コラム:脱株主総会の模索

2009/12/08

法政大学法科大学院教授・弁護士
三井住友海上グループホールディングス取締役(社外取締役)
関 俊彦氏

 株式会社のガバナンスの面で近年放置できなくなっている問題は、株主総会の権限をどうするかである。株主総会は株式会社の最高意思決定機関であることに違いはないが、そうはいっても、特に大規模の会社において、多くの株主は日常業務に関心がないし、重大な問題を処理するための十分な知識も経験も乏しい。そもそも数万人の株主をサッカー場に集めて、さあ議論しよう、さあ決議しようなどというのはナンセンスとしか言いようがない。それならば、会社法が伝統的に株主総会の決議を要すると定めてきた行為について、総会決議は不要であるという制度に改めればよいのか。もしそういうことになると、経営陣の独走になってしまうおそれはないのか。脱株主総会決議はどのようにして達成すべきなのか。一つの例で考えてみたい。

 平成17年に成立した会社法の組織再編行為の中で注目すべきものとして新設分割がある。他社と共同で行う共同新設分割もあるが、ここでは経営陣が他人の意見を聞かないで勝手にできるものを探すという観点に立って、一社が単独で行う新設分割を考える。新設分割とは、会社の一部の財産を切り出して、会社が設立した新会社に帰属させる行為である。新設分割をするには、原則として株主総会の特別決議が必要であるが、例外として小規模の財産を切り出すだけの場合は総会決議を不要としている(簡易新設分割)。

 具体例として、A社において、同等規模の事業所が六つあったと仮定して、そのうちの一つを切り出して新しく設立したB社に移すことが、簡易新設分割手続によって可能である。A社から切り出す資産の額がA社の総資産額の5分の1を超えなければ株主総会を開く必要はないのである。しかも、新しく設立した B社の経営陣はもともとのA社の経営陣が自由に決められるし、新設のB社の発行する株式は会社分割の対価としてすべてA 社に帰属する。

 この簡易新設分割が行われる場合に、A社の株主には株式買取請求権も認められていない。株式買取請求権は、多数決に破れた少数の株主が、多数派の株主の意向に従って会社に居続けることを拒否し、自己の株式を買い取ってもらって会社から退出することができる権利であるから、これを行使されると会社にとって資金が必要になる。その権利がA社の株主に認められないということは、つまり、A社は株主への払い戻しを考えないで組織の再編ができるということである。

 要するに、A社の取締役会が株主に相談することなく、会社の財産を持ち出して別の会社を作り、その経営を実質的に牛耳ることを認めていることになる。その後B社は株式の第三者発行をすることができるが、引受人をだれにするか、払込金額をいくらにするかなどについて、たとえB社の株主総会の承認が必要であるとしても、その総会における株主はA社のみであり、A社の株主には発言権がない。A社の経営陣にはかなりの自由が認められているといわなければならない。懐疑的視点で見れば、新設分割における脱株主総会決議の手続は、取締役の個人的な利益に傾きやすい経営を可能にしていると揶揄されても仕方がないであろう。

 さらに、A社はB社を設立したのと同様の手続で次々に新設分割をしてC社やD社を作ることもできる。いわば、散し分割ともいうべき行為である。その度に、 A 社の資産や事業がA社の株主から手の届きにくいB社、C社、D社に流れてゆくことになる。

 これは脱株主総会決議が立法に現れた一つの姿である。株主総会に判断させることが時代錯誤であるという主張が正当であるとしても、これほどの経営の自由を放置しておいてよいものであろうか。

 対策を考えなければならないが、アイディアとしては、役員の資格や選任手続を合理化した会社についてのみ、一定の行為について総会決議の省略を認めるという方向がある。業務の執行や業務の監督を担当する機関を構成する役員の人選に一定のタガをはめることによってガバナンスを強化した会社についてのみ脱株主総会の特典を認めるのである。ここでの議論に沿って述べれば、取締役の資格や選任手続において、経営中枢が行使する裁量権に合理的制約を加えた制度を採用した会社においてのみ、株主総会決議を省略して組織再編行為をすることができるという制度にすることによって、脱株主総会化を達成するのである。

 ドイツの共同決定制度のように、執行部を監督する監査役会の中に株主代表に加えて従業員代表の指定席を設けるという制度もあるが、国情の相違が感じられる。社外取締役制度について、脱株主総会を達成する手段の一つであるという位置づけも間違いではない。

 脱株主総会化は難問であることに違いはないが、さりとて、いつまでも放置しておいてよいという問題でもない。