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コラム:株主総会と情報開示

2010/01/15

大宮法科大学院大学教授 野村ホールディングス取締役 
弁護士 久保利 英明氏

1.株主総会のビジュアル化の流れ 

 09年版の総会白書によればビデオやプロジェクターを利用した株主総会のビジュアル化を採用している会社は73%に上っている。対象としては事業報告や連結計算書類の内容が圧倒的である。資本金500億円超の企業では約半数がナレーションも用いて、議長の負担を軽減している。多くの会社の招集通知添付の事業報告は白黒印刷の無味乾燥な文章の羅列にすぎない。これを年配の議長が老眼鏡に掛け替えて、一字一句間違えないように読み続けるのは苦行に近い。これをカラーにしてグラフ化したり、工場や新製品の映像を挿入したりしてビジュアル化し、プロのナレーターにより説明する方が出席株主にとってわかりやすく、会社の現況の理解が進むことは間違いない。株主が飽き飽きしたという顔つきで早く質問をさせてくれとばかりにモゾモゾしているのも誠に気の毒な光景である。


2.どれだけの人が総会に来るか

しかし、肝心の株主総会にどれほどの株主が出席するかと言えば、同白書によると、その人数は(1)21人〜40人(20.6%)(2)41人〜 60人(17.3%)(3)61人〜80人(13.2%)と言う程度に過ぎない。勿論巨大会社を中心に現実の出席株主数が300人超という会社も 12.6%に上るが、それらの会社の総株主数は5万人を超えているのが通例であるから、概ね0.5%の出席率に止まる。いかにIR型総会とか、対話型総会とか言ってみたところで圧倒的多数の株主は総会場に来ないのであり、大半の個人株主には無味乾燥な文章と意味不明な決算数字の羅列文書が配達されるにすぎない。大半の招集通知はちらりと見ただけで屑籠に捨てられる運命にある。法人株主や機関投資家は決算短信などで既に大半の情報は得ており、今更、招集通知で業績を判断するわけでもない。個人株主に会社の現況をわかりやすく説明し、経営陣の努力と成果を認識していただいた上で、決議事項に賛成してもらうために招集通知は発信されるのであろう。即ち、総会のビジュアル化とは、現実の株主総会の場に於けるグラフ化や映像化ではなく、招集通知とその添附書類などの情報開示のビジュアル化こそが本筋である。


3.招集通知のビジュアル化と情報量アップを目指せ

驚くことに、総会招集通知等については百年一日のごとく無味乾燥な文書を送り続ける企業といえども、総会終了の翌日には株主に社長のにこやかな笑顔の写った挨拶文と共に、カラー印刷された冊子が届く。これが会社法にも金商法にも送付を義務づける規定のない「事業報告書」である。これに金を掛けるくらいならどうして招集通知等をカラー化し、グラフ化し、映像をふんだんに入れたビジュアル化をしないのであろうか。そうすれば事業報告書を送付する必要もないのである。

ブリヂストンもエーザイも既にそうしている。特にエーザイの招集通知は見事である。全編カラー印刷の224ページ立てである。冒頭に社長の挨拶が入り、決議事項たる取締役選任議案は一人1ページを費やして法定事項以外に就任の抱負や独立性を含む候補者とする詳細な理由を記載している。事業報告には新薬の開発状況から株式の相互保有の明細や株価の変動状況まで記載されていて、これ一冊で会社の全貌が分かるように工夫されている。株主が疑問に思うであろうポイントについてはFAQが示され、懇切丁寧に索引まで付されている。これだけの分かり易さと網羅的な情報量を両立させたことでエーザイの株主に対する姿勢は明かであり、だからこそ、そのコーポレート・ガバナンスは高く評価されているのである。

総会をお祭り騒ぎとする時代は終わった。会社執行部は投資家である株主に必要にして十分な情報を提供し、共通の基盤に立って株主と議論をすることが求められている。質量ともに十分な情報提供をせずに、お題目のようにコーポレート・ガバナンス重視を唱えても誰も信用しない時代が既に始まっているのである。