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コラム:ホスピタリティこそ復興の力

2012/04/06

株式会社オリエンタルランド 代表取締役会長(兼)CEO 加賀見俊夫

 東日本大震災という国家としての未曾有の危機を経験した我が国は、政治、経済、エネルギー問題などさまざまな分野で、いまだ混迷がありながらも復興、再生の道を少しずつ歩んでいる。当社が運営する東京ディズニーリゾートも2011年3月11日以降、事業開始以来最大の経営危機に陥ることになったが、ゲスト(お客様)をはじめたくさんの皆様のご支援のおかげで、現在では多くの笑顔で満ち溢れるまで回復している。経営者としてはひとまず胸をなでおろしているというのが正直な気持ちであるが、一方で東北地区をはじめ関東周辺の一部の観光地で、いまだに震災等の影響から抜け出せないという話を聞くことも多く、一日も早く日本の観光事業が元気になってくれることを望んでいる。

 このように震災発生から1年以上経過した今でも厳しい状況が続く中でテーマパーク事業の経営に取り組んでいる私自身が、これまでの経験を通して感じたことについて触れてみたいと思う。

 私たちは東京ディズニーリゾートの事業を通じ、日々お越しいただいているゲストの皆様へ、ここでしか味わえない価値のある時間を提供する努力をしている。ゲストの皆様に満足いただき、家族や友達とまた来たいと言っていただけることにキャスト(従業員)は働く生きがいを感じているのである。恐らくこれは我々だけではなく、対人サービス事業に従事する人々に共通していることではないだろうか。

 東日本大震災の時に私たち東京ディズニーリゾートでは、発生直後から全施設の機能を停止せざるを得ない状況だった。しかし、リゾート内に滞在するゲストの皆様に不安を抱かせず、できるだけ早く帰宅の途についていただけるよう必死で努力したつもりである。結果、多くのゲストの皆様に寒い中で一晩を過ごしていただくことになってしまったが、怪我をされることもなく、最後一人のゲストに至るまで無事にゲートでお見送りすることができたのは、現場のキャスト一人ひとりが"自分にとって大切なゲスト"として、安全を最優先に出来る限りのもてなしをしてくれたおかげであると感謝している。

 この、東京ディズニーリゾートにおける対応が、一部メディアの高い評価を頂くことになったが、このような対応は東京ディズニーリゾートに限らず、日本中のさまざまな場面・場所で震災発生から現在に至るまで行われているのである。組織や会社の一員としての活動、またボランティア活動等、数え切れない活動を見て痛切に感じるのは、日本人一人ひとりの行動の根底にあるホスピタリティの高さであり、この力こそが復興に向けての原動力であると感じている。

 ホスピタリティの語源や研究は日本や海外でもさまざまなアプローチで行われているが、その根幹にある客人に安全・安心して宿、食事、飲み物、休息を提供するという考え方は共通しているのではないだろうか。その中でとりわけ倫理感が強く影響したホスピタリティが日本人のDNAに組み込まれており、それが今回の震災における相互扶助の様々な場面で発揮され、世界からも高い評価を得ているのではないだろうか。

 復興への路は決して平たんなものではないが、日本人のホスピタリティが原動力になっていくものと確信している。