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コラム:震災の影響と復興という名の成長戦略

2011/06/10

株式会社大和証券グループ本社 最高顧問 原良也

 最悪に備え、楽観に対処せよ-危機管理・リスク管理の原理原則である。今は厳しくても、将来の安心への投資を怠ってはならない。まさに先憂後楽が企業ガバナンス上、また企業のサステナビリティ上、絶対的必要条件であることを痛感させた大震災であった。

 この大震災の日本経済への深刻な影響については、多くの専門家が分析し発表しており、その分析結果は往々にしてよく似た結果である。GDPの3~5%、20兆円プラスマイナス5兆円のストックの損失。先の阪神淡路大震災の前例があり、それを参考にした分析であるため同じような結果になるのであろうが、今回の大震災は自動車産業を中心としたサプライチェーンの寸断や、原発事故による電力不足・補償問題などの二次災害の影響の広がりから、さらに世界経済への影響を考えれば、その損失額はどれだけストックが被害にあったかというだけでは計り知れない。経済活動低下のダメージはずっと大きいのではないか。

 史上最悪の大震災は、日本経済が失われた20年から未だ抜け出せずに、また先進国唯一の長期デフレの中で、多くの構造問題を抱えてもがき苦しみ、閉塞感が漂う真っ只で起こった。困難・試練というものは時として重なる。だが、国難と言われる最大の試練を迎えた今こそ、大きな変革の契機ではないだろうか。夜明け前が一番暗いとよく言われる。明るい朝を迎えるためには、被災地だけに留まらず、それによって日本経済全体の経済の停滞トレンドをブレークスルーするような「復興」という名の成長戦略が必要である。それができなければ日本には未来はない。

 多くの犠牲者を出した今回の大震災は弱りきった日本経済に徹底的なダメージをもたらした。私達は犠牲者に報いるためにも、この試練を成長の糧にしなければならない。復興という名の成長戦略には、未来を先取りした思い切った規模で、今より遥かに良いものを作るような、また未来と世界に向けた希望の芽を育むような、そんなダイナミズムが必要である。大きな発想の転換が新しいものを生み出し、日本人一人ひとりの知恵と行動がそれこそ想定を遥かに超えた新生日本を創造するエネルギーとなるのである。

 鎖国後の復興期、敗戦後の復興期に次ぐ第三の復興期を創造しなければならない。そのためにまずは復興戦略に思い切った財政発動をするべきである。最悪の場合に備えた思い切った危機対応投資が必要であるように、震災後の復興戦略でも、後悔しないような大構想がその後の日本の姿を左右するといっても過言ではないだろう。

 「この時期にやれることは最大限なんでもやる」。政府、官僚、自治体、企業それぞれがこのような気構えを持つべきである。そのための財源については、ここは国民が一丸となってこの国難を乗り越えること、また復興という名の経済成長に日本の未来をかけることに異論はないだろう。それには、世界一位の個人金融資産を積極的に活用するような仕組みづくりが急がれる。また、日本全体を広域経済圏に区分し、多くの経営資源を共有し、効率的な経済圏を作り上げ、特に東北地区は特区として大幅な規制緩和の中で、世界の中の東北日本に変革する。そこに日本経団連が提案するサンライズ計画の目玉である未来産業都市づくり、エコタウンやコンパクトシティで世界のモデルとなる都市、街づくりを一気にすすめるのである。今回のような大震災が他地域に起こる可能性がある点を考慮すると、東北に効率的な経済圏を作り上げることは、リスク分散の観点からも必要であり、またサプライチェーンの分断を避けるための方策にもなる。

 未来型インフラ構築、未来型漁業、未来型農業の確立が日本にとっての喫緊の課題であっただけに、まさにそれらを実現する時が来たのである。それと同時に産官学がひとつになって、世界に通じる人材を育成し、研究開発の為に世界中の知能や産業を引き寄せる一大クラスターを創造する―そしてこれを機に農業問題にも全国モデルとなる仕組みを作り上げ、FTAやTPPに思い切って参加する開国日本を創るべきである。これまでのしがらみや諸々の規制を開放し、世界の企業や人々が日本に目を向け、日本製品やサービスを今まで以上に高く評価してくれるようにならなければならない。日本は技術大国であり、また高いブランドを有するコンテンツ(情報・文化・芸術)の発信国でもある。GDPに占める貿易の割合を高め、貿易立国として、日本の発展・成長を確立するのである。

 それにしてもリスクマネジメントは経営そのものであるが、民間企業は安全・安心と同時に効率性も求められるのである。したがって、今回のように無限のリスクが想定される事業には公と民によるリスク管理、リスク分担の在り方を改めて根本から議論・検討すべきであろう。

 日本人は国難にあたり、一致団結しその力で大きく飛躍する力を持っている。今こそ政治の決断、官僚の知見、企業の展開力と日本人の叡智と行動力に期待したい。今まさに問われているのは、復興という成長戦略の構想力と実行力につきる。