会長メッセージ

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日本取締役協会
会長 宮内義彦

取り巻く環境

世界の経済は、従来のようにひとつの国が牽引する時代から、アメリカ、ヨーロッパなど先進国の不安定さを、アジア、中南米など新興国の力強い成長が微妙なバランスを保ちながら補っていくという姿に変わりつつあります。

わが国の経済も企業業績が底を打ち、設備投資、M&Aや各種投資に前向きな姿勢をとるようになり、2011年後半には明るい光が見え始めた矢先、3月11日の大震災により日本という国家が、戦後初めて経験する大きな苦難に直面しました。

特に津波により多くの方々の命が失われ、インフラの崩壊と経済的損失は莫大なものとなりました。災害にあわれた方々が一日でも早くお元気になることを祈念すると共に、我々企業経営に携わる者は、経済活動を以前にもまして活発にすることで、日本経済が回復するよう頑張らなければいけないという強い思いを抱いております。

この震災により日本経済は、震災被害、原発と電力問題、風評あるいは不信感という三重の苦難に直面しました。特に原発事故による環境への影響や風評問題、復興に向けての電力不足は大きな障害として立ちはだかっています。また、震災被害は国内のあらゆる産業だけでなく、製造業においては自動車などのサプライチェーンにも大きな打撃を与え、世界経済の動向にも大きな影響を及ぼしました。各国からは多くの復興支援が寄せられ、同時に今後どのようにして日本経済が立ち直るのかが注目されています。

この震災は日本の産業技術の強さ、日本人の秩序の高さや冷静さを浮き彫りにする一方、政府や日本を代表する企業の危機対応システムそのものの弱みを露呈し、長きに亘り築き上げてきた日本の先進性への疑問と、取り返しのつかない損失を与えました。

コーポレート・ガバナンスと日本取締役協会

このような状況下ではございますが、本年、日本取締役協会は皆様のおかげをもちまして、設立10年を迎えることができました。設立された2001年当時は、小泉内閣の改革路線により、日本の経済システムが変わるのではないかという期待感があふれ、株価の回復と不動産市況の安定に後押しされる形で経済発展の兆しが現れました。それに同調するかのようにコーポレート・ガバナンスへの関心も高まっていました。

しかしその後の市場経済支持の後退、リーマンショックによる行き過ぎたアメリカ経済の影響もあり、日本はコーポレート・ガバナンスに代表される欧米型の経営に背を向けた格好になり、普及ということに関しては遅々として進まない状態が続いております。

以降、日本経済は再びデフレのスパイラルにより低迷し、アメリカ、ヨーロッパ諸国の回復と比べても大きく遅れをとってしまいました。成長面だけでなく、企業の収益、配当などの考え方やその他いろいろなルールが世界で統一されていくなか、その対応スピードにおいても前向きな姿はなかなか見えてきません。

統一的な会計制度やコーポレート・ガバナンスは欧米だけでなく、アジア各国でも取り入れられ、いまやグローバルスタンダードになりつつあります。特に海外からの投資においては、それが最低条件であり、ステークホールダーの目で外から監視するシステムは成長や復興においてはなくてはならない物になっています。

震災被害による産業の停滞という今の日本の置かれた状況からも、今後世界の目は我が国のガバナンスに対し、いっそう厳しい視線を注いでくることが予想されます。 日本取締役協会ではそのような認識の下、多くの会合において多方面からコーポレート・ガバナンスと経営について議論をかさねました。会員数の変動も経済環境の変化と比べると少なく、多くの会員の支持により、10年目を迎えられることは日本経済の更なる発展へと期待を抱かせるものとして心強く思っています。

然しながら、当協会はそのメンバーの志にも拘わらず、有為な会員による研鑚の場とはなっているものの、日本の企業活動に真のコーポレート・ガバナンスを推進し、企業活動をより一層活発化することに資するものとなっているか、ビジネス行動指針を作り上げているかを考えると、いまだ道半ばという内心じくじたる思いも抱いております。

国や日本を代表する企業のガバナンス

今回の震災は、日常見過ごしてきた日本の弱いところを浮き彫りにしました。 国そのものの意思決定システムに対するガバナンスの欠如は、多くの場面で目にしました。また日本を代表する企業が市民社会、市場に適切に対応できず、危機を深めてしまったことなども、企業のガバナンスが問われる事柄ではないでしょうか。

政府においても災害時の対応スピード、意思決定の方法、特に今後の復興に向けての政策遂行には統治機構のあり方が問われることになります。

企業においてもリスク管理、リスク発生時の対応、リーダーの在り方、業績回復への道筋や地域、顧客、株主などの重要なステークホールダーへの配慮などはガバナンスのあり方が問われます。

ガバナンスの意味は不祥事の防止や何か起こった時の対応はもちろん、今後のビジョン、方向性を指し示し、組織の価値を向上させ、富を創造することにより明るい未来を実現することでもあります。

一部の企業においては低成長であっても、政府とほどよい関係を維持し、従来どおりにやっていけばそれなりの安定したものが得られ、変革を好まない体質に染まっていました。今回の震災は、そこから目を覚まさないといけない状況を創りだしました。

企業発展に向けてのガバナンス

欧米など、世界の投資は 震災以前より、少子高齢化、財政などの構造的問題と各企業の収益性の低さや株主軽視のスタンスを避け、日本を飛び越えアジア、中南米の新興国に移ってきています。それだけでなく我が国は、人材を中心としたグローバル化の問題、TPPに代表されるアジアとの関係等多くの課題を抱えています。

今後、震災からの復興においては、それらの問題を前提として民間経済の成長が主役にならなければいけません。国の果たす役割とともに、企業が適切なリスクを取り、収益を上げ、それを従業員、株主、地域に配分することで日本経済の発展と、活力を生み出すことがなによりも必要です。

確かに経営に携わる者にとっては、今の状況は容易なものではありません。ただこういう時こそ、組織を叱咤激励し、価値価値の向上に走らせるコーポレート・ガバナンスを入れ込むことはとても重要です。ただこれらはあくまでもシステムであり、基本は経営者の強い意思とねばり強い活動につきます。また、このようなシステムは欧米の形をそのまま持ってきても上手くいかないのは過去が証明しています。

このような時こそ、欧米の優れている所と日本の強さ、良さをどう融合するか、優れた経営者が多い日本の企業内にこれらのガバナンスシステムをどう取り込むかを考える絶好な時ではないでしょうか。

世界が日本に対して注目している現在、製造、エネルギー、サービスの分野では大きなイノベーションが生まれる予兆も出てきており、新しい日本の形を創るまたとない機会となっています。

日本取締役協会は、本年度、震災からの復興と日本経済の存在を向上させる活動を多く行い、製品サービスだけでなく、経営においても世界に通用する企業を増やしていくよう、みなさまとともに熱い1年にしていきたいと考えております。

(2011年5月24日 第9回会員総会 会長所信より)