
予測期間のFCFの現在価値とTVの現在価値合計が、事業から生み出されるFCFの現在価値=事業価値である。事業価値と非事業資産価の合計が企業価値である。企業価値のほとんどは事業価値であるので、企業価値を高めるには、いかにFCFを高めるかつまり事業戦略が重要ということになる。
企業価値は、株主帰属分と債権者帰属分に分割できるが、債権者帰属分である有利子負債は、FCFに加え企業が保有する現預金で返済できる。つまり企業価値から純有利子負債を差し引いた残余が株主価値(株主価値=企業価値―純有利子負債)ということになる。このようにDCF法は株式評価にも応用できるが、DCF法であれDDMであれ、将来CFを適切な割引率で割引くという構造は全く同じである。
熊谷五郎公益社団法人日本証券アナリスト協会 企業会計部長
東京大学金融教育研究センター 招聘研究員