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コラム:いかにして経済危機を乗り越えるのか

2009/05/14

政策研究大学院大学 副学長 大田弘子氏

 2008年8月1日に大臣職を離れ、私にとっては良いタイミングではあったが、企業の方は厳しい毎日を送っていらっしゃることと思う。このところ一時期の凍えるような感じは、少し和らいだ感もあるが、まだまだ楽観できない。特に日本の場合、何ら問題が解決していない。本日は、足元の経済状況から始めて、日本が今なすべきことをお話しする。

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はじめに

 2008年8月1日に大臣職を離れ、私にとっては良いタイミングではあったが、企業の方は厳しい毎日を送っていらっしゃることと思う。このところ一時期の凍えるような感じは、少し和らいだ感もあるが、まだまだ楽観できない。特に日本の場合、何ら問題が解決していない。本日は、足元の経済状況から始めて、日本が今なすべきことをお話しする。


1.世界経済


米国経済

 米国ではつい最近、ストレステストと呼ばれる金融機関の資産査定の結果が発表された。これからさらに経済が悪化して金融機関に負荷・ストレスがかかった場合を想定し、その時金融機関に生じる損失額を出したものである。この数値が出たことで市場も一旦安心しているが、もちろん完全に安心しきっている訳ではない。この結果によると推定の損失額が6,000億ドルとされ、これを何らかのかたちで埋め、不足分は公的資金を入れることになる。この損失額の6割、 3,600億ドルは、これからの営業収益等で吸収できるとみている。本当にそれだけの営業利益が上がるのかという懸念もあるが、ここで出された6,000 億ドルという損失額自体は、IMFも同じような推定をしていて比較的信頼できると思う。このような金額が出たことは重要な一歩であり、これにより、連鎖的に金融危機が広がるという懸念は今のところ後退している。

 実体経済は、基本的に弱い状況に変化はないが、景気対策の効果が徐々に表れるので、悪化には歯止めがかかり底を打つだろうと思われる。ただ米国はこれから GMの問題が出てくるので、まだ底が見えない状態である。雇用の悪化が大きいので回復にも時間がかかるだろう。V字ではなくてL字型回復と思われる。そして回復のポイントはなんといっても住宅価格である。住宅価格が上昇に転じないかぎりは、家計の債務超過額が増大し消費が増えない。この住宅価格がまだ下げ止まっておらず、住宅の在庫も減っていない状況からすると、自立的な本格的な回復は、来年後半からではないか。それまでオバマ大統領の景気対策で、繋いでいくことになる。


欧州経済

 今、米国以上に心配なのが欧州経済である。欧州の金融機関が東欧・中欧諸国にかなりの金額を貸し付けているが、中東欧の経済危機は改善しておらず、さらに悪化のリスクもある。欧州の金融機関の場合、米国で出されたような推定の損失額自体が見えていないという問題がある。

 実体経済の明るい動きとしては、ドイツやフランスで自動車買替え補助金が出され、自動車販売が上向いている。ドイツではさらに積み増されたものの、フランスはそろそろ息切れしてきたようである。一方、英国・スペインでは住宅バブル崩壊の痛手が、色濃く出ているという問題がある。したがって、政策面での対応も含めて、米国以上に厳しい状況にある。


中国経済

 回復は一番早い。景気対策の効果で、固定資産投資や銀行の貸し出し、自動車販売が明らかに回復してきている。この経済効果が息切れする前に輸出が戻れば良いのだが、たとえ戻ったとしても輸出主導で伸びる状況は期待できない。中国にとっては、輸出依存の度合いを減らして内需の厚みを作っていかなくてはならないという構造問題が依然として大きい。足元の経済よりもむしろこの構造問題のほうが大きいだろう。


2.日本経済


現状

 日本経済には明るい面が三つある。一つは中国の回復に伴い、輸出が部分的に持ち直してきていること。二つ目は在庫調整が進んできていること。三つ目は景気対策への期待、例えば高速道路料金千円定額化や定額給付金の支払い等に対する期待で、マインドが少し明るくなっていることである。

