サッカーW杯初戦、強豪オランダを相手に日本代表がラスト一分で同点に追いついた瞬間の、七万人の熱気と興奮が今も忘れない。その余韻を胸に、私はダラスから羽田に向かう機中にいる。キリングループが日本サッカー協会を応援し始めて間もなく半世紀、私自身も、日本代表を心より応援している1人である。現地での初戦観戦はロシア大会、カタール大会に続いて今回が3度目であった。驚いたのは大勢の他国の観客が日本に声援を送っていたことである。取られても取り返す。最後の1分、ピッチに立つ選手たちは、その瞬間まで勝負を捨てていなかった。胸を打たれないはずがない。
私にとっての世界大会は、海外投資家との対話である。北米、欧州、アジアを回り、今年はロンドンを中心に訪問した。社長に就任以来、どんなに忙しくても、業績が厳しい時でも、毎年欠かしたことはない。経営者の皆さんも同様に実践されていると思うが、信頼はこうした不断の積み重ねの上に成り立つものである。
投資家との対話は決してEasyではない。事業ポートフォリオの転換を目指した新規事業への挑戦は、なかなか実績が出ず、CEOとしての責任を厳しく追及された時期もあった。だからこそ、短期の業績ばかりに満足せず、企業が将来目指す姿を自らの言葉で語り続け、理解を得ていくほかに道はない。この積み重ねの結果、今年は私たちが進めてきた変革に対する投資家の評価の高まりを実感している。経営者の評価は、順調な時だけではなく、困難な局面における向き合い方も重要視されると思う。
日本のコーポレートガバナンスはいま節目にある。会社法改正の議論も、制度論にとどまらず、企業の持続的成長をいかに実現するかという本質に向き合うものでなければならない。各社の置かれた環境は異なるが、日本の底力を示す好機でもある。日本取締役協会として、会員企業の皆様とともに「最高の景色」を目指していきたい。
キリンホールディングス株式会社
代表取締役会長CEO 最高経営責任者
磯崎功典