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コラム:「投資家目線」から見た、日本のコーポレート・ガバナンス

2013/03/07

いちごアセットマネジメント株式会社 副社長 パートナー 福原理

 昨今米国で見られるアップル社の資本政策(capital allocation policy)をめぐっての株主提案やデル社のMBOに対する議論は、欧米の資本市場としては至極当然な一方、日本の資本市場の観点から見ると非常に新鮮に写る。

 日本に於いてコーポレート・ガバナンスの改善の声が叫ばれて久しいが、現在までの結果は芳しくない。日本のコーポレート・ガバナンスの改善が何故遅々として進まないのか、日本で株式投資をしている者にとり、理解し難いものがある。

 そもそも「上場企業と株式市場」と言う仕組みに於いては、「投資家は大切な自己財産を株式投資という形で投資先の経営者に託し、その資金を事業活動を通じて運用してもらい、投資に纏わるリスクテーキングの見返りとして配当や株価向上を通して還元してもらう」、と言う仕組みである。しかし、株主(投資家)と経営者との関係にはエージェンシー問題が内包されている故、エージェンシーコストを最小化する為にも、株主から選ばれた独立取締役が目に見えにくいステークホルダーである株主を代表して「株主全体の利益」が企業経営に正当に反映されているかどうかを含め、経営陣の業務執行を監督する設計になっている。株主が提供するリスクキャピタルは、他の債権者に対し最も劣後しており、提供した資金は常にリスクにさらされている。企業はその資金を株主に返還する義務を負わない為、株主が現金化するためには株式市場での売却という手段しかなく、そこには株価リスクが伴う事からも、独立取締役が「株主全体の利益」を代表する事は重要である。ここで言う「株主全体の利益」は、他のステークホルダーの利害とバランスを取らなければならないのは言うまでもないが、株主利益の向上は会社の会計利益の向上と必ずしも合致しない。なぜなら、会社が利益を上げ内部留保を厚くしたところで、増加した内部留保が株価に反映されるかもしくは自社株買い又は配当の形で株主に還元されない限り、株主利益とは成らないからである。(実際、手厚い内部留保が株価に反映されていない例は多々ある。)通常株主の関心事は、提供したキャピタルが晒されているリスクに見合ったリターンを享受することにあり、ROEに代表される資本効率や株主還元政策は最も重要な位置づけにある。故に、独立取締役が「株主全体の利益」に関して十分に経営陣を牽制する事は重要なはずだが、多くの日本の上場企業は内部昇格した取締役が取締役会の大部分を占めており、「株主全体の利益」の代表は不在である。この実態は投資家にとって多くの矛盾を含み、海外の投資家から見ると非常に奇異である。

 日本のコーポレートガバナンスを整備しグローバルマネーを呼び込むことは、株式市場の活性化及び日本国民の資産形成を促し、深刻な年金問題の軽減にもつながるというメリットは、もっと注目されるべきである。

 では何故、改革が進まないのか。理由として、いくつかの仮説を提示してみたい。


1. 自社の株価に対する経営者の関心の低さ

 日本の経営者マインドでは、株価パフォーマンスと経営は別物という意識が強いように思われる。これは、自社の株価が下落する事によって困る事がほとんど無いからである。創業家経営の会社を除く多くの日本企業では、経営者の報酬体系の大部分が固定報酬で占められており、業績連動報酬(ストックオプション等)の割合は海外の企業(欧米アジア)と比較すると著しく低い。故に株価が下落することにより株主が被る「痛み」は経営者と共有されない。また、日本の株式市場では、上場企業に対する規律が働かない。海外の株式市場の場合、株価が低迷している企業は敵対的買収リスクに晒される。買収されると、株価低迷を招いた経営陣が入れ替えられるのは当然の結果である。また買収されなくても、独立取締役が過半数を占める取締役会が、株価低迷の責任として経営陣を解任する例もしばしば見うけられる。すなわち株価の低迷は、経営者の立場を危うくするのである。これに対し、株式の持ち合いや過度な買収防衛策に守られた日本企業に対しては、株価が低迷しているのにもかかわらず敵対的買収は極端に起こりにくい。また、業務執行取締役が大多数を占める取締役会が、株価低迷の責任を取って経営陣自らを解任する事はあり得ないといっても過言でない。この様に経営者の身分が概ね保証されている中では、株価に対する関心が頗る低いのも納得がいく。


2. 内部昇格の既得権益化

 内部昇格による取締役が大多数を占める日本の会社(特に監査役設置会社)では、代表取締役(内部昇格の社長もしくは会長)に権限が集中している。取締役の指名権や報酬権を握る社長(会長)の権力は絶大であり、自身の任期や後任の指名権も握っている。その結果、内部昇格の取締役が「株主全体の利益」を代表する存在とは到底言い難く、業績や株価の低迷を含む経営のアカウンタビリティ(結果責任)の所在も至極曖昧である。これら、内部昇格がもたらす権限は巨大であり、また株主チェックが不在の中での「楽な体制」は既得権益化しており、その既得権を脅かす可能性がある事柄には激しく抵抗するのも肯ける。


3. 改革プロセスに投資家の声が不在

 昨年には、オリンパス問題や大王製紙問題を受けて企業統治改革についていろいろな議論がなされたが、「社外取締役の選任義務付け」などには反対の声の大きい団体などの意見がヒアリングを通じて吸い上げられた。一方、そもそも「ガバナンス改革をし投資家を呼び込む」対象であるはずの投資家、特に海外の投資家の意見は驚くほど不在であった。改革が通ると自分たちの権益が侵される団体に対し改革の是非を問う事自体、本末転倒であろう。

 結論として、内部昇格の社長に権限が集中している中、株主に対するアカウンタビリティが問われる事のない「特権」を、自らの改革努力をもって簡単に手放すとは思い難い。しかしながら、日本企業のコーポレート・ガバナンス向上によってもたらされる効果は計り知れない。何故なら、コーポレート・ガバナンスの向上は、グローバルマネーを呼び込む事により株式市場を継続的な活性化に導き、日本国民の資産形成及び年金問題の軽減と言う形で日本国経済に対し大いなる貢献の可能を秘めているからである。