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コラム:関西に未来エネルギー技術の国際研究開発拠点を

2012/03/08

シャープ株式会社 代表取締役会長 町田勝彦

 歴史的な円高、少子化・人口減少による国内市場の縮小、他国と比べ高過ぎる法人税率等々「六重苦」あるいは「八重苦」といわれるこの国で製造業の苦境が指摘されて久しい。

 かつて日本のお家芸とも言われた家電事業も、韓国、台湾、中国等アジア企業の猛追を受け、当社もまた、日本でのモノづくりの柱としてきた液晶テレビのコモディティ化の波に抗えず苦戦を強いられている。
 日本メーカーの優位が言われてきた太陽電池やリチウムイオン電池、LEDデバイスなども、アジアメーカーとの技術力の差は縮まってきている。

 もはや、個々の企業判断としては、ハンディキャップを背負わされた国内での生産は断念し、イコールフッティングを求めて、海外に拠点を移していかざるを得ない状況にある。その結果、モノづくり拠点の海外流出は、組立工程から、さらに、装置、部品、素材と川上に進み、やがて、研究開発にまで進もうとしている。このままでは日本のものづくりは空っぽになってしまう。なんとか最後の砦として研究開発拠点は、国内に残したいがどうしたらよいか。

 そこで頭に浮かぶのが、1960年代にアメリカが国を挙げて取り組んだ「アポロ計画」だ。
 1961年ソ連のガガーリン少佐を乗せたヴォストーク1号は、人類初めての有人宇宙飛行を成功させた。先を越され危機意識を強めたアメリカは、月への有人着陸を目指す壮大な国家プロジェクトを打ち出し、これを梃子に、ITを始め幅広い分野での科学技術の飛躍的発展を実現し、国の競争力を高めた。
 競争力を失い空洞化の危機にある今の日本に必要なものは、アポロ計画のように未来に夢を与える具体的な科学技術開発プロジェクトではないだろうか。

 これからの未来を考えれば、最も切実な問題は、食糧とエネルギーであり、とりわけ、新しいエネルギー源の創出であろう。10年、20年後程度の当面は別として、50年後、100年後の世界を想像すれば、石油、ガスなどの地下資源や原子力に代わる新しいエネルギー源が主力になっているであろうし、またそうでなければ、今の文明社会は維持できないだろう。

 この人類的課題の解決を目指し、例えば「未来エネルギー研究所」のような共同研究機関を立ち上げ、世界中の頭脳を集めることが考えられないだろうか。
 5~10年先に実用化を目指す足元の技術開発は、個々の企業が事業戦略として取り組んでおり、共同しようとしても利害が対立しやすい。企業が考えているさらにその先の10年後、20年後を見据えた研究テーマであれば、民間企業も一致協力しやすいと思う。

 シャープが本社を置く