レポート"銀行の政策株式保有の完全解消に向けて"に関する意見交換会(日本銀行)(2010)

2010/07/02

 新しい金融の動きを理解し戦略を考える委員会(委員長 江原伸好、副委員長 川本裕子)は、表記レポートについて、日本銀行のみなさまとの意見交換を行いました。その概要を抜粋、掲載しています。

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日時:2010年7月2日(金)15:00~16:00
場所:日本銀行
出席者:日本銀行 山本謙三・理事、宮野谷篤・金融機構局長、同局経営分析担当総括・小早川周司氏、信用政策企画担当 河西慎氏、日本取締役協会 金融委員会 江原伸好・委員長、川本裕子・副委員長、佐々木裕子・ワーキンググループリーダー、松本茂・執務室長

(日銀) 日本銀行では金融システムレポートを2005年から公表し、2007年からは年に2回出しています。マクロ的な日本の金融システムの現状評価と課題を中心に扱っていますが、ここ数年の間、大きなウエイトを占めてきたのが銀行による政策株保有の問題です。例えば大手行のリスク量をみると、信用リスクよりも株式にかかるリスク量の方が大きくなっていることに、強い問題意識を持ってきました。

(日銀) リーマンショック後の動きをみると、わが国金融機関はクレジット投資が多い訳でなかったにもかかわらず、株価下落の影響を強く受けて多額の損失を計上しました。日本銀行は、金融システムの安定を図るため、2009年、株式の買入れを再開するとともに、劣後ローンの供与を開始しました。同時に、金融機関との間で、株の保有リスクをどう減らしていくかについて議論を重ねてきました。

(日銀) 銀行自身も、株価の変動が経営に及ぼす影響の大きさを十分に認識し、株式保有を徐々に減らしています。また、銀行は、政策株保有に伴うリスク量を試算し、総合採算を計算することで、政策株保有の継続の可否を判断する仕組みも整えつつあります。

(日銀) とはいえ、自己資本との比較でみて、銀行の政策株保有に伴うリスク量がなお大きめであることは否めません。日本銀行は、「銀行による政策株保有はゼロであるべき」と主張している訳ではありません。リスク量が自己資本に対して適正な範囲に収まるよう、引き続き銀行と議論を重ねていきたいと考えています。

(日銀) 銀行にとってみると貸出も株式も一定のリスクをもつ資産であることに変わりありません。しかし、グローバル化した金融経済のもとでは、株価は海外市場の影響を受けやすくなっているようにみえます。高ボラティリティの見返りに、平均的には高リターンなのがハイリスク投資です。株に関しては、バブル崩壊後の長きにわたり、ボラティリティの高さに比べ、平均的なリターンの低い状態が続いているようにみえます。

(協会) 銀行の場合は、融資を行いつつ株を保有している訳です。その時に、企業に対するガバナンスを、どういう立場でとっていくのか、という問題もあると思います。エクイティホルダーとしてはリスクを取って、どんどん儲けて欲しいという面がある訳ですが、デットホルダーとしては堅実なリターンが欲しいと思う。結局、最終的に企業に対してどういう立場を取るのかが明確にしにくいのではないでしょうか。

(日銀) 銀行による政策株保有の削減を議論する場合、よく聞かれる質問の一つは、政策株を銀行が持たなくなった場合の受け皿はどこかという点です。誰が買うのか、もし受け皿がないと市場への下押し圧力が高まるのではないかという懸念です。

(協会) それに関しては、受け皿はあると思っています。というのは、日本のこの株価レベルですと、これだけの先進国でこれだけ安い株価の国はない。したがって外国投資家の立場から見ると割安な訳です。それでも入ってこない理由はガバナンスの所在が不透明だから、というメッセージを彼らは発している。持ち合いの解消イコールガバナンスの問題が解消したということではないものの、これは非常に象徴的な意味合いを持っていまして、国をあげてそのような方向性を出すことによって、外国投資家からの受け皿が増えると思います。それが一点。


 第二点は、国内の投資家です。彼らは今、母国市場と一体どう付き合っていけばよいか大変悩んでおられます。このままの延長線だと母国市場から他の市場に行かなくてはならないという議論さえ出ている訳ですが、為替リスクも無いしできれば母国市場にいたい。彼らからしてもこの銀行の政策株解消というのはむしろ良いきっかけになり得ます。 解消策を一気にではなく、3年ないしは5年、といった期間の中で行えば、急激な放出による価格下落リスクもなく、旨く保有構造の転換がされるように思います。

