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コラム:122年目の飛躍に向け熱意に満ちた現場力の再構築

2012/06/06

株式会社帝国ホテル 代表取締役社長 小林哲也

 昨年の3月11日、午後2時46分、その瞬間は、帝国ホテルの宴会場「孔雀の間」で弊社の開業120周年のパーティが終了した直後であった。パーティ成功の余韻にひたる間もなく、ホテルスタッフはそれぞれの持ち場で災害に対応し、迅速に行動を開始した。

 帝国ホテルは幸い建物の損傷が殆どなかったため、館内のお客様はもとより、帰宅が困難となった方々に、ロビーや宴会場を開放し、最大約2千名のお客様に備蓄してあった非常食や水、毛布を配り、翌朝は温かい野菜スープを用意した。後日、ロビー等で一夜を過ごした方々から、沢山の感謝のお手紙が寄せられ、震災後に宿泊された被災地のお客様からも沢山の感謝のお手紙が届いている。

 一方、震災復興の一助として、ボランティア活動にも取り組んでいる。帝国ホテルは料理長を中心に「料理ボランティアの会」に参加しており、「おいしい料理」で元気になっていただくことを目的に、各界の料理人を一堂に介し「チャリティー食事会」を継続的に開催している。2012年2月には弊社最大の宴会場を提供し、満席となった。

 これらのことを通じ、ホテルの「社会性」「公共性」さらには「希望や元気の源になる」という役割を改めて実感している。

 営業面では、震災からの数ヶ月間は静まり返ったロビーが象徴的であり、4月は外国人宿泊客が80%減少し、稼働率は本館開業以来最低の33.8%であった。訪日外国人客の激減がホテルに与えた影響はあまりに大きかった。しかし、このような状況の中でもご来館いただいたお客様には、帝国ホテルの最高のサービスでお迎えしたい。全従業員が心をひとつにして汗を流した結果、2012年3月期の決算では、第1四半期の落ち込みが大きく、減収となったものの、下期の追い上げと、業務効率の向上が図れたことで、経常利益は昨年を上回ることができた。

 原動力となったのは、「現場力」であったと考える。震災当日はもとより、あらゆる場面で従業員一人ひとりが、今出来ること、そして変えなければならないことを自発的に選択、改善し、それを成果につなげていった。これらのことを日々目の当たりにしながら、私自身も「やればできる」という自信を深めることができた。

 上場企業の2012年3月期決算では、半数以上が経常利益を改善できる見通しであるという。震災の影響だけでなく、円高やタイの洪水等、あらゆる逆風下においてもしっかりと増益を果たした企業がある。我々も、決して驕ることなく、さらなる目標達成に向けて、より一層熱意に満ちた「現場力」の再構築が必要であろう。昨年は歴史的なパラダイムチェンジを果たした。苦しいからこそ生まれた価値が沢山あった。今年度はそれを最大限生かしながら、また新たな価値を付加していかねばならない。

 今年の10月にIMF世界銀行年次総会が48年ぶりに東京で開催され、東京国際フォーラムと帝国ホテルがメイン会場に選ばれた。この事は大変名誉な事であると同時に、弊社の実力を世界に発信する最大のチャンスと捉えている。日本が名実共に安心、安全な国であることを世界にアピールし、観光立国としてあらゆる面で震災・原発前をしのぐ日が来ることを願っている。

 帝国ホテルは日本の迎賓館として開業し、121年の長きに亘り、同じ名称、同じ場所、そして同じ業態で変わらぬ営みを続けてきた。これは企業理念にもある「創業の精神を継ぐ日本の代表ホテルであり、国際的ベストホテルを目指す企業」という信念のもと、偉大な先達が努力と創意工夫であらゆる困難を乗り越えてきた結果である。

 我々も常に謙虚に、真摯にお客様と向き合い、二度と戻らぬ「今」という一瞬を大切にすることで、いつの時代も世界に誇れる価値を、創造、発信し続けたいと考えている。