 懸念されるのは雇用で、失業率は4.4%で止まっているものの、有効求人倍率は12月が0.73、1月が0.67、2月が0.59と、急速に落ちている。これまでの失業率のピークが5.5%であり、今回も4%台後半にはなると思うが、これが5%台前半でとどまるかという点が注目される。雇用の悪化が深刻化すると、消費の冷え込みが大きくなり、回復に時間がかかる。

 生産は3月は幾分持ち直したが、利益は回復していない。このままでは今年の後半に、設備投資や人件費を再び削減するという圧力が高まる可能性がある。

 このような状況に対して、5月13日に補正予算案が衆議院を通過した。15兆円のお金を政府が使えば効果が出るのは当たり前である。早ければ7月頃には効果が出るので、一時的な景気の浮揚はあるだろう。政府は平成21年度の成長率はこの景気対策で1.9%、10兆円弱の効果が出るとみているが、当然のことである。しかしこれは一時的なもので、残念ながら今回の景気対策は成長力強化には繋がるとは思えない。つまり、この景気対策で凌いでいる間に、米国や欧州経済が持ち直し、輸出が持ち直さないと、一時浮揚したものがもう一度落ち、二番底になる可能性が十分にある。米国はL字型回復だと言ったが、日本はW字型になる可能性がある。


景気低迷の原因

 重要なことは、日本の場合は今回の経済の落ち込みが一時的なものではないことである。以前から構造的な弱みを抱えていた。国内需要に依存するサービス産業は以前から生産性が低く、また、グローバル化への取り組みも遅れている。2002年以降、米国の消費が力強くけん引する世界経済の中で、自動車や電機といったグローバル型の産業は伸びてきたが、弱かった部分は依然そのままである。

 今、100年に一度の危機として、世界中同じような状況であるかのように受け止められているが、危機の症状や問題点は国によって違う。米国や欧州の場合はショックが強く、全力疾走していて骨折したようなもの。しかし日本の場合、自動車や家電にとってはショックであるが、全般的にみると前から内臓疾患を抱え、それがさらに悪化した感じである。したがって、骨折のように一時的な添え木で元に戻るものではなくて、体質強化をしなければ成長軌道に乗らない状況である。体質強化に最も必要なことは、生産性を上げること、すなわち一人当たりの労働者が同じ時間働いて、より多くの付加価値を生み出せるような経済にすることである。


今後の展望

 日本には、定額給付金や減税によって一時的な需要を作るだけではなくて、供給側を強くするような改革が不可欠である。特に国内型のサービス産業を強化しないと、海外経済頼みの体質は変わらない。もちろん強いサービス産業はあるが、全般的に見れば規模があまりに小さく、経営の革新も遅れている。現在、GDP の7割は非製造業(サービス産業)なので、この強化無しには雇用機会は増えず、賃金も上がらない。したがって消費も伸びないことになる。

 いずれ世界経済は、この危機を脱却して緩やかな回復軌道に必ず戻るだろう。しかし、戻ったからといって、米国の消費が力強く牽引した2007年以前の状態には戻らない。世界経済は今、新たなステージへ移行しつつあり、日本にとっては輸出が元の水準に戻ることは期待できない。その中でいかに競争力をつけておくかが、重要なポイントになる。

 新たなステージでは、環境や省エネが技術として重要になるなど、さまざまな変化が起こるだろう。世界経済の規模や、競争力の構造、つまり米国だけではなくより多極的なけん引役が生まれる、といった変化が生まれてくるだろう。そのような変化を内包しつつ、回復に向かって各国が努力をしているのが現状である。

 おそらく企業はそのことを十分に見据えてるからこそ、再編や集中と選択に本格的に取り組んでいると思う。経済対策においても、ここで弱みを克服して、内需の厚みを作る方向で取り組みをしていかなくてはならない。


克服すべき弱み

 わが国が克服すべき構造的な弱みは三つある。一つはサービス産業の生産性を上げること。二つ目はグローバル化のメリットを活かせるような経済にすることで、現在は直接投資の比重が極めて低く経済連携も遅れている。海外の窓口になる金融資本市場、空港の国際競争力も低く、これを克服しなくてはならない。そして最後に人材が活かされていない。この三つが弱みである。

