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コラム:独立役員は通常役員より重い責任を負うのか

2010/12/02

西村あさひ法律事務所 弁護士 下條正浩

平成22年3月31日に株式会社東京証券取引所(以下、「東証」という)の上場整備懇談会は「上場制度整備の実行計画2009(具体案の実施に向け検討を進める事項)」に関する審議のまとめを発表した。その別紙1として、「独立役員に期待される役割」が添付されている。これは一見するとなるほどと思わせるものであり、その後の文献等もこれを所与の前提として独立役員は何をすべきか等が論じられているようである。

しかし、よく考えてみると、なぜ独立役員のみがこのような役割を期待されるのかという疑問が出てきた。そこで本稿において、この問題点を検討することとした次第である。なお、以下の記述は独立役員が取締役である場合を前提とするが、独立役員が監査役である場合にもほぼ同様のことがあてはまる。


1.取締役の責任

(1)一般取締役

会社法は取締役一般についてつぎの注意義務及び責任を規定している。


(i) 取締役の注意義務

善良な管理者としての注意義務(以下、「善管注意義務」という)(会社法330条、民法644条)
忠実義務(会社法355条)


(ii) 取締役の責任

会社に対する責任(会社法423条)
第三者に対する責任(会社法429条)


(iii) 責任追及

株主代表訴訟(会社法847条)


(2)独立取締役


それでは、東証の「独立役員に期待される役割」は上記の会社法上の取締役の責任を独立役員に関して加重するものであろうか?

この点に関し、東証の上場制度整備の解説94ページは「その職責は会社法の定める範囲を超えるものではない」としている。そうすると、会社法上の責任を加重するものでないということで解決されているということになる。

しかし、上記の取締役の責任は同じとしても、取締役の善管注意義務の内容として独立取締役の注意義務は加重されるのではないかという疑問が依然として残る。

東証の斉藤淳社長は平成22年4月27日の記者会見において「独立役員は非常に責任ある立場にある。独立役員が機能していない場合はクラスアクションがその独立役員に向かってもいいと思う。」と述べた。

また、江頭憲治郎教授の株式会社法第3版(以下、「江頭会社法」という)399ページは「専門的能力を買われて取締役に選任された者については、期待される水準は高くなる」と述べている。

取締役の注意義務は個々の取締役ごとに判断されるところ、独立取締役はその独立性故に、その他の取締役よりも高い水準の注意義務を負うのであろうか?この点はもちろん最終的には裁判所が判断するところであるが、東証がこのような一種の行動基準を定めたことにより、裁判所の判断に影響を与えるのではないであろうか?


2.法的責任ないし注意義務の加重か?

東証の「独立役員に期待される役割」は責任とか注意義務という言葉は使っておらず、単に期待されるとか望まれるといっているだけである。

個人である取締役に法的責任を課するのであれば、法学の大原則からいって国会が制定する法律によることが必要であり、会社法の改正を要するであろう。

しかし、会社法の改正は時間を要するので、とりあえず証券取引所の規則改正で独立役員の確保を求め、その役割については東証の見解として発表されたものである。

「独立役員に期待される役割」において独立役員のみを抜き出してそうでない役員と区別して扱う理由はどこにあるのであろうか?

東証は一般株主の保護を図るという政策的な理由から、上場会社に独立役員の選任を強制し、独立役員が一般株主の利益を守るよう行動することを期待すると説明している。この場合、注意すべきは一般株主とはどのような株主を指すのかである。東証の説明によれば、一般株主とは株式の流通市場を通じた売買によって変動しうる株主をいうとされている。そうすると、一般株主は必ず少数株主であるが、長期的に株式を保有する少数株主は一般株主には当たらないということになりそうである。

このような独立役員に対する期待は単なる期待にとどまるものか、それとも取締役の善管注意義務の内容を構成するものであろうか?もし単なる期待にとどまるのであれば、一般役員にも課してよいのではないかと思われる。これに反して、善管注意義務の内容を構成するのであれば、なぜ一般役員にも同じ注意義務が課せられないのであろうか?

