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コラム:コーポレート・ガバナンス 色々

2010/10/07

ソニー株式会社 ソニーユニバーシティ学長 青木昭明

 20年程前、私がソニー株式会社の取締役になった時、英文名刺に担当部門のSenior General Manager(本部長)というタイトルと併せて、Director of the Board(取締役)と印刷した。欧米、特に米国のビジネスマンと名刺交換をする度に、相手方は私の名刺を見て少々驚くか、もしくは訝ることがよくあった。当時、米国の大企業では既にCEO、COO、CFO以外で社内のメンバーが取締役会に名前を連ねるのは稀であったからだ。

 今でこそ、ソニーも14名の取締役の内2名が社内で12名が社外であるが、当時はなんと35名の取締役がいて社外は2名だけであった。毎月開かれる取締役会は、監査役を含めて40名近くの役員が集まり、形式的に審議するだけのもので、末席を汚していた私の目には、全く形骸化した何とも無駄な会議と映った。

 その後、1997年にソニーは取締役会の改革に手を付け、監督と執行の分離を行い、社内の取締役の大多数は執行の方に回った。この時、ソニーが執行役員という名称を創った。私も常務取締役から執行役員上席常務になり、和文名刺にはその旨印刷した。当初は違和感を覚えたが、執行役員制度は日本企業の間に瞬く間の内に広まっていった。これは多くの日本企業が取締役会の形骸化に問題意識を持っていたからだろう。結果として、取締役の員数が減り、取締役会の活性化には大きく貢献したのではないかと思う。しかし、社外取締役の員数が増えた訳ではないのでコーポレート・ガバナンスの観点からは余り進歩はなかったと言える。

 2003年に、ソニーは委員会等設置会社に移行し、取締役の半数が社外になり、米国型に近づいていった。委員会設置会社では、3委員会(指名、報酬、監査)の委員長が社外で、委員の多数も社外と規定されているので、日本の企業にとってはハードルが高過ぎると思われる。現在、東証の要請している1名の独立役員の確保ですらそう容易でない現状を見るにつけ、委員会設置会社は今後も少数に止まるであろう。

 さて、取締役として8年、執行役員として7年務めた後、私は5年前にソニーを退任した。その後、現在までMicron Technology, Inc.(ナスダック上場)とシチズンホールディングス株式会社の独立社外取締役を務めている。前者は米国の典型的なハイテクの会社であり、後者は80年の歴史を持つ、日本の伝統的な会社である。それぞれの取締役会について、コーポレート・ガバナンスの観点からの特徴を挙げてみる。

 Micronの取締役は7名で、CEOを除いて全員社外である。取締役会の昼食時に開かれるエグゼクティブ・セッションでは、CEO抜きで自由に議論する。議事録は残さないが、CEOに伝える結論がある時はリード・ディレクターがCEOに直接話をする。ガバナンス委員会は指名委員会も兼ねるが、一番大きな役割は、CEOの継承プランのレビューと新しい取締役の任命である。現在も取締役の増員のため、人材銀行から挙がって来た候補者を手分けして面接を行い、最終的にはガバナンス委員会で決定する。CEO及び他のエグゼクティブの報酬は報酬委員会で毎年レビューし決定する。これもコンサルタント会社を使い、同業他社のデータを集めそれを参考にする。

 シチズンは監査役会設置会社であるが、所謂ハイブリッド型で指名委員会と報酬委員会を設けている。取締役は9名、その内、社外が2名で、その2名と社長を含めた3名でそれぞれの委員会を構成し、委員長は社外取締役が務めている。現社長を選出した時は、前社長が5名の候補者を出し、それぞれの候補者について長所・短所等コメントを付けてもらった。社外の2名が候補者及び他の役員にインタビューし、各候補者の評価を行い、指名委員会で合議して決定した。役員報酬については、以前は社長の裁量で全て決定していたが、現在は同業他社を調査し、固定給と賞与のレベルと評価の仕組みを明文化し、支給額は株主総会の前に報酬委員会で決定する。両委員会の決定事項は取締役会に報告し承認を得る。

 コーポレート・ガバナンスのあり方は色々で、共通にこれがベストというものを選ぶのは難しい。国、業種、その会社の歴史(或いはカルチャー)によって異なって良いと思う。しかし、グローバルな投資環境を考えた場合、安心して投資できる最低限のガバナンスを担保する仕組みが必要である。その点、委員会設置会社は申し分ないのだが、執行側から見ると、社外取締役に十分な理解を得るための手間と時間の負担は大きい。日本企業の選択としては、監査役会設置会社として、最低2名、できれば3名の独立社外取締役を確保し、ハイブリッド型を採用するというのが現実的であり、海外の投資家の理解も得易いのではないかと思う。

 最後に、社外取締役無用論を叫ばれている企業のトップの方々へ一言。優秀な経営者の下、着実に成長している企業にとって、平時は社外取締役の貢献できる機会は少ないかもしれない。しかし、社内取締役が大多数で構成する監査役会設置会社では、社長の権限が絶大で、その企業の将来は一重に社長の判断に掛かっていると言っても過言ではない。過去に、偉大な経営者が長期政権のあげく、会社の存続を危うくし、晩年を汚した事例には事欠かない。企業は多くのステークホルダーと係わる社会の公器である。社長一人の暴走で破綻する様なことは許されない。それを防ぐためにも、社長から独立した社外取締役の存在は重要である。