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コラム:福島原発事故の原因は国と東電のガバナンス不全にある

2011/09/06

日比谷パーク法律事務所代表 弁護士
大宮法科大学院大学 教授 久保利英明


1. 原発事故と東電・国の責任

 福島第一原発事故の発生から既に半年が経過したが、その直接的な原因を分析してみれば、


  1. 東京電力が強烈な地震や巨大な津波の発生を想定しなかったリスクマネジメントの失敗

  2. そのような東電の原発認可延長申請を厳格に審査せず、言うなりに行ってきた保安院の許認可審査の不備

  3. クライシスにあたって全く機能しなかった東電と政府の危機対応力の欠如にある

と言わざるを得ない。

 しからば、これらの欠陥をもたらした根源的な原因は何であろうか。


2. 東電のリスク管理能力不足の原因は東電のガバナンスの欠如にある

 企業におけるガバナンスの役割は業務執行者への規律付けである。株主による取締役選任と監査役や社外取締役による代表取締役・最高業務執行者へのコントロールが緊張感をもって行われることにより、企業の適正にして効果的な業務遂行が保証される。

 取締役選任は株主総会において1単元株1議決権の原則に基づく株主の投票により行われる。

 しかし、東電では、事件後の6月総会において、これだけの事件を起こし、債務超過に陥るような経営を行った取締役や牽制機能を発揮できなかった監査役が、圧倒的多数の支持を得て選任された。このことは株主が有する解任又は選任権限が適切に行使されなかったと評価せざるを得ない。この役員体制は株主の利益を更に損なうリスクがあるからである。いわば東電株主は、堀江社長を支持し続け結局紙くず株式をつかんだライブドア株主と同様にガバナンス機能を喪失していると言える。業務執行者と株主との間の緊張感のなさが、リスクの想定を甘くし、クライシス発生時の対応に失敗する事態を招いたというガバナンス認識が双方に欠如しているのである。


3. 保安院の審査が厳正に国民の安全確保の視点から遂行されなかったのは、保安院に対する政府のガバナンスがその活動を強化・保証するベクトルを持たなかったためである

 原子力安全・保安院は国策として原発を推進する政策遂行の中核組織である経産省の資源エネルギー庁のさらに下部組織である。独立性をもたず、保安院のトップは文系の事務官僚であり、原発から国民を守るミッションを厳格に履行する能力も権限も与えられていなかった。米国における原子力規制委員会(NRC)をはじめ、フランス(ASN<原子力安全機関>)、英国(HSE<安全衛生庁>)など、どの国も独立組織で、原発の建設・運転の許認可や安全検査を自ら行いうる権限と能力を有している。また、いずれも専門家集団で、NRCのヤツコ委員長は素粒子論の博士号を持っている。これらと比較すると保安院は規制官庁として格段に劣っている。立法府・司法府を含めた国の省庁に対するガバナンス方針が、電力会社や原子力村の利益確保に向いており、国民の安全確保に向いていなかったのである。安易に原発を認めてきた裁判官の姿勢も180°転換する必要がある。


4. 原発事故に対する政府の積極的な情報開示や強力な指導は、強固なガバナンスに支えられていないため望むべくもなかった

 原発事故に限らず、尖閣列島での中国漁船の海上保安庁巡視船への攻撃事件対応にもみられるように、国家の危急時において政府は政局や外圧に振り回され、毅然たる対応を行えなかった。

 大統領制や首相公選であれば、少なくとも選任時においては国民の多数の支持が明確であり、その後、一定年数は解任されない制度があれば、権限行使の自由度は大幅にアップする。

 しかし、我が国は国民一人一人が同一価値を有する一票を行使して大統領(台湾では総統)を選出する制度を採用していない。その代わりとして代議制民主主義を採用している。選挙に当選した衆参の国会議員は立法にあたるだけではなく、国民の「代議員」として均等な一票を行使して多数決で内閣総理大臣を指名する。その総理大臣が国務大臣を任命して内閣を組織する。最高裁判事の任命も内閣が行う。いわば国会議員選挙が単なる立法府構成員の選出にとどまらず、行政府たる内閣、司法府のトップたる最高裁判事まで決定するのである。

 ところが、選挙区割りを見れば明らかなとおり、議員数は人口比例によっていない。従って衆参国会議員の選挙における国民の投票権の価値は、住所によってばらばらであり、その差は衆議員においては1:0.4、参議院においては1:0.2にまで及んでいる。すなわち、代議員制を標榜しながら、議員一人を選ぶ各選挙区の選挙民数はバラバラであり、その差についての原則は一切ない。デタラメなのである。代議員制度の根幹である同一人数の国民が一人の議員を選ぶ原則が歪められているのである。衆参のねじれ現象が話題に上るが、参議院の選挙区選出議員の過半数は33%の国民によって選出されている。「多数決」ではなく「少数決」であり、民主国家の名に値しない。

 このようなあやふやな基盤に依拠する政権は、誰がなろうとも1年で、いとも簡単に崩壊するから、強いリーダーシップの発揮など期待できるはずがない。国家ガバナンスの欠落が原因である。


5. ガバナンスなき日本に明日はない

 原発事故は日本の政治構造と企業構造の根本的な欠陥を露呈させた。「がんばれニッポン」と叫ぶだけで復興が可能になるわけではない。「代議制民主主義」を維持するなら、それに相応しい「選挙制度の大改革」が必要である。企業の再生を願うのならそれに相応しい「株主の権限行使」が必要である。一国民として、一株主として、ガバナンスの確立に対する認識と努力なしには、明日の日本国も日本企業もないことを覚悟すべき時である。