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コラム:カルテルへの対応策

2014/10/14

アンダーソン・毛利・友常法律事務所 弁護士 中野雄介

 私は、内外の独占禁止法関連案件を主に取り扱う弁護士であるため、カルテル事件を多数経験した立場からのコラムとさせていただく。

 カルテルの疑いがひとたび生じれば、調査等への対応に要する役職員の負担、課徴金・罰金等のペナルティー、損害賠償、弁護士費用といったコストが相当な規模で発生する。したがって、カルテルの未然防止が企業経営者の立場からは事前の目標となる。

 また、カルテルを自ら発見し、当局に申告した企業に対し、ペナルティー(さらには、協力的な役職員の個人責任)を免除・減額するというリーニエンシー制度を有する国が多い。ペナルティーや個人責任の追及は、カルテルから生じる悪影響のうちでも最大のものであり、カルテル発生後の段階においては、その悪影響をいかに最小化するか、すなわち早期発見と迅速な対応が企業経営者にとっての事後の目標となる。

 カルテルに関する事前・事後の課題に応じて有機的に作動する対策を講ずるべきことは、他のコンプライアンス上のテーマと同様である。カルテルに即していえば、分かりやすい独占禁止法遵守マニュアルの制定、講習やテストの実施、違反をしないという誓約書の提出指示、内部監査、懲戒に関する社内規程の整備、内部通報制度の導入・強化、社内でカルテルを通報した者に対する懲戒処分の減免等の措置が実施されることが増えている。あくまでも一般的な傾向ではあるが、コンプライアンスの考え方が浸透したこの10年程度の間にカルテル事件の「授業料」を支払った企業においては、これらの施策がかなり実施されている一方、他の企業においてはまだ不十分なことも多いようである。

 コンプライアンスは直接的には利益を生まないものであり、短期的な業績で結果を株主に示すべき企業経営者の立場からは、問題が発生しているかどうかにかかわらず人手やコストをかけてカルテル対応策を行うという判断は、容易ではない。また、日本の課徴金制度自体が、カルテルの影響を受けた売上高の10%を原則とし、かつ、最大でも3年分の売上高しか計算の基礎とされないというものであることも、「売上高に見合わないペナルティーのリスク」への感受性を鈍くしている可能性もある。

 しかし、高齢化と人口減少という状況の下で、日本企業は続々と海外展開を行っており、この傾向が止まることはない。グローバルにビジネスを行う以上、「売上高に見合わないペナルティーを受けるリスクが海外には十分にあること」や、「海外の企業はリーニエンシー制度をよく使いこなしていること」は銘記する必要がある。それに加え、一部の当局は、自国の独占禁止法発動の要件である「自国に影響を与えた」と言いうる場合を、通常の企業経営者の想定以上に幅広く解釈し、法の網をかけようとしている。まずもって日本の独占禁止法を前提にしたリスク見積もりの考え方自体を見直す必要がある。

 また、カルテルについては、必ず2以上の企業が関与する必要があるうえ、リーニエンシー制度があることから、他の企業によるコンプライアンス上の措置が自社に与える影響が大いにあり得ることにも留意すべきである。A製品のカルテル事件(甲は関与したが、乙は関与していないものとする)について甲が当局の調査を受けた場合、甲が社内の「大掃除」を行い、乙も製造販売するB製品のカルテル事件を当局に申告することにより、乙にも累が及ぶ可能性が十分ある。ドミノ倒しのように次々に異なる企業や業種がカルテル調査の対象となった例は実際にも多い。このようなカルテル調査の特性を考えると、平時の備えに十分ではない点があったとしても、せめて競合企業についてのカルテルの疑いに関する報道や適時開示があった場合には、一段とランクを上げて対応することが有用である。ある程度の施策を有する企業においては、監査を実施する、そうでない企業においても、独占禁止法に詳しい弁護士に相談をする等のレベルであっても、有益なことが多いと思われる。実際にカルテルの発見ができなくても、調査の対象とされた際の初動が遅れないということだけでもリーニエンシー制度の関係で有益なことが多かろう。

 大雑把にまとめると、企業経営者は、平時から津波が来るリスクを十分に警戒するとともに、視界に高波が見えた場合には、それが津波である場合に備え、貴重品袋を持って高台に上がることを念頭におくべきであろう。