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コラム:企業の不祥事を未然に防ぐには

2013/11/12

株式会社 束野ビジネス・コンサルティング 代表取締役社長 束野耕一郎

 コーポレート・ガバナンスとは、言うまでもありませんが、企業の不正行為の防止と競争力・収益力の向上を総合的にとらえ、長期的な企業価値の増大に向けた企業経営の仕組み、即ち企業統治のことです。その目的は、(1) 企業倫理の視点から企業不祥事を未然に防ぐということと、(2) 企業効率の向上、即ち企業価値・業績の向上を図るという2点にあります。本小論では前者を取り上げます。

 昨今、相変わらず企業不祥事がマスコミを賑わせています。曰く、反社勢力への協力、輸入米の国産米への偽装販売、高級ホテルの虚偽表示メニュー、多額の粉飾決算、投資失敗の飛ばしなどの隠ぺい等々...枚挙にいとまがありません。不祥事をすぐに社内外に明らかにし、問題の速やかな解決を図り、重大な過失や故意があれば処罰し、信用を回復する、これが企業として当然にとるべき対策です。自分の身を捨てて考えれば、さほど難しいことではありません。企業人として大成功をおさめた人たちが、それを出来ない原因は突き詰めて考えると、結局は経営者の物欲、金銭欲、名誉欲といった欲に起因するのではないでしょうか。

 私がいつも反復している「人の上に立つものの32ヶ条」 ( 住友銀行)に「金銭に恬淡たるべし。」とあります。経営者・管理者にとって、金銭欲は最大の敵です。経営層にまで上り詰めた方は自らを律する厳しさが必要です。

 敵対的買収を防ぐために、買収防衛策を導入している会社は、東証上場会社のうち19.4%に相当する441社だそうです。買収防衛策を導入していない会社の多くは企業価値の最大化こそ有効な買収防衛であると説明しています。企業買収の是非は株主総会で決定されるわけですから、経営者の保身とみる意見もあります。軽々に判断できませんが、防衛策を取らず、企業価値を上げようとする経営者に私は同感を覚えます。

 エーザイ殿では「当社のコーポレート・ガバナンスの機軸は、委員会設置会社であることを最大限に活用した経営の監督機能と業務執行機能の明確な分離であり、それを徹底するための独立性・中立性のある社外取締役の選任にあります。」と表明されていますが、コーポレート・ガバナンスを強化するために導入された、委員会等設置会社はまだ日本では少数派です。社外取締役や社外監査役の設置も進んでいますが、十分に期待通り機能しているようには見えません。今後の課題と思います。

 日本では株式会社化を長期資金の調達の手段と認識し、取締役・監査役も実質的に社長によって選ばれた社内役員で構成されるケースが多く、経営を監督・批判する立場は弱く、コーポレート・ガバナンスへの寄与は限られると言われます。

 これに対し、ドイツでは従業員が2,000人を超える大企業では、監査役(≒取締役)の半分を株主が、残り半分を従業員(労働者)が選出する制度になっており、労働者を最大のステークスホルダーとして認識しています。

 日本でも労使協議会などで経営問題を協議する場を設けている企業はありますが、労働者が経営者を選ぶドイツとは全く違います。終身雇用、年功序列、企業別労働組合という日本的雇用慣行がややもすると企業への過度の忠誠心を醸成し、ガバナンスへの配慮が欠ける嫌いがあるのかもしれません。

 狭義のコーポレート・ガバナンスは、「企業と株主の問題」ととられがちですが、より広義に、従業員、顧客、融資家、地域などのステークホルダー全体の利益を守るための「企業と社会の問題」と捉えるほうがいいように思えます。

 不祥事の隠ぺい防止には、何と言っても速やかなトップへの報告を制度化する必要があります。問題発生を速やかに社内のトップまで共有しない場合には、時間が隠ぺいを助長します。IT技術を活用し、24時間の監視体制、通報体制を完備すべきです。私はJFEケミカル(株)社長時代、一定基準以上のトラブルは発生から1時間以内に電話、メール等で私に発生事実を報告するよう決めていました。

 企業は日夜、コーポレート・ガバナンスの強化に邁進していますが、結局のところは、トップから一人ひとりの従業員に至るまで、企業は「社会の公器である、今の自分があるのは社会のお蔭である」との感謝の気持ちを持つことが大切です。

 最後に、西郷隆盛のガバナンス論で本小文を締めます。

 「命もいらず、名もいらず、官位も金もいらぬ人は、仕抹に困るもの也。さりながら此の仕抹に困る人ならでは、艱難を共にして国家の大業は成し得られぬなり。」(南洲翁遺訓)