LEGENDS & THEIR HEIRS レジェンドとその想いを継ぐ者 小出寛子×佐々木裕子

2026年10月10日

小出寛子 (J.フロントリテイリング 独立社外取締役/取締役議長、大成建設 社外取締役)
佐々木裕子 (チェンジウェーブグループ 代表取締役社長)

[ 雑誌「コーポレートガバナンス」Vol.22 - 2026年8月号 掲載 ]

企業のエグゼクティブとして、ダイバーシティ改革を切り開いてきた世代とその志を継ぐ世代が、率直にその思いや決意を語ります。さらに次世代へのエールも送ります。

違いを力に変える組織へ
HIROKO KOIDE

早い段階から、経営の視点を
HIROKO SASAKI


小出寛子

佐々木さんに初めてお会いしたのは、共通の知人を介したコミュニティの場でした。社会課題を解決するという信念を持って次々と変革を起こしていくエネルギーを、頼もしく思ってきました。

私は外資系企業で長く働いてきましたが、日本企業の人事や組織を見ていると、「これは30年前に通った道ではないか」と、その遅れを痛感する場面が多々ありました。一方で、日本は外圧がかかると一気に動く国でもあります。特に2021年のガバナンス·コード改正以降、経営者が否応なく多様性の課題に、自分事として向き合わざるを得なくなったと感じます。

社外取締役における女性比率は一定程度高まりましたが、社内取締役や執行役員での比率はいまだ低いままです。採用から昇進後の支援までを含めた一連の人財パイプラインを、10年単位で設計する必要があります。数を増やすだけでなく、男性と同じキャリアパスを意識的に経験させることも重要です。また各階層で女性を抜擢する時には複数名同時に登用し、個人にかかる圧力を分散することが必要と考えます。

日本企業では、評価や登用の基準が暗黙の「男性ルール」に引きずられ、結果として同質的な集団が形成されてきました。評価基準を明文化するとともに、自分たちとは異なる意見との建設的な対立や対話を受け入れる文化へと変えていかなければ、AIなどの登場によって大きな変革が進むビジネス環境の中で、前に進むことは難しいでしょう。

個人においても、制度が整うのを待つのではなく、次のポジションに必要な経験や機会を自ら具体的に求める姿勢も大切です。アメリカ本社在任中、アメリカ人の部下たちが自分のキャリア形成に非常にプロアクティブで、「どうすれば、いつ、私はあなたのポジションに就けるのか知りたい」と聞いてくるのには驚きました。また私自身、グローバルな組織で他国のスタッフと仕事をする中で、日本人には無い視点が自分のキャリア形成や人生設計に大きく影響を与えてくれました。

結局のところ「トップが本気かどうか」に尽きます。言葉だけで女性活躍を掲げても、行動が伴わなければ現場はすぐに見抜きます。不安があっても「やる」と決めて任せ、見守る。その胆力こそが問われています。女性活躍は特別なテーマではなく、経営の難易度が増す時代において、意思決定の質を高めるための経営課題だと捉えています。

佐々木裕子

小出さんは、私がずっと背中を拝見し、たくさんのことを学ばせていただいてきた存在です。キャリアでも多様なご経験をされ、ライフとの両立にも本質的に向き合われながら女性活躍を文字通り、ご自身の生き方で体現してこられた方として、心から尊敬しています。

私は当初戦略コンサルタントとして外側から企業の変革に関わらせて頂いていましたが、当事者の方々が本気にならないと何も変わらないこと、そしてその方々が一歩踏み出した結果おきた「小さな成功」が、大きな波を起こす様子を目撃してきました。「変革屋」としての事業を始めたのは、自分がそのスイッチを入れる役割を果たしたいと思ったからです。その中でダイバーシティの重要性にも気づきました。

データで見ると、女性が一般社員から課長、さらに課長から部長·役員へと進むパスはそれぞれ性質が異なっています。例えば、上司が雑談も含めて男女フラットに情報交換できれば、情報の非対称性が解消され、会議での発言差もなくなり、結果として男女差の少ない形でタスクが与えられるようになります。実際、部長以上の役職に登用していくには、重要なプロジェクトやアサインを担い、定期的に重要会議に参加して役員の目に触れる機会を増やすことが、とても重要であることが明らかになっています。子会社役員や出向、外部研修などに参加させ、視野を広げる機会を設けることも大事です。この2つをどう組み合わせていくかが、女性幹部を増やす鍵だと考えます。

また、女性の育成では、「順番」も重要だと感じます。「偉くなるために何を学ぶか」ではなく、「自分は何を変えたいのか」という目的から出発し、その実現に必要な権限·経験·学びを逆算していく。このプロセスを踏むことで、当事者意識とコミットメントが格段に高まります。

また、これから必要な変化の速さを考えれば、男女問わず、経営者の視点を養うトレーニングは、20代後半などできるだけ早い段階から行うべきだと考えています。早期に視野を広げることで、気づきや成長の機会は大きく広がりますし、無意識に起きやすい男女の機会格差も早期から修正できるからです。ジェンダーや年齢に囚われない意思決定層の多様化は、変化の激しい時代の経営に必須の条件になってくると思います。

小出寛子氏

小出寛子 KOIDE HIROKO
J.フロントリテイリング株式会社 独立社外取締役/取締役会議長
J.ウォルター ·トンプソン、ユニリーバ、マース、ディオールなど外資系企業でマーケティングおよび経営の要職を歴任した後、Newell Brands米国本社にて、グローバル・マーケティング担当シニア・バイス・プレジデントに。グローバルブランド経営の豊富な経験を生かし、2021年よりJ.フロントリテイリング社外取締役、2024年から取締役会議長を務める。キリン、三菱電機、本田技研工業などの社外取締役経験も有し、ガバナンス強化に貢献している。大成建設社外取締役(現)。

佐々木裕子氏

佐々木裕子 SASAKI HIROKO
株式会社チェンジウェーブグループ 代表取締役社長
東京大学法学部卒業後、日本銀行、マッキンゼー·アンド·カンパニーを経て2009年にチェンジウェーブを創業。企業変革や組織開発、女性リーダー育成を軸に活動し、2016年には介護と仕事の両立支援を目的にリクシスを設立。2024年に株式会社チェンジウェーブと株式会社リクシスを経営統合し「株式会社チェンジウェーブグループ」を発足。ソフトバンク、三井住友DSアセットマネジメントの社外取締役や複数企業の女性活躍推進委員などを務め、人的資本経営やダイバーシティ推進の第一人者として、経営層との対話や制度設計に多数の実績を持つ。

撮影:小泉賢一郎