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コラム:日本でのコーポレート・ガバナンスのあり方

2012/05/16

京都大学大学院 経営管理研究部 教授 川北英隆

 投資家にとって、コーポレート・ガバナンスの方法には大別して2つある。エグジット(株式の売却)か、ボイス(企業経営への口出し)かである。

 エグジットの場合、その意味を広く解釈すると、「ある企業の株式を保有していて、それを売却する方法」と、「ある企業の株式を保有していないし、今後も買わない」方法がある。一方、ボイスの場合、株式を保有していないことには、ガバナンスを行おうにも手段が閉ざされている。

 日本の現実を前提とした場合、どちらの方法が望ましいのか。結論は、エグジットに軍配が上がるのではないだろうか。この理由を指摘することで、コーポレート・ガバナンスとは何なのかを考えるヒントにしたい。

 本協会の「新しい企業価値・経営指標を考える委員会」は、2010年7月から2012年4月にかけ、「上場企業にとっての、真の企業価値とその評価方法」および「真の企業価値を向上させるための手段」を探るため、活動してきた。この活動から、企業価値を高めるためのコーポレート・ガバナンスに関し、個人的に感じたことを指摘しておきたい。

 「企業価値を高める経営とは何か」、この本質は非常に奥深く、それを単純に語ることは不可能である。一方、「企業価値を棄損する経営とは何か」は、ある意味で単純である。長期に評価して、資金調達コストに見合った利益を生み出せていないことが、企業価値を棄損する。

 銀行借入だけの企業を想定してみよう。借入資金によって事業資産に投資するわけだが、もしも事業資産から得られる利益が借入資金に対する金利を下回っているのなら、その事業は投下した資本を目減りさせ、企業価値を棄損する。当然、そんな事業に手を出さないのが正しい。

 では、銀行借入に加え、株主資本で資金を調達している現実の企業の場合はどうだろうか。株主資本も無コストではない。そして、株式投資には大きなリスクがある。常識的に考えて、リスクが高ければ、より高いリターンが得られないと誰も投資しない。つまり、株主資本のコストは高くつく。

 この株主資本のコストを加味し、現在の日本の上場企業が事業活動のために調達している資本のコスト(税効果を考慮)を計算してみた。その結果は、製造業2.9%、非製造業2.2%となる。一方、事業資産が生み出す利益率(税引き後)は製造業2.3%、非製造業2.0%である。

 つまり、平均的な日本企業の事業活動は、調達した資本のコストを賄えていない。言い換えれば、企業価値を棄損している。

 この現実は、「投資家にとって、平均的な日本企業の株式に投資する行動が望ましくない」、「投資した株主資本が目減りする」ことを示唆している。

 現在、日本企業の平均PBR(株価純資産倍率)はようやく1倍である。1倍割れの企業が多数存在することになる。株価は水物であり、日々の株価に一喜一憂しても仕方ない。しかし、PBR1倍割れか、それに近い状態が2008年以降続いている現実は深刻である。長期間、資本コストを賄えず、企業価値を毀損している企業が多すぎるから、PBR1倍割れが日本市場の常態と化している。

 以上から、投資家にとってのコーポレート・ガバナンスとは、最初に投資できる企業を厳選することが出発点だと考えられる。まずは評価できる企業に投資し、より一層経営に磨きをかけてもらおうとのスタンスである。他方、評価できない企業には投資しない。この投資方法の真意は、エグジットのスタンスを貫くことであり、ある意味で株式市場に対する荒療法の実行である。

 日本企業の株式への投資は、この10年、20年の期間で評価すると、企業間格差が非常に大きかった。別の角度から見ると、「どの株式であっても投資をする」スタンスが正しくなかった。ボイスによって企業経営を正そうとの考え方が迂遠だったのである。


※お知らせ
新しい企業価値・経営指標を考える委員会の報告書は、ホームページに掲載されましたので、是非ご覧下さい。