コーポレートガバナンス・コード改訂の概要

2026年9月 8日

小長谷章人(金融庁 企画市場局 企業開示課長)

[ 雑誌「コーポレートガバナンス」Vol.22 - 2026年8月号 掲載 ]

成長投資の促進に向けて

本年7月21日、コーポレートガバナンス・コードの改訂版が発表された。2015年の適用開始以降、2018年、2021年に続いて、今回で3度目の改訂となる。本コードは、企業におけるリスクの回避・抑制や不祥事の防止といった「守りのガバナンス」だけではなく、企業の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を図ることに主眼を置いており、会社の迅速・果断な意思決定を促すことを通じて企業の「稼ぐ力」の向上に向けた、いわば「攻めのガバナンス」の実現を目指すものである。この考え方の重要性は、本コード適用開始から現在でも変わらず、むしろその重要性は増している。

本コードのもとで、我が国のコーポレートガバナンス改革には一定の進捗が見られる一方、形式的な対応にとどまることなく、企業と投資家の双方の取組みにおけるコーポレートガバナンス改革の実質化が重要との指摘がなされている。今般の改訂は、企業が中長期的な価値向上に向けた本質的な取組みに注力できるよう後押しすることを目的として行ったものであり、本稿では、主な改訂内容と考え方について解説する。

主な改訂内容

本コードの改訂版(以下「改訂版コード」)では、全体の構成を見直している。改訂前の本コードでは合計83個の基本原則・原則・補充原則すべてがコンプライ・オア・エクスプレインの対象とされていたが、累次の改訂により原則等の数も増加傾向にある中で、企業の対応が実質化されることが重要との指摘もなされていた。これを踏まえ、本改訂では、企業がより本質的な取組みに注力できるよう後押しする観点から、コンプライ・オア・エクスプレインの対象となる原則の内容を概念的かつ抽象的なものに限定し、各原則への対応を支援するための具体的な内容や趣旨を記載した「解釈指針」を新設した。今般の改訂は、プリンシプルベースの精神に立ち返るための、いわば「コードの実質化」を狙いとしており、企業においては、自社の置かれた状況に応じ、各原則の趣旨・精神に沿った実践を行うことが期待される。

また、改訂版コードでは、本コードの趣旨・精神を再周知する観点から序文を新設した。序文では、本コードは市場における中長期の投資を促す効果をもたらすことも期待していること、原則をコンプライする場合・しない場合のいずれであっても、その理由を丁寧に説明することが投資家との建設的な対話に資すると考えられること等を記載している。

以下では原則等における主な改訂内容を紹介する。

まず、経営資源の配分に関してである。企業が持続的に成長していくためには、専ら株主還元に頼るなど短期目線でふるまうのではなく、会社の目指すところに向けた成長の道筋を構築した上で、自社の成長フェーズを考慮しつつ、適切な経営資源の配分を行う必要がある。こうした観点から、改訂版コードでは、取締役会の役割・責務として会社の目指すところに向けた成長の道筋を構築すべきこと、成長投資や事業ポートフォリオの見直し等の経営資源の配分に関し具体的に何を実行するのかを説明すべきこと、適切な経営資源の配分が実現されるよう、Opinion不断に検証を行うべきことを強調している。

次に、独立社外取締役についてである。近年、取締役会における独立社外取締役の割合や数は増加し、その主たる役割・責務である監督機能をより効果的に果たすための環境が整いつつある。一方、そのような役割・責務を果たすことのできる資質を十分に備えた人物を選任することが重要との指摘も踏まえ、改訂版コードでは、独立社外取締役に求められる役割・責務について具体例を挙げて説明するとともに、その質の確保の重要性を強調している。なお、独立した立場から監督を行う取締役会の役割からすれば、いずれはプライム市場上場企業について過半数の独立社外取締役が選任されるべきとの指摘や、一定の場合には、独立社外取締役が議長を務めることで、取締役会の役割がより実効的に果たされるとの指摘もある。

また、取締役会の審議の活性化に向けては、議長や取締役を支援する取締役会事務局(コーポレートセクレタリー等)の役割が重要であり、改訂版コードでもその重要性が強調されている。もっとも、その趣旨は、専任組織等の設置を一律に求めるものではなく、各社において取締役会が自らの在り方について不断に検討を行い、これに基づいて自社の取締役会事務局はどうあるべきかを考え、実践することが重要と考えられる。

なお、改訂版コードと同時に、具体的な取組み事例を収集した「取締役会の機能強化の取組みに関する事例集2026」も公表されており、各社において必要に応じて参照し活用することが期待される。

最後に、有価証券報告書の定時株主総会前の開示については、改訂版コードの原則において株主総会における権利行使に係る適切な環境整備の重要な例として記載されるとともに、総会開催日の3週間以上前に提出されることが最も望ましい旨が解釈指針で記載されている。なお、この点に関する留意事項として、金融庁は、法務省とも連携しつつ、法制審議会において議論されている有価証券報告書と事業報告等の一本化等の制度的な検討も並行して進める旨が序文において記載されている。

金融庁・東京証券取引所は、今後、改訂版コード及び2025年6月に改訂されたスチュワードシップ・コードの実施状況を確認する等、両コードのフォローアップを継続していく。

改訂版コードを踏まえ、投資家と企業との間で建設的な対話がさらに促進され、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上が実現されることを期待し、本稿の結びとする。

小長谷章人氏

小長谷章人Akito Konagaya
金融庁 企画市場局 企業開示課長
2002年金融庁入庁。これまで、金融機能強化法の策定、バーゼルⅡ及びⅢの国内実施、金融商品取引法の改正(外部協力者に対する課徴金の導入、投資型クラウドファンディングに係る制度整備等)、コーポレートガバナンス・コードの策定、金融サービス提供法の改正(金融サービス仲介業の創設)などに携わる。2025年7月より現職。

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