会長メッセージ

日本取締役協会 会長 宮内義彦

日本取締役協会
会長 宮内義彦

取り巻く環境

昨年来、我が国を取り巻く環境は、大きく変化しています。アメリカでは新しい大統領が誕生し、イギリスのEUからの離脱、EUにおける主要国の選挙もあり、保護主義の台頭と中東や東アジアにおける地政学的リスクが相まって、欧米や東アジアの動向から目が離せない状況になっています。

経済の動きについて、新興国の全般的な減速は見られるものの、中国の粘り強さやアメリカの景気上昇に牽引され、日本経済の動向は順調といえます。IMFが実質成長力予想を上方修正し、GDPのリーマンショック以前の水準への回復、企業収益も過去最高水準を記録する会社が多く、計数的には堅実な推移になってきました。しかし将来の成長期待の低さや個人消費の弱さが相互に影響しあい、景気の底堅さが株価や個人の景況感に十分反映されていないのが現状です。

日本経済の回復と足並みをそろえるように、コーポレートガバナンスに関する制度も更に動き出しました。具体的には会社法、スチュワードシップ・コード、コーポレートガバナンス・コードの運用が始まり、投資家も企業もそれらの制度に従い、監査等委員会会社へ多くの企業が移行したほか、ほとんどの企業が社外の取締役を導入するようになりました。経営に関わる人たちにとっても、コーポレートガバナンスという用語は、何の違和感を持たず受け入れなければならないものになってきました。

一方、経営の初歩的なレベルで問題を起こすという事例もあり、コーポレートガバナンスは形式上の整備がある一方、実質面でどの様に企業経営の成果に結びついたかは、現状では明確な答えは得られていないといえます。次の段階は実際の経営改革にどの様に役立っているかを示すことが課題として浮上しております。

協会活動

コーポレートガバナンスが動き出した今、日本取締役協会は、企業は社会からなぜその存在を認められるのか、コーポレートガバナンスは何のために必要なのか等、基本的なテーマを内部で議論を深める必要が引き続きあると考えます。例えば取締役会は何をするのか、なぜ監督と執行を分離しなければならないのか、社外取締役は何を監督し、何をしなければならないのか。日本企業の生産性の低さ、イノベーションの少なさをどうコーポレートガバナンスを使って改革するか。それらを許容してきた市場はどうあるべきか、日本における受託者責任をどのように確立すべきか、どのように変わらなければならないのかなど、広範囲の問題が控えております。当協会はメンバーの皆さんでこれら課題を議論し、その成果を意見書等でまとめ発表し、各方面の関係者に影響をあたえることができればと強く感じております。

この様な思いのなか、昨年度は監督する側の取締役に重点を置き、企業の役員や社外取締役向けのトレーニングを実施しました。内容はこれまで議論してきた15年間の実績をもとに行い、取締役のみなさまに当協会の活動を知ってもらい、支えて頂けるようにしました。また日本企業はコーポレートガバナンスに本気で取り組んでいるのかという、特に海外からの疑問に答えるべく、協会活動を通して日本のコーポレートガバナンス改革の動き、特に当協会の活動を海外の関係者にも理解してもらう努力を致しました。メディアにそれらのテーマを掲載してもらう等、日本取締役協会を知ってもらう活動に力を注ぎました。

現状の認識

コーポレートガバナンスというとすぐ同義語に扱われる独立社外取締役も、2016年度当協会調査によると、東証1部上場企業1,970社において2名以上選任している企業は1,600社近くになり、3人以上を選任している企業も500近くと、形のうえではコーポレートガバナンスが整ったと一部では言われています。一方コーポレートガバナンスの目的である企業の成長に目を向けると、3年間ROEを10%近くあげている企業はわずか50社くらいに激減します。

日本においてイノベーションを興し大きく成長している企業、あるいは世界に負けない収益力を生み出す企業は、未だ極く僅かしか存在しません。監査等委員会会社へ移行した企業の中には、社外取締役の数合わせの為という指摘や、コーポレートガバナンスはこれでひと段落したという風潮もあるやに聞きます。海外の投資家の多くが疑問視する収益性、生産性の低さに対し、取締役会はどう対応しているのかという部分には、残念ではありますが答えを示せていません。

形においても取締役会の半数や3分の1を独立取締役が占め、指名委員会やリードダイレクターを指名するといった、次のステップへの動意は見られません。日本におけるコーポレートガバナンスの歩みは、最初の一歩を踏み出したばかりであることを認めなければなりません。コーポレートガバナンスの真の必要性は何か、取締役会はどのような機関であるべきか、社外取締役は何をするかのコンセンサスもいまだ十分形成されておらず、日本取締役協会としては、ここで歩みを止めることなく走り続けるよう、多くの運動をしていかなければならないと感じています。

コーポレートガバナンスの推進を担う者

2017年はコーポレートガバナンスの整備も必要となりますが、同時に日本におけるコーポレートガバナンスの本来の目的、実質の再確認をすることが重要なテーマとなってきます。

日本企業の経営力あるいは稼ぐ力は上がってきているか、もし上がっていないなら何が原因かについてもよく検証する必要があります。

企業の稼ぐ力の推進力たる経営者がアニマルスピリットを持ってイノベーションを興し、それに対し綻びのない経営を後押しするシステムとしてのコーポレートガバナンスが存在することは、一般論としては受け入れやすくなってきました。しかし今のところコーポレートガバナンスを推し進める当事者が主として経営者そのものであり、それにプレッシャーをかける役割をもつのが投資家であるということについて認識が十分なされているとは言えません。

従来から日本ではコーポレートガバナンスを不祥事防止のシステムと考え、経営者は自分のミッションを企業の安定的推移と次につなげることを優先してきました。一部の企業を除き、多くの企業でバブル経済破綻後、長きにわたり守りに強い経営者の系譜が出来上がってきました。投資家や他のステークホルダーも、そういった状況を止むを得ないこととして長く黙認してきました。しかし、これからはスチュワードシップ・コードの精神を遵守する意味からも投資家はチャレンジ精神を持ち、それを発揮する経営者が選ばれるような体制、リスクを取らない経営者にはその背中を押すガバナンス体制が企業内に構築されているかをチェックする行動が求められる時代になってきました。

長年にわたる成長鈍化のなか、日本では政府による成長戦略の実施の有無が関心事となり、成長のカギを政策が担うのが当然といった風潮が生まれております。世界では、その国の成長を牽引する主役を企業が担っており、それをリードできる経営者が活躍する場所を作ってきました。

日本においても政府に頼り切るのではなく、経済成長の主役の座を企業が取り戻す為にも、各企業の成長こそが待たれます。それを後押しするコーポレートガバナンスが必要不可欠であり、投資家もそのような要求をしっかり経営者に伝えていくことが今の日本に求められていることだと思います。

本年度も日本取締役協会はコーポレートガバナンスが着実に前進するムーブメントを更に強め持続させるべく前進して参りたいと存じます。皆様方メンバーのこれまで以上のご支援、ご活躍のほどを衷心よりお願い申しあげます。

(2017年5月17日 第15回会員総会 会長所信より)