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コラム:「アメリカ型コーポレート・ガバナンス」の誤解

2009/09/07

ユージン・パシフィック 代表 鹿毛雄二氏(元 企業年金連合会 常務理事)

 今回の経済・金融危機を引き起こした要因をめぐり、短期利益志向=株主重視のアメリカ型コーポレート・ガバナンスの失敗だ、やはり長期的・全ステークホルダー志向の日本型経営が正しかったのだ、との声が一部で聞こえてくる。

 アクティビスト・ファンドなど一部外人投資家が、日本企業の配当政策やガバナンス構造に強いプレッシャーを加えてきたことに対する反発もあって、「日本型経営、日本型ガバナンス」があえて強調されているという面もあろう。

 しかし、よく中身を見てみると、こうした「アメリカ型」、「日本型」、という形式的分類は、決して正確でないだけでなく、それぞれの国の持つ課題や長所と欠点を見失わせるという危険性を持つ。

 第一に、いわゆる「アメリカ型」の、株主による経営者のコントロールという仕組みが現実のアメリカ企業において有効に機能しているわけではない。アメリカの法律上、株主は実質的に取締役選任の権限を持っていない点からも分るように、先進国の中でおそらく最も弱い。だからこそこの点が常に議論され、少しずつ実質的な改善が図られてきている。

 第二に、アメリカ企業経営の実態を見ると、意外に日本と共通部分がある。たとえば最近評判を落としているが、グリーンスパンの近著「波乱の時代」に、コーポレート・ガバナンスについての1章がある。

 彼によれば、アメリカでは20世紀に入って株式会社制度発展とともに、CEO支配経営が定着し、一般にはCEO指名の取締役会がCEO提案を了承する仕組みが確立してきた。このようなCEO中心の効率経営がアメリカ企業の成功の背景にあるが、逆に90年代以降、特に高額報酬などCEO独裁の弊害に対する批判も活発化している。(しかし彼は、業績悪化企業に対し買収を通じたCEO交代が起こりうるという理由でこうした制度全体を前向きに評価している。)FED議長の在任中は別として、長年にわたり大手企業の社外取締役経験も踏まえたグリーンスパンのガバナンス論は、我が国における一般的な「アメリカ型経営」のイメージとは大きく異なる。取締役会と社長の関係などはむしろ日本の実態に近い。

 第三に、アメリカにおいてコーポレート・ガバナンス問題が株主対経営陣の関係として強調されてきた背景には、経営陣の過大報酬に対する機関投資家株主からの反発があり、いわば両者間の利益分配が主要テーマである。しかし、この点に関する限り、わが国の方が米国よりははるかにガバナンスが効いていると言えるだろう。

 確かに一般に「アメリカ型」の特徴とされる短期的利益志向経営が、経営陣の報酬インセンティブと結びつき、過去数年にわたる金融機関の過大なリスクテイクの要因であったことは間違いない。しかし、基本的には、OECDなど欧米の専門家の間では、金融危機の要因としては、むしろそうした、株主利益に反する経営陣の過大なリスクテイクに対して、株主のガバナンスが機能しなかったからだと見る。従って、世界的に経営陣に対する株主のガバナンス=管理監督機能、特に株主による経営陣の報酬管理の仕組みに改めて注目が集まっているのは、周知の通りである。

 第四に、わが国における企業経営目標は、一般的に株主だけでなく従業員、顧客、取引先、地域社会、政府など多くのステークホルダー全体の利益を考慮、長期的な適正利益確保を図る事とされている。しかし、これらの点は現実には欧米の企業経営においても当然意識されていることだ。他方日本企業も、生き残りを掛けて収益拡大に全力を挙げているのが実態である。要は程度の差、表現の差という面もあるだろう。たとえば、GEやIBMといったエクセレント・カンパニーは共通して、長期戦略・R&D投資重視、地域社会・顧客や従業員を大切にし、終身雇用といった「日本的」特徴を備えている。

 日本型経営だから、アメリカ型経営だから成功するわけではなく、洋の東西を問わず、成功するのは並大抵ではない、ということだろう。

 以上みてきたように、「アメリカ型」ガバナンスの特徴は、その内容より、問題山積だが常に問題を認識し、解決のための議論を重ねていることだろう。

 翻って我が国の場合も、株式市場が長期にわたって低迷しているにもかかわらず、課題の認識と対応のスピードは必ずしも十分とは言い難い。我が国産業と株式市場の再生のために本当に何が必要か、その中でコーポレート・ガバナンスの果たす役割は何か、投資家も企業経営者も、「アメリカ型」、「日本型」といった単純な割り切りでなく、経済と企業の現実に即した、掘り下げた議論が切に望まれるところである。