広がる 「親子上場」を 解消する動き

2026年4月10日

井伊重之(経済ジャーナリスト、産経新聞 客員論説委員)

[ 雑誌「コーポレートガバナンス」Vol.20 - 2025年12月号 掲載 ]

企業統治が促す資本構造改革

親会社と子会社が揃って株式上場する「親子上場」を解消する動きが広がっている。親子上場している企業数は、ピークだった2006年度から6割近くも減少し、今年9月末で168社となった。親子上場を巡っては、親子間の取引で親会社の利益が優先され、子会社の少数株主の利益が毀損される構造的な弊害が指摘されてきた。最近では東京証券取引所が上場会社に資本コスト経営を要請したことで、親会社の資本効率が厳しく問われるようになり、親子上場の解消が急速に進んでいる。親子上場を解消した子会社はその後、業績が好転して株価も上昇する傾向があり、投資家の間では親子上場を解消しそうな子会社銘柄を物色する動きも広がっている。

野村資本市場研究所が調査した24年度末時点での日本の親子上場企業数は、23年度末から11社減少して179社となった。これで親子上場企業数の2ケタ減は5年連続となり、ピーク時に比べて親子関係にある上場企業数は4割強まで減少した。これは1990、91年度の180社を下回り、36年ぶりの低い水準である。今年4月以降も親子上場の解消は進んでおり、9月末までの半年間でさらに11社が解消。その一方で長期わたって親子関係を継続している上場企業も多く、昨年度末段階で10社以上が40年以上も親子上場しているという。また、20年以上にわたって親子上場している企業も3分の1に及ぶという。

NTTは今年5月、東証プライム市場に上場していた子会社のNTTデータグループを完全子会社化し、親子上場を解消すると発表した。NTTはNTTデータグループの発行済み株式58%を所有する支配株主だったが、株式公開買い付け(TOB)を通じて残りの全株式を取得し、9月には正式に完全子会社した。これに伴ってNTTデータグループは上場廃止となり、東証2部から数えて約30年にわたる上場会社としての歴史に幕を閉じた。同社は官公庁や金融機関向けのITサービスを展開し、年金データなど社会保障システムで実績がある。特に最近ではデータセンター事業が好調に推移している。今年3月期決算の連結売上高は約4.6兆円に達し、NTTグループ全体の3割ほどを占める中核子会社として活動してきた。

しかし、NTTの島田明社長は「NTTにもNTTデータグループにもそれぞれ株主がいて、資本関係が複雑化していた。その結果、経営判断などに関するグループの意思疎通を図るのに時間がかかっていた」と振り返り、グループ全体の経営判断を迅速に下すために親子上場の解消を図ったことを明らかにした。今後は需要が見込まれるデータセンターの増設などに早めの経営判断を下し、成長機会を増やす戦略だ。NTTグループでは携帯子会社のNTTドコモを20年にTOBで買収し、完全子会社化している。このTOBには4兆円以上が投じられたが、NTT首脳は「高配当株として知られていたドコモの豊富な資金が配当として外部に流出するのを防ぐ狙いもあった」と話している。

日本の大手企業で親子上場の解消を巡って先頭を走ってきたのが日立製作所である。2009年3月期に当時の製造業として過去最大の赤字を計上した同社は事業構造改革を決断。最大で22社あった上場子会社を段階的に減らし、最終的に23年にはゼロとした。このうち完全子会社化したのは7社あったが、ほかの事業会社や投資ファンドに売却もした。この中には日立金属などの「御三家」と呼ばれる名門企業も含まれていたが、「グリーン」「デジタル」を本業の柱に位置付け、本業と関係の薄い事業は積極的に切り離すなどの措置を講じた。特に同社はデジタル事業の強化で業績を伸ばしており、上場子会社を切り離してもグループ全体の売上高は増えている。総合電機と呼ばれるNECや富士通も親子上場の解消を進めているが、これも日立の構造改革がモデルになっている。

一方、親子上場の構造的な問題事例として指摘されるのが日本郵政グループだろう。持ち株会社である日本郵政と、その金融子会社のゆうちょ銀行・かんぽ生命はそれぞれ上場しており、親子関係にある。日本郵政はゆうちょ銀行の約6割、かんぽ生命の約5割の株式を保有する支配株主である。その日本郵政は政府が3分の1超の株式を保有しており、政府が会社支配権を握っている。このため、政府が日本郵政を通じ、ゆうちょ銀行とかんぽ生命から利益を徴収する構図が形成されている。このため、郵政民営化法ではこれら金融2子会社の日本郵政の持ち株を早期に売却し、完全民営化することが盛り込まれている。だが、最近ではこの親子関係を継続し、業績が悪化している日本郵便の支援に充てることも検討されている。これは金融子会社の少数株主保護やガバナンスの面からも多くの課題を残すことになりそうだ。

日本と欧米の上場会社の株主関係を見ると、その違いは明確だ。日本では事業法人が上場会社の株式を保有する場合が相対的に多く、上場会社がほかの上場会社の株式を20%以上保有し、支配株主となる事例が3割以上見られる。これに対し、欧米では機関投資家が上場会社の株式を保有する場合が多く、事業法人が株主となるのは全体の5%程度に過ぎない。特に欧州では創業家や資産管理会社が上場会社の株式を所有する事例もあり、親子上場は少ないようだ。

日本の親子上場を巡る最近の論点としては、その対象範囲が上場企業同士の親子関係から上場・非上場を問わない支配株主、そして親子関係までには至らない持分法適用会社にまで拡大している。東証ではグループ経営に関する開示対象について、親子関係だけではなく、支配的な関係がある企業などにも拡大し、詳細な情報開示を求める考えだ。そして投資家から好評だった開示事例も25年度中に公表する方針だ。東証による情報開示要求は「何のために上場しているのか」という根源的な問いかけにもつながり、親子上場のさらなる解消を促す契機になるのは確実だ。それは日本企業の企業価値を向上させ、国際競争力を高めるのに必要な取り組みと言える。

井伊重之Shigeyuki Ii
経済ジャーナリスト、産経新聞客員論説委員
コーポレートガバナンスに関する論考多数。政府の審議会委員なども歴任。

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