 最大の問題は、サービス産業の生産性の低さであり、国内に雇用吸収力を持つサービス産業がなかなか生まれてこないことである。特に生産性が低いのが卸小売業、運輸業、ホテルレストラン、事業所サービスである。この分野で経営革新や効率化が進み、新たなビジネスモデルが出てきてほしい。例えば牛丼チェーンなどはいいビジネスモデルであったが、全般的には生産性が低く、限りある需要を食い合って、価格を下げて競争するしかないという厳しい状況が作られている。また、健康や医療・介護・教育の分野は、消費者がより良いサービスを欲している成長分野であるが、人手不足も慢性化し、IT化も遅れている。規制や補助金体系が邪魔もしているということで、潜在的な需要が満たされていない、あるいは強みになっていない。医療も、高度な水準の医療システムが作られれば立派な強みになるだろうが、そうなっていない状況である。


現状打破の実行

 サービス産業の生産性が低くとどまっている状況を打破するために必要なことの一つは、規制改革会議で議論されてきたように、官製市場といわれる政府が強く介入している分野の、規制改革や補助金の配分の問題を解決することである。医療や介護、保育の分野は何らかの規制が必要ではあるが、供給側を守るような規制は廃止し、利用者本位のサービスにしていくことが重要である。後で述べるが規制改革への逆風は強い。それを押し戻せずにいるのが現状である。

 もう一つは、転廃業を本格的に支援していくことである。日本のサービス産業の弱さの背景には、卸・小売り・運輸・飲食・宿泊などにおいて極めて小さい事業者が多いことである。このような事業者が地域経済の中核にもなっている。彼らの転業や廃業を本格的に支援していくことが必要だろう。それとあわせて、土地の利用権と所有権を分離する仕組みを支援できればサービス産業の強化につながると大臣時代から思っていたが、実際の政策に結び付けることができなかった。

 例えば高松の丸亀町商店街は、10年かけて所有権と利用権を分けて、利用権はまちづくり会社という株式会社が一括運用する仕組みに変えた。消費者のニーズに応じて、必要な時に必要な店を必要な場所に出せるのである。実際に行ってみたが、大変活性化していた。このような成功例を広げるために、ここで短期の定期借地権を設定したり、時限的に転業廃業を支援する大幅な税制上の優遇措置などは出来ないものだろうか。ただ、政策上の対応だけではなく、当事者が危機感を共有できるかということが実はそれ以上に大きな問題かもしれない。丸亀町商店街の隣にある常磐町商店街は、文字通りのシャッター通りとなっているため、隣に成功例がありながら何故ここは真似できないのかと尋ねたら、商店街で取り組みが一丸とならないということであった。今の日本では思い切った取り組みや設備投資などをしなくても、そこそこ暮らせるという状況にある。商店主の方が高齢であればなおさら年金も支払われ、商店街を活性化しなくても、IT 設備投資をしなくても、土地をそのまま息子に譲ったほうがいいと思うかもしれない。私は、この点が高齢化社会の一番怖い面だと思っている。新しい改革をしなくても、そこそこ暮らしていけるからいいではないか、という現状維持的な雰囲気が蔓延することは、経済の活力という面ではこわいことだ。それが地域社会で少しずつ始まっているように思える。

 だからこそグローバル化を目的に、海外から新しい発想や新しい人材を起用することが重要だと思っている。これから先の新しいステージで、サービス業が重要になるのは間違いないし、環境や省エネだけでは次世代のけん引は十分ではない。日本の場合には、高齢化が新しいビジネスチャンスになるような構造を作らないかぎり、内需主導の回復の姿は描きづらいだろう。そのためには構造改革が不可欠である。


3.政策面からの日本経済対策


スクラップ・アンド・ビルド

 政策にはスクラップ・アンド・ビルドが不可欠である。しかし今回の経済対策には、職業訓練や太陽光発電等良いものもあるが、ビルド・アンド・ビルドある。スクラップはどんな小さなことでも、反対が強く、だからこそビルドをテコに実現していかねばならない。

