取締役会5原則とCGガイダンス

2026年2月10日

鮫島大幸(経済産業省 経済産業政策局 産業組織課長)

[ 雑誌「コーポレートガバナンス」Vol.20 - 2025年12月号 掲載 ]

コーポレートガバナンス(以下「CG」)は、企業が「稼ぐ力」の強化に向けて自社の競争優位性を伴った中長期目線での成長戦略を構築し、事業ポートフォリオの組替えや積極的な成長投資等の適切なリスクテイクを行うことを通じて成長戦略を実行する「攻めの経営」に取り組むための基盤である。CGの取組みが政府の成長戦略として位置づけられてから約10年が経過し、社外取締役数の増加、指名・報酬委員会の設置など、取組みは着実に進む一方で、形式的な体制の整備にとどまっている企業も多いとの指摘もあり、企業の課題である「稼ぐ力」の強化に向けて、CGの取組の一層の「深化」が求められている。

このような背景の下、経済産業省では、昨年9月に「『稼ぐ力』の強化に向けたコーポレートガバナンス研究会」(座長・神田秀樹 東京大学 名誉教授)を立ち上げ、本年4月30日に「『稼ぐ力』を強化する取締役会5原則」(以下「取締役会5原則」)と「『稼ぐ力』の強化に向けたコーポレートガバナンスガイダンス」(以下「CGガイダンス」)を策定した。

CGガイダンスは、企業の「稼ぐ力」の強化に向けたCGの取組の支援を目的としており、取組の前提となる考え方、取組の進め方、検討ポイント・取組例および企業事例を整理することで、各社に自律的な取組を行う際の参考として活用22されることを想定している。なお、CGガイダンスはTOPIX500を構成する企業を主な対象としている。また、取締役会5原則はCGガイダンスの主要メッセージを抜粋したものである。以下、これらの概要について解説する。

取締役会5原則

取締役会5原則では、「稼ぐ力」の強化に向けた企業経営を行う上で、取締役会が踏まえるべき内容についての5つの原則を策定し、これらと対比する形で、「経営陣がとるべき行動」も整理している。取締役会やCEOら経営陣は、常日頃から各原則・とるべき行動を意識し、実践することが期待される。ただし、これらはあくまでエッセンスを示したものであるため、各社において議論を重ね、具体的な形に落とし込んでいくことが重要となる。

原則1は、「自社の競争優位性を伴った価値創造ストーリーを構築する」こととしている。一般に、価値創造ストーリー(1)の案は、経営陣が策定することになるが、それを基に取締役会でも議論を重ね、株主・投資家との対話も行いながら磨き上げ、経営環境の変化に応じて随時アップデートを行っていく必要がある。

価値創造ストーリーの実現に向け、原則2は、「事業ポートフォリオの組替えや成長投資等、適切なリスクテイクを行うよう、後押し」することとしており、取締役会は具体的な行動が十分でない場合は経営陣に行動を促し、逆に過度なリスクテイクについては抑止することとしている。

また、原則3では、「取締役会自体が短期志向に陥らないよう留意しつつ、経営陣が、中長期目線で、成長志向の経営を行うよう、後押しする」こととしている。

原則1から3を実行していくための前提として、原則4では、「マイクロマネジメントとならないよう留意しつつ、経営陣の意思決定過程・体制が、迅速・果断な意思決定に資するものとなるよう促す」こととしている。

原則5では、「最適なCEOの選定と報酬政策の策定」を行うこととし、取締役会は選定後もCEOの評価を通じて、期待通りのパフォーマンスを発揮しているかを検証し、CEOも評価結果を踏まえて改善を行いながら、価値創造ストーリーの実現に邁進することが重要となる。

CGガイダンス

CGガイダンスでは、上記の取締役会5原則を土台とし、取締役会やCEOら経営陣が「稼ぐ力」の強化と企業経営・CGの関係やCGの取組の全体像を把握した上で、「自社におけるCGの在り方」を整理しつつ、具体的な「CGの体制・仕組み」を検討することで、実効的なCGを構築することが望ましいとしている。

「3.『稼ぐ力』の強化に向けたCGの取組の進め方」においては、「稼ぐ力」の強化、すなわち、中長期的かつ持続的な収益性・資本効率の向上に向けては、自社の競争優位性を伴った価値創造ストーリーを構築した上で、事業ポートフォリオの組替えや成長投資を実行することが不可欠であるとし、そのためには取締役会とCEOら経営陣がそれぞれの役割に応じて機能を発揮する実効的なCGを構築し、株主・投資家との対話を行っていくことが重要であると整理している。

また、CGの実効性を高めるため、①CEOら経営陣による業務執行をさまざまな側面から支える取締役会の構築、②価値創造ストーリーを立案・実現できる強靭な経営チームの組成、③ CGの実効性・持続性を担保する評価・検証の仕組みの構築に取り組んでいくことが重要となる。

「4.検討ポイント/取組例」においては、「自社におけるCGの在り方」(CGの位置づけ、取締役会とCEOら経営陣の役割分担等)及び「CG体制・仕組み」(取締役会、指名委員会、報酬委員会、CEOら経営陣、事務局等)について、それぞれ「稼ぐ力」の強化の観点から重要と考えられる内容を「主な検討ポイント」として、その一例を「取組例」として示している。

上記については、単にチェックボックス化するのではなく、取締役会およびCEOら経営陣が「稼ぐ力」の強化の観点から、自社におけるCGの在り方を議論した上でこれを共有・明確化し、実効的なCGの実現のために何にどのような順番で取り組むかを検討し実行することが求められる。

NOTE
  1. 長期的に目指す姿の実現に向けて、どのようなビジネスモデルを通じて、どのような社会課題を解決し、どのように長期的な企業価値向上に結びつけていくかについての一連のストーリー。
鮫島大幸氏

鮫島大幸Hiroyuki Sameshima
経済産業省 経済産業政策局 産業組織課長
1999年通商産業省(現 経済産業省)に入省後、大臣官房、経済産業政策局等のポストに加え、金融庁への出向や、国務大臣の秘書官等を歴任。直近では、2023年から中小企業庁の取引課長として、下請法改正等の担当を経て、2025年7月より産業組織課長に就任。

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