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コラム:コストがかからず絶大な効果を生むオーナーシップマインド〜社員と顧客との接点の濃密化〜

2014/06/16

学習院大学経済学部教授(マーケティング) 学習院マネジメント・スクール所長 上田隆穂


1.旧マルハニチロHDの旧アクリフーズ群馬工場における農薬混入事件

 この事件に関してはまだ記憶に新しい。待遇に不満を持つ契約社員による事件であるが、事件発生後の消費者に対する組織的な対応も後手にまわり、消費者の信頼を一気になくした事件だ。事件解決後に、リスク管理統括部新設などガバナンス体制再構築が検討されているが、これくらい大規模な企業になると隅々まで行き届いたガバナンス実現は容易ではない。本当に必要なのは、社員一人ひとりが企業における自己の担当領域を自身の課題と主体的に捉え、強い情熱と責任感を持って取り組む姿勢なのだ。これをオーナーシップマインド(以下OM)と呼ぶ。社員一人ひとりが真に企業を代表する意識を持つ強力な組織を創りあげる源である。だが企業規模が大きいほど実現も難しい。


2.OMなるもの


 この概念の基礎にはインターナル・マーケティングがある。これは次のように説明される。『従業員を企業内部にいる顧客ととらえ、従業員の満足度(ES)を高めることを目的に行うマーケティング活動のこと。・・・強制的な指示ではなく、従業員の自律的・自発的な行動を促すことによって、従業員のモラルを高めようとする施策。』(Buzzwordsより)つまり、顧客との接点にいる従業員が自分すら満足できないのでは顧客にまともなサービスは無理という考え方に基づく。特にサービス業において有効だとされている。このESによる社員の満足はOMに結びついていくが、さらに一工夫が必要だ。


3.ハイアールの事例


 一人ひとりがCEO(日経ビジネス、2014年3月17日号)というのがハイアール流だ。ハイアールでは多くの役職に立候補制を採用し、上司らに対するプレゼンテーションを実施し、電子メールでその資料が従業員70~80人に送信されて選挙が行われる。そして成果に対する個人への配分も極めて厚いが、成果がなければすぐに降格となる。このような体制で個人のやる気を生み出しているが、社員一人ひとりが顧客に対して企業を代表するという意識までには至らないだろう。また強烈な成果主義は日本には馴染みにくく、限界があろう。このOMを生み出す好例は小売業において多くみられる。


4.コープさっぽろでの実験


 学習院マネジメント・スクールによる14社との産学協働プロジェクトの一環で、食品スーパー成城石井その他のヒアリングを行った。これより小売店に対し、顧客がロイヤル化する源は従業員との交流であることがわかった。成城石井では、大久保前社長時代に売らなくても良いから顧客を満足させることだけを考えるようにと指示を出していた。その結果、顧客は従業員のファンとなり、売上も連動して伸びていった。こういう例はヤオコー、エコス、コープさっぽろでもみられた。この事例から店舗従業員と顧客との交流が顧客の店舗ロイヤルティを上げ、結果的に売上高を押し上げるとの仮説を持った。2011年11月大がかりな店舗実験実施の一環としてこの交流実験をしかけた。具体的には、黒板型顔写真POP(略称K-POP)を作成し、従業員の笑顔写真をつけた情報ボードに従業員が顧客にお勧めを書き、販促グッズとして商品の横に展開しただけである。これが大きな効果をもたらした。顧客の好意度が大きくアップするのはもちろん、従業員が無表情でバックヤードから品だしをするだけでなく、どうすれば売れるかを自発的に考えて売場に積極的に出るようになった。この結果、このK-POPを従業員研修に採用するようになり、売場毎にどんなお勧め文を書くかの研修にも利用された。これにより従業員の自発的な動きは強化され、独自のPOPで異常な売り上げをつくる従業員も出て来た。ここで言わんとすることは、従業員の自発的な意欲の高まりがなぜ出てきたかである。顧客との交流が従業員のOMを押し上げているのは間違いない。顧客もまた従業員のファンとなり、信頼関係が強化された結果によるものだ。この動きは、現在コープさっぽろ全体に拡大している。


5.メーカーへの拡張


 顧客とメーカー従業員の接点は小さい。しかし、最近はweb活用の多チャンネル化、すなわちオムニチャネル化で社員と顧客との接点は拡大している。加えて顧客と一体化した新製品開発も頻繁に実施されてきている。顧客と社員との交流をwebでさらに拡大することで、このOM強化の可能性は高まっている。一人ひとりのCEOとまでは行かないだろうが、早急に実施する価値はある。