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コラム:ビジネス・アーカイブスの充実に向けて

2014/05/15

国立公文書館長 加藤丈夫

 これまでに私たちは、会社の記録がしっかり管理されていないために、根拠のない風評に対して具体的な証拠をもとにした反論ができず、経営が危機に瀕した例をいくつも見てきた。また近年は会社の姿勢として、情報の積極的な公開、すなわち経営の透明性を高めることが、株主をはじめステークホルダーの会社に対するプラス評価につながることも分かってきた。こうした経験から、経営の活動を記録してそれを資料として保存し、必要に応じて閲覧できるようにするという、"ビジネス・アーカイブス"の取り組みが重視されるようになっている。

 アーカイブス(Archives)という言葉は、国や県などの公的機関が作成し保存している記録(公文書)とその保管場所という意味だが、わが国では公文書だけでなく民間の記録も含めて、過去に作成された重要な歴史的資料を指すことが多い。

 いま私が館長を務めている国立公文書館(National Archives of Japan)は、国の歴史的な重要文書を保存・管理し、それを広く国民が利用できるようにする国の総合的な歴史資料館(独立行政法人)である。
所蔵文書は約133万冊。そのうち約83万冊は、明治初期から現代まで国の重要な意思決定に関わる公式文書、すなわち憲法をはじめ法律・政令・条約などの公布原本で、あとの約50万冊は江戸時代以前の将軍家をはじめ寺社・公家・武家などが所蔵していた古書や古文書だ。

 所蔵文書は個人情報に関するものなど一部の例外を除きすべて公開されており、デジタル化された資料はネットを通じて自宅のパソコンでも見ることができる。

こうした歴史史料館が果たす役割を整理すると、次のようになる

  1. 公文書館として:人々の生き方や暮らしに大きな影響を及ぼす社会の決まり(憲法・法律・条約など)の内容と、それが成立した経過を正しく知ること。
  2. 歴史史料館として:先人たちが遺した優れた古文書などの記録から日本の文化や伝統を理解し、日本人としてのアイデンティティを確認すること。

 特に1.の役割として、国のさまざまな活動の記録がしっかりと保存され、それを国民が自由に閲覧して検証できるというのは"民主主義の原点"と言えるだろう。

 ただ、わが国で公文書の作成→管理→保存→公開に関する基本ルールを定めた公文書管理法が施行されたのはほんの数年前(2011年)のことで、世界の先進国に比べると、管理に携わる職員の数も所蔵する文書量もかなり立ち遅れているというのが現状だ。例えば、職員の数は当館が50名であるのに対して、アメリカは2,600名、イギリスは600名、フランスは500名、韓国は3,250名の規模だし、文書を収める書架の長さも、アメリカは日本の24倍、フランスは6倍、イギリス・韓国は3倍になっている。

 最近はわが国でも特定秘密保護法の制定などもあって、公文書管理のあり方が注目されるようになり、体制整備に向けた取り組みが進みつつあるが、ビジネス・アーカイブスの分野でも抱えている課題は同じだということができるだろう。

 会社における記録管理と言えば、社史の編纂を思い浮かべがちだが、アーカイブスにおいて大切なのは国と同じように、会社における日常の活動に関する記録の作成から保存・公開までの一連のプロセスをしっかり構築することなのだ。

 現在このテーマについては、企業史料協議会(会長・歌田勝弘氏)が地道な取り組みを続けているが、今後企業経営に携わる人たちの関心の高まりを期待したい。