 先述の転廃業支援もスクラップのひとつ。成長力を高める方向にそのセクターが変わるように、インセンティブを与えていくことが大事である。難しいが、日本経済にとって弱みを克服する絶好のチャンスでもある。企業では危機においてはスクラップが必要と誰でも思われるだろうが、現在の政策の場ではとにかく守らないと大変だという雰囲気が蔓延している。


規制改革のその後

 最近の政策を見ていて、ここまで逆流するとは思わなかったというのが正直な感想である。本当の問題は経済よりも、この猛烈な勢いで逆流している政策・政治の雰囲気、それからもう改革はやめようという世の中の雰囲気である。我々は90年代から学ばなかったのか。このままでは、今年度予算は前倒し執行するので、秋になると補正予算、という繰り返しになり、90年代の悪しき慣行がまた繰り返される。郵政民営化の見直し論が出るというのも呆れるが、政策金融の民営化の時期も先送りされようとしている。危機において政府が適切な役割を果たすのは当然のことであり、この事と政策金融を元に戻すのはまったく別問題である。

 申し上げるまでもないが、政策金融が必要だったのは、1,500兆円という金融資産のうちで政府が使い道を決める資金がきわめて大きかったために、非効率が発生したり、リスクとリターンをマッチさせるという金融市場の機能が損なわれたりしたからである。この必要性は金融危機と関係ない。それにもかかわらず、この金融危機を大義名分として元に戻そうという動きが起こっている。


依存型経済からの脱却

 私は小泉内閣の最大の功績は、景気が落ちたときに公共事業で支える、すなわち需要が不足したら政府が常に需要を作り出すという、このマクロ経済政策を変えたところにあると思っている。これは政府が需要を支え続けるという依存型経済からの脱却でもある。政府が需要を支えるということは、視点を変えれば成長の果実を政府が集めて、弱いところに公共事業や補助金のかたちで広く再分配ということであり、小泉改革はその再分配の仕組みを変えたのである。農業も公共事業に依存していた面が大きく、公共事業は地域間の所得再分配であると当時に、産業界への所得再分配でもあった。

 どの国でも経済構造が変わる際には、猛烈な抵抗が起こるが、日本は戦後この抵抗を政府が再分配するかたちで吸収してきた。経済が右肩上がりで伸びている間は再分配の原資があったのだが、90年代バブルが崩壊してその原資が無くなると、今度は国債を発行して再分配を続けてきた。そして巨額の財政赤字ができたのである。小泉内閣でこの構造が変わり、公共事業が初年度10%カットされ、その後もカットし続けたため、再分配の仕組みは大幅に変わった。そしてこの批判が、安倍内閣で一挙に噴き出したということである。

 国会では、とにかく全て小泉改革と経済財政諮問会議と規制改革会議、これらが諸悪の根源であるとされた。犯罪や自殺が増えたのも、経済財政諮問会議が良くない、ここさえなくなれば明るい日本ができると言われた。表現は、市場原理主義だの弱肉強食だの様々であるが、それらの批判は、結局は政府による再分配を元に戻せという主張であったように思われる。そして、それが今見事に元に戻ろうとしている。諮問会議に対しては、与党からもすでに廃止論が出てきている。

 実際、諮問会議の役割も非常に小さくなってきている。残念なのは、経済対策の策定を麻生総理が諮問会議に指示するのではなくて、党に指示することである。総理主導ならば、まず政府内の諮問会議で策定し、それから党で調整するというプロセスが必要である。しかし経験上、官邸主導や総理主導が好きな政治家は数えるほどしかいない。総理主導とは総理が自ら作った内閣が主導することであるが、それでは閣僚でない一般の議員は見せ場がない。また、官僚は長い時間をかけて族議員と意思疎通を図り、相手の政策を通しながらこちらの言い分も聞いてもらってきている。大臣は旅人のようなものでいずれ立ち去るから、自分たちの政策を通すには、党で力を持っている族議員との関係が重要なのである。したがって、総理主導は官僚にとっても歓迎されない。


