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リレーコラム(第1回)「いまこそ電力市場の完全自由化を」

2011/10/06

政策研究大学院大学教授 大田弘子

 東電をめぐる問題は、原発事故の賠償や今後の原発の位置づけに関心が集中している。しかし、これらと同様に、あるいはそれ以上に重要な課題は、電力市場の改革である。

 今回の原発事故の後、仮に広域で需給を調整する電力市場が存在し、全国の電力会社や新規の電力事業者、あるいは一般企業がこの市場を通して電力を売買できれば、計画停電は起こらず、電力不足も軽減され、経済に与えるダメージははるかに小さくてすんだだろう。

 わが国では1995年以降3回にわたって電力自由化が進められており、50kW以上の需要家については自由化されているし、2004年には日本卸電力取引所も設立された。しかし、自由化に抵抗する電力会社の力は強大で、現実には市場機能はきわめて不十分にしか働かず、地域ごとの独占が維持されている。

 今回の大事故で、独占がいかに危機管理能力のない企業をつくるか、また地域別に分断された硬直的な市場がいかに危機に弱いかが如実に示された。この反省をしっかりと踏まえ、まずは現在の卸売電力取引所を機能させるための改革を行い、並行して本格的な電力市場改革の議論に着手すべきである。

そもそも、電力のように巨大設備やネットワークを必要とする事業の場合は通常の競争が成立しないため、地域ごとに独占を認め、そのかわりに料金が規制されてきた。しかし、小規模で高効率の発電技術が発達したことで、もはや発電分野においては独占を認める根拠が失われた。

 独占を認める根拠が崩れれば、料金を規制する必要もなくなる。電力の卸売市場をつくり、ここで需給を反映した価格形成がなされることが当然の方向である。他方、送電については、新規参入者が巨大な送電網を新たに建設するのは困難だし、非効率でもあるから、依然として規制が必要だ。また、電力は、ネットワーク上で需給を常に一致させなければ停電が発生するため、系統運用とよばれるシステム管理が必要であり、これも市場には委ねられない。

 すなわち、電力の生産・送電(系統運用)・販売の機能を分化(アンバンドリング)し、卸売の取引所を創設し、独立した送電機能をもつことが、ここでいう完全自由化である。わが国では、発電と送配電の分離は電力会社内の会計上の分離にとどまっている。卸売電力取引所も、設計上の問題があって不十分にしか機能していない。

 電力自由化の目的は、電力料金を下げることにとどまらず、危機に強い柔軟な電力市場にすること、新規参入者によって多様な電力サービスが提供されるようにすることにある。

 これらの目的の実現のためには、家庭用を含めて自由化を行い、発電・送電・小売を会計上ではなく会社として明確に分離すべきである。家庭用まで自由化が及ぶことで、電力サービスの革新も起こってくる。また、卸電力取引所では、厚みのある多様な取引が全国規模で行われるようにする必要がある。そのためには、新規参入者が不利にならないような入札ルールの設定が不可欠だ。本稿では原発については触れる余地がないが、これまで原発の位置づけの曖昧さが電力政策を歪めてきた大きな原因であり、政府の役割の明確化が当然必要である。議論すべき論点は多い。早急に議論にはいるべきである。

 電力市場改革の結論が出る前にも行うべきことがある。今冬と来年の電力不足を軽減するためにも、現在の卸売電力取引所の機能を強化させるための次のような見直しが最低限必要である。

 第一に、最大の問題である市場の厚み(流動性)の不足を改善するために、電力会社に一定の供給を義務付ける。電力会社間の相対取引を禁止し、市場を通じた取引にすることも必要である。第二に、需給調節(系統運用)のエリアを広域化して、東日本全域・西日本全域など大きな単位で市場取引がなされるようにする。第三に、新規参入者に不利にならないよう、価格設定は原子力・水力・火力など電源別の入札とする。

 これらの改革を行うためにも、取引所のガバナンス機能を見直さねばならない。理事会承認には4分の3の賛成が必要だが、現在9名の理事のうち3名を電力会社が占めており、電力会社が反対することの議決は実際上むずかしい。取引所の公共的性格を考えれば、利害関係者が実質的な決定権や拒否権をもたないよう定款を見直すべきである。証券取引所のような電力取引所を持つことは日本経済の活力に不可欠である。なすべきことはあまりに多い。


○リレーコラム(第2回)「欧州危機、政府と企業のガバナンスを考える」
株式会社 経営共創基盤 代表取締役CEO 冨山和彦(2011/10/28)