企業価値向上への本質を見極めるべし、天守は盤石か?

2023年5月21日

常石哲男(東京エレクトロンデバイス株式会社 取締役)

[ 雑誌「コーポレートガバナンス」Vol.12 - 2023年4月号 掲載 ]

日本のコーポレートガバナンス議論はさらに盛り上がり、コーポレートガバナンス・コード(CGC)の改定と共に取締役会の実効性向上、また社外取締役の数やその構成比率などが議論される。しかし、良きコーポレートガバナンスは、何のため?また取締役会の実効性は何で量る?と問いただすに、それは短中長期的、持続的に企業価値(つまりは株主価値、ステークホルダー価値)が成長しているかどうかということに、異論がある人はいないはずである。とすると、もし企業価値が何年も停滞し、資本市場でも低評価、また、時価総額も向上していないとなれば、それは取締役会の実効性にも問題がある、また正しい企業ガバナンスが構築されていないと批判を受けても、抗弁しにくいのではないか。

一方でCGCにはほとんどの原則にコンプライし、フルボード中、独立社外取締役が大半を占め、指名・報酬委員会などは委員長も含めて社外独立役員であり、そして多様性という意味でも種々の専門知識や経営分野を経験してきた著名な知識人で構成されている取締役会ならば、その企業の価値は劇的に向上の方向にあるかという問いにどう答えられるかも、なお悩み深い日本のコーポレートガバナンス論議の本質論ではなかろうか。

最近では、日本企業の稼ぐ力、成長する力、グローバルな競争力という意味で、政府も何とか失われた30年?を劇的に改善し再度世界で戦える日本経済力を再構築したいという思いで多くの施策を打とうとしている。CGCやスチュワーシップ・コードなどへの準拠で企業ガバナンスの外堀はどんどん埋められていく感があるが、さて内堀と天守はどうであろうかという議論が本来必要であろうと思える。時価総額、営業利益、ROE・ROIC等が何年も向上していないという企業があるならば、CEO含む経営幹部の戦略・実行力を含む経営力が疑問視されるのは当然であるが、それのみならず取締役会の実効性も問われて当然の世の中となっている。

また、世にいう新しい資本主義、国のバランスシート問題、話題の防衛費増額、待ったなしの異次元?少子化対策、大災害被災への支援、そして企業へは賃上げ要請などなど、これらの実現に必要な企業と国の多額の追加財源は、どこから創出また捻出されるべきかの議論が必要で、この議論なくしてすべての政策・施策は絵空事となるのである。

そこで、真に重要となるのは、国内企業の稼ぐ力の強大化、世界での競争力の格段の向上、グローバルでの優秀な人財の採用と活用そして育成、それを可能にする社会環境作りということであろう。所得と税収の拡大は、企業の利益額と利益率の短中長期での成長なくしてあり得ないのである。この本質をもっと深堀すると、何が日本の問題かが透けて見えてくるように思う。

東京エレクトロンデバイス株式会社 取締役
常石哲男