「独立役員に期待される役割」自体が、「一般株主の利益は基本的には上場会社の企業価値の向上により図られるものであり、本来、上場会社のすべての役員が担うべき役割である」と述べている(6ページ)にもかかわらず、その他の箇所では独立役員に特化して期待される役割を求めている。

江頭会社法414ページは次のように述べ、取締役に独立性があるかどうかで区別していない。

「(3)支配株主の利益を図る取引 取締役の利益相反取引と同様に会社利益が害される危険は、取締役に対し事実上の影響力を有する支配株主(親会社等)と会社との取引(企業グループ内の製品の売買等)にも存在する。会社に少数株主が存在する場合には、取締役は会社に対する忠実義務を免れないから、支配株主の圧力の下に会社に不利な非通例的取引をなした取締役は、会社の損害を賠償する責任を負う(会社423条1項)。企業グループ全体の利益のため会社の利益を犠牲にしたとの抗弁は認められない。」

そこで、江頭教授が例としてあげられた企業グループ内の製品の売買にヒントを得て、次のような仮想事例を考えてみた。


仮想事例

石油精製会社(親会社)と化学品製造会社(上場子会社)との間で子会社製品の原料となる石油精製品の長期販売供給契約が取締役会決議事項に該当するとされている場合、市況よりも親会社にとって有利な条件で契約することが取締役会で決議された。取締役10名中、独立取締役1名、親会社派遣取締役2名、社内取締役7名であった。親会社派遣取締役2名は棄権し、社内取締役7名は賛成した。

「独立役員に期待される役割」によれば、独立役員は一般株主の利益保護を踏まえた行動をとることが期待されている。したがって、上記仮想事例では独立役員は上記決議の際反対意見を述べることが期待されているので、反対意見を述べれば、注意義務を果たしたとして会社法上の責任を問われることはないであろう。反対意見を述べなかった場合には取締役の注意義務違反として会社法上の責任を問われるのであろうか?それとも、反対意見を述べなかったことが開示され、次回改選時の株主総会において当該独立役員は選任されないことが期待されているだけなのであろうか?しかし、もちろん取締役会の議事の内容は公表されていないし、一般株主は取締役の選任を決定できる立場にもない。

これに対して、親会社派遣取締役及び社内取締役の場合は反対意見を述べなかったとしても一般株主の利益に配慮することはこれらの取締役の注意義務を構成しないので、会社法上の責任は問われないということになるのであろうか?

このような差異はどこから来るのであろうか?

蛇の目ミシン事件に関する東京高等裁判所の判決は暴力的な脅迫行為を前提とすると取締役の判断は誠にやむを得ないことであり期待可能性がなかったと判断した。

親会社派遣取締役の場合には、親会社の方針に反対することは期待可能性がないというのであろうか?

社内取締役の場合には、社長及び親会社の方針に反対することは期待可能性がないというのであろうか?

これに対して、独立取締役の場合には、社長や親会社に依存しない独立の立場にあるから反対意見を言うことが期待されるというのであろうか?

蛇の目ミシン事件に関する最高裁判所の判決は、期待可能性論を一蹴し、「会社経営者としてはそのような株主から株主の地位を濫用した不当な要求がされた場合には法令に従った適切な対応をすべき義務を有する」と判示した。

このように考えると、上記の仮想事例の場合においてガバナンスが効かなかったことについて、独立役員が機能しなかったとして独立役員のみを指弾することは適切であるとは思えない。むしろ、一般株主の利益に配慮するという役割ないし注意義務は役員すべてが負っているというべきではなかろうか?そのように考えて初めて東証が平成22年6月29日に発表した「上場会社は支配株主と重要な取引等を行う場合は、支配株主と利害関係のない者による、当該取引等が少数株主にとって不利益でないことに関する意見を入手しなければならない」という規則との平仄が合うものと考える。なぜなら、全役員が一般株主の利益を保護するという義務を負っているからこそ、その義務を果たすために独立第三者の意見を徴収するからである。


3.参考―米国判例の一例

アメリカでは、支配株主は少数株主に対してfiduciary dutyを負うとされている(この理論を日本でも取り入れることができないかが議論されているが、江頭会社法126ページは未だ判例等の承認を得るに至っていないとしている)。

一般的に、アメリカの判例では、取締役は会社のみならず、その株主に対してもfiduciary dutyを負うとされている。この場合、取締役が独立であるか否かを問わず、また、相手方たる株主が支配株主であるか、一般株主であるかを区別していない。

取締役の責任追及については、代表訴訟を起こすにはまず取締役会が同意しなければならず、取締役会が同意しても、裁判所は経営判断の原則を適用するので、取締役が責任を負うとされた判決は多くない。Van Gorkom事件において、デラウエア州最高裁判所は取締役がキャッシュ・アウト・マージャーを承認した際、十分に情報を得た上で判断しなかった点において注意義務違反があり、経営判断の原則は適用されないと判断した。この場合、取締役10名中、5名が社内取締役であり、5名が社外取締役であったが、社外取締役のみではなくすべての取締役が注意義務違反を問われた。これは社外取締役が責任を負うとされた例外的な判決であるとされている。この件は、市場価格の50%超のプレミアムをつけた買収価格に不満を持つ株主が取締役等を訴えたクラス・アクションであった。株主総会では70%の株主が賛成したにもかかわらず、取締役が敗訴した。

以上