(協会) 日本型のコーポレート・ガバナンスの課題が、日本の成長率の潜在的な力を発揮出来なくさせている仕掛けのひとつなんだ、ということがコンセンサスになれば、もうちょっと日本の議論も変わってくるのではないかと思います。必ずしも儲からない株を銀行が保有する、ということが、日本全体としての資源配分を歪めている、という事実を認識することも重要ですね。

(協会) たしかに銀行からしても、苦しいところもあるのだと思います。自己のファイナンスや大企業営業を担当している方々は、政策株を解消することに躊躇を示されるかもしれません。ただ、総合的にみれば、政策株のリスクに対する危機意識というのはかなりもってらっしゃると思います。だからこそ、ここから先は彼らに自助努力と言っても限界があるとすごく感じていまして、やはり政策にからんでらっしゃる日銀および金融庁の方々のイニシアチブが必要なのではないかと感じます。

(協会) 日本からそういう思い切った抜本的な政策が出てこないことに対して、諸外国の方々は冷ややかな評価をしていると思います。「自分の国の構造問題を、自分達で解決できないのか」という厳しい見方もある。もうひとつ色々な国際会議などに出て感じますのは、バーゼルⅢのような今後決まっていくであろう国際基準について、日本の銀行に対する影響を勘案し、日本が積極的にアジェンダセッティングに参画し、リーダーシップをどこまで取っているのか、という懸念ですね。

(日銀) バーゼルⅢに関しては、日本銀行も金融庁と協力しながら国際交渉に積極的に参画しています。細かい基準そのものは現在議論している最中ですが、国際的な公平性を確保しつつ、規制強化のメリット、デメリットの双方に十分配慮した制度設計が行われるよう、できる限りの努力をしています。バーゼル規制の目的は国際金融システムの安定を高めることにあり、その認識は各国で広く共有されています。たしかに、多くのグローバルに活動する金融機関がニューヨークとロンドン市場でのプレゼンスの維持を強く意識しているため、米英当局の考え方や姿勢にどうしても焦点が当たりがちですが、日本も制度づくりに積極的に貢献を続けており、米英当局もこれに十分に耳を傾ける姿勢をもっていると評価しています。

(協会) そういう意味でも、中小企業も含めて、「日本国内でお互いに守り、守られながら」成長していくのだ、という昭和30年代の図式から脱皮することは重要でしょう。「安定株主ニーズ」に代表されるように「どこかの誰かに守ってもらいたい」という意識が、まだ銀行も含め日本の経営者の中にどこか残ってしまっているのかもしれない。今回私どもが本当に政策株を根絶した方がいいのではないかと言うのは、そのような意味合いもあります。思い切った施策は、銀行そのものにとってもプラスだろうし、実は日本の株式市場ないしは資本市場にとっても色んな意味合いでプラスに効いてくるはずです。

(日銀) 銀行だけでなく、社会全体で見方を共有していくことも重要です。たしかに、銀行は、例えば地域経済をどう支えていくかといった課題に応えていかなければなりません。それと同時に、しっかりとしたリスク管理を行い、経営の健全性を維持していくことも不可欠の課題です。リーマン危機後、改めてはっきりしたのは、銀行による政策株の保有が景気の振幅を増幅するおそれがあるということです。景気の悪化に伴い株価が下落すると、減損や売却損、含み損が拡大し、銀行の自己資本が縮小します。その結果、貸出やその他資産を圧縮する力が働き、これが企業や家計の資金繰りを一段と厳しいものにする可能性があります。そうなると、設備投資や住宅投資の抑制を通じて、景気がさらに悪化するおそれがあります。このように金融システムの動向が景気の循環を強める動きは、しばしばプロシクリカル(procyclical)と呼ばれますが、金融システムや実体経済の安定性を強化するためには、こうしたプロシクリカルな関係を極力抑制していく必要があります。このような見方が広く共有されることも大事だと考えます。

(協会) そうですね。銀行だけでなく、企業や社会全体を含めた意識改革を促す意味でも、自助努力だけでなく「政策」という形で思い切った打ち出しをすることが、急務なのではないでしょうか。


(文責:日本取締役協会)