略語「超」解説:IRR(内部収益率)

2026年8月10日

熊谷五郎 公益社団法人日本証券アナリスト協会 企業会計部長
東京大学金融教育研究センター 招聘研究員

[ 雑誌「コーポレートガバナンス」Vol.21 - 2026年4月号 掲載 ]

IRR(Internal Rate of Return、内部収益率)は、「投資プロジェクトや投資の将来キャッシュフローの現在価値が初期投資額と等しくなる割引率」、同じことであるが「ある投資プロジェクトの正味現在価値(Net Present Value, NPV)をゼロとする割引率」と定義される。

IRRはNPVとともに、企業の設備投資(資本支出)に関する意思決定に用いられるが、IRRが投資プロジェクトの収益率を表すのに対して、NPVはある投資プロジェクトによって創出される新たな企業価値を絶対額を示す。IRRとNPVにはそれぞれ長所、短所があり、実務的にはIRRとNPVの併用が望ましい。

企業価値極大化という観点からは、投資プロジェクト候補のNPVを大きい方から順番に並べ、NPVがプラスのプロジェクトを全て選択し、マイナスのプロジェクトは棄却するというのが基本ルールである。NPVの計算には、投資プロジェクトにより創出される将来キャッシュフローを現在価値に割引くために、資本コスト=割引率の推定が欠かせない。NPVは複雑なキャッシュフローを持つ投資プロジェクトであっても、その優劣を比較できるという長所がある一方、推定された資本コストに敏感で、推定値の微小な変化によってNPVの符号がプラスからマイナスに変化しうるという欠点がある。

それに対してIRRは資本コストの推定なしに、投資プロジェクトのIRRの大小を比較でき、直感的に理解しやすいという利点がある。したがって、投資案件の初期スクリーニングや迅速な意思決定を求められるような局面では使い勝手が良い。

その一方でIRRは、プロジェクトから新たに生み出される企業価値の絶対額については何も語らない。初期投資額の等しい2つのプロジェクトであれば、単純にIRRの大きな方を選べば良い。しかしIRRは大きいが相対的に規模の小さいプロジェクトとIRRは小さいが相対的に規模の大きいプロジェクトとの比較では、どちらを選択すべきか必ずしも自明ではない。

また、初期投資に加えて将来追加投資が予定されるプロジェクトでは、将来キャッシュフローが年によってプラスになったりマイナスになったりすることがあり得る。このような複雑なキャッシュフローを持つプロジェクトでは、IRRが複数個存在し、プロジェクト間の比較が困難になる。それに対して、どのような場合でもNPVは必ず単一の値として計算されるため、常にプロジェクトの優劣を比較することができる。NPVとIRRが競合する場合は、常にNPVが高いプロジェクトを選択すべきである。

一方、IRRが資本コストを上回る場合には、NPVは必ずプラスになる。資本コストの推定には誤差を伴い、NPVが資本コストに対して敏感に反応することを考えれば、IRRと資本コストの差が大きいほど、安全余裕度が高いと言える。NPVはプラスでも、IRRと資本コストの差が小さいプロジェクトについては慎重な評価が必要である。このように実務的にはNPVとIRRを補完的に用いることで、経営者はより良い投資案件の評価、意思決定が可能になると言えよう。

熊谷五郎公益社団法人日本証券アナリスト協会 企業会計部長
東京大学金融教育研究センター 招聘研究員

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