政策上の課題

 先述のように、政治の現状は厳しい。日本のように常に選挙の可能性がある国で、どうしたらグローバル化や生産性等の構造的な問題に取り組めるのか、私も答えを持ち合わせていない。二年間大臣をやっても分からなかった。マスコミも流れに棹差すというより、大きい流れに一緒に乗って小さな竿をさしているだけに見える。

 ここで、何も変えずに成長することはできないのである。成長しなくても皆で分け合っていい社会を作ればいいではないか、と反論を受けることがあるが、高齢化社会とは成長の果実を現役世代と高齢世代で分け合うことだから、日本のように高齢化が急速に進む国で成長しなければ悲劇である。高齢化社会こそ、成長が必要であり、高い付加価値を生み出さなければならない。実際成長率が1%違うだけで、将来の財政負担は大幅に異なってくる。

 それでは成長のためには危機をどう乗り越えるか。政治は厳しいが、民間の力で変えられる部分もあるだろう。例えば先ほど宮内会長の所信原稿を読ませていただいたが、その中で「円高はそんなに悪いことなのか」と書かれていた。円高はもちろん悪いことではない。通貨が強くなって悲しむ国はないはずである。通貨が強くなると経済構造を変える重要なポイントにもなるのだが、円高への抵抗は依然強い。この背景には、日本という国が円高のメリットを享受しにくい構造にあることが挙げられる。円高だと輸入価格が下がる一方、円高に比例する分輸出価格を上げられないので、円高のデメリットだけが強調され、すぐに円高対策を打てという話になってしまう。これを変えるには、現在低い輸出の円建て比率を上げることや、金融資本市場の競争力を高めることも必要だが、何より真の意味での価格競争力を高めることが重要ではないかと思う。例えば強い輸出産業であっても、供給過剰の構造はよく指摘されるし、企業の収益構造を見ていると集中と選択が必ずしも十分でないケースがある。


4.日本の成長の可能性

 民は民で取り組むべき課題があり、当然政策もやるべきことが山のようにあるが、成長につながる芽は沢山ある。

 日本には金融資産も、勤勉な労働力も、水も自然も良いものが沢山ある。これらを生かし、活路を開いていくための鍵は「消費構造の変化への対応」と「アジアとの連携」だろう。これから国内では、団塊世代が明確なかたちで老後のライフスタイルを作っていく。ここに新しい消費のかたちが生まれてくる可能性が十分にある。高くても良いものは売れる状況などが加速されるはずである。また、アジアでは確実に中間層が増え、消費構造を変えるはずである。このパイは相当大きいので、ここをどう捕えるかが日本の大きなカギになる。

 消費のみならず、アジアとの経済・金融の連携を強めることもまた重要であるだろう。新しい世界経済のステージでは、間違いなくアジアの存在が大きくなるため、この危機をチャンスとして、アジアの中で日本がどのような存在感を示すのかを考えた取り組みが必要である。

 現に金融危機に対しては、日本もそれなりに存在感を発揮しようという努力はしている。そもそも今回の経済危機の最大の背景は、世界的に資金が不均衡だった点にある。米国という大幅な赤字国があり、日本や中国その他の新興アジアの黒字国がある中で、赤字国は資金が足りず、黒字国は国内に投資先がないため、有利な投資先を探す巨額なマネーが世界中を回っていた。足元ではそれが世界的な貿易も投資も減り、縮小するというかたちで不均衡が縮小した。

 望ましいシナリオは、赤字国では過度な赤字を減らし、黒字国では生産性の向上につながる投資が行われることである。それが課題であるという意味では、日本も中国も新興アジアも同じような問題に直面している。内需の厚みをどう作り、どのような投資ができるのかという同じ問題を抱えている。したがってアジアに対しても、インフラ整備や環境投資等、日本が一定の役割を果たすことはできるはずである。そのためにも日本を開かれた国にしていかなくてはならない。これが大きな課題になってくる。

 問題山積ではあるが、やはり危機はチャンスであり、政治の世界でも、この危機の中でかすかな可能性ではあるが新しい芽が生まれている。政策でも5年先を見据えた政策を意識することが極めて重要である。その意味で、この日本取締役協会でも様々な研究課題に取り組まれると期待している。

以上