略語「超」解説:RIM(残余利益モデル)

2026年4月10日

熊谷五郎公益社団法人日本証券アナリスト協会 企業会計部長
東京大学金融教育研究センター 招聘研究員

[ 雑誌「コーポレートガバナンス」Vol.20 - 2025年12月号 掲載 ]

RIM(残余利益モデル)過去2回にわたり、代表的な株式価値・企業価値評価モデルであるDDM、DCFモデルについて解説してきた。今回はややマニアックであるが、RIM(Residual Income Model、残余利益モデル)について解説する。

RIMは、DDMやDCFモデルと比較して、以下の特徴がある。

  1. 財務諸表上の確定値である、1株あたり純資産(BPS)を明示的に取り込んでいる。
  2. 株価と資本コスト(Re)、資本効率(ROE)の関係を明示的に含んでいる。

さて当期純利益は、従業員、サプライヤー、債権者、政府等、株主以外の利害関係者に対して支払うべき対価を支払った後に残る利益で、株主に帰属する。残余利益とは、当期純利益から、さらに株主資本コストに見合う利益を株主の正当な取り分として差し引いた後に残る利益である。

前期末純資産は、前期末時点で株主が拠出した株主資本である。これに株主資本コストReをかけたものが、「株主資本コストに見合う利益」である。残余利益とは、それを上回って創造された企業価値で、やはり株主に帰属する。したがって、当期の残余利益は、

残余利益=当期純利益−前期末純資産×Re   ー (1)

と書くことができる。ここでROE(株主資本利益率)=当期純利益/前期末純資産とすると、

当期純利益=前期末純資産×ROE   ー (2)

と書ける。(1)、(2)より、

残余利益=前期末純資産×(ROE-Re)  ー (3)

(3)式で前期末純資産は債務超過でない限り正の値を取ることから、ROEが株主資本コスト(Re)を上回れば残余利益はプラス、逆に下回る場合には残余利益はマイナスとなる。ここで、今日の(時点0における)株価をP0、前期末1株当たり純資産をBPS0t期残余利益をRIt、株主資本コストをReとしよう。この時、

  ー(4)

RIMとは(4)式のことで、株価が前期末BPSに将来残余利益の割引現在価値合計を加えたものであることを意味している。

また(3)式より、(4)式右辺第2項の符号は、ROEとReの大小関係で決まる。したがって、ROE>Reであれば、株価はBPSを上回り(つまりPBR>1)、ROE<Reなら株価はBPSを下回る(PBR<1)ことになる。

すなわちPBR>1の状態とは、当該企業が株主の期待以上に企業価値を創造して、株主の富を増大させているということを示唆している。逆にPBR<1の状態とは、資本市場参加者が、当該企業の将来残余利益がマイナス、つまり企業価値が毀損されていると懸念していることを意味している。

残余利益をプラスにするには、資本効率を高め、資本コストを上回る必要がある。そのためには、ROICツリーなどの手法が有効である。

このようにRIMは、企業が株価や資本コスト、資本効率を意識した経営を実践するにあたり、理論的な根拠、有意義な示唆を提供しているのである。

熊谷五郎公益社団法人日本証券アナリスト協会 企業会計部長
東京大学金融教育研究センター 招聘研究員

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