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コラム:日本は本当に先進国か?

2013/03/07

株式会社杉孝 代表取締役社長 杉山信夫

 "安全と水はタダではない" 40年程以前に話題になった言葉だ。日本人の平和ボケに警鐘を鳴らしたのだ。日本人の常識は世界の常識からかけ離れていることも、鋭く突いたと、私は納得した。以来、今日まで、この言葉は私の頭の片隅から離れない。なぜなら、小社の事業は建設現場の職人の安全(命)を守る仮設足場機材を開発、レンタルしているからだ。

 安全はやっぱりタダではない。大きくは国民の生命・財産を守る国防費、自然災害対策費、小さくは自分の健康体を守る安全な食材費まで、それぞれ、安全確保にはそれなりの費用がかかる。しかし、現実には個人、組織もあまり安全費をかけようとしない。当面、身の危険を感じ、実際に被害に遭うことは、そうそう起きないからだ。現実問題として、困窮すれば安全費は最初に削る。一方、安全費をケチると、事故等の発生の確率は増すし、被害の大きさも増す。場合によっては、取り返しのつかない結果(生死の問題)にもなる。安全費をかけたいが、しかし、可能な限りゼロに近づけたい、当事者は常に葛藤する。このように安全は厄介なテーマと言える。

 転じて、小社が属する仮設足場機材レンタル業は、上記のような厄介なテーマで葛藤する真っ只中にある業界と言える。仮設足場機材の安全品質は、墜落・転落の労働災害事故防止に極めて重要な機能を果たしている。当業界各社の安全品質向上の努力にもかかわらず、2012年の日本の建設業における死傷者数は18,062名にも及ぶ(死亡者は354名、内、墜落・転落死は152名。統計上の数であり、実態はさらに多い)。特に零細・中小建設会社の現場で事故発生確率が高い。

 ご存知のように、日本の建設業は特有の重層下請負構造になっている。発注者→元請負会社→一次下請負→二次下請負→三次、四次、・・・と続く下請負契約構造のことだ。それぞれの段階で下請負各社は、受注のために各種の費用を削って安く見積をする。その中で最も削りやすいのが安全対策費だ。よって、四次、五次の下請負会社になると、安全対策費は極端に少なくならざるを得ない。これではなかなか建設業における労働災害事故は無くならない。安全対策費も下請負契約の中に含まれるケースが多々ある。

 ミクロの話になって恐縮だが、そこで提案がある。<発注者が認めた安全対策費が途中で削られることなく、末端の安全技能労働者の労賃として、またその他の安全対策費として、支払われる仕組みにすること>これは面倒でも、発注者に管理してもらうしかないと考えている。現行の重層下請負構造という業界の商流慣習の中では、大変難しいことだと思うが・・・。ことは生命にかかわる問題だ。建設現場での安全・安心のコストはアンタチャブル・コスト(誰も削れないコスト)である、とする当事者全員の新しい価値観、安全文化が構築されて初めて死傷者は減っていく。公共・民間であれ、発注者の権限は絶大だ。発注者の深遠なる社会的責務として、積極的に安全対策費の支払い管理の仕組みを変えていただきたいと思っている。

 前述のように建設業界では、まだまだ多くの死傷者が発生している。こんな悲惨なことが毎年起きている日本は、世界に誇れる安全・安心な先進国と言えるのだろうか?大いに疑問に思う。真の先進国であるならば、このような災害の死傷者を何としてでもゼロにすべきである。同じように他の業界でも、隠しておきたいこのような「恥部」はそれぞれあると思われる。そのような「恥部」を解決して、初めて日本は真の先進国と言えるのではないか。先進国にあるまじき、今までの価値観・慣習・仕組み・手法、時代遅れの技術・規制等を今こそ大胆に見直すべきだと思う。そして日本は、新発想・知恵立国、新技術立国、超安全・快適立国等で世界をリードする国にならなければならないと思っている。

 先が見えないどころではない。まだまだやることがいっぱいあるのが、今の日本だと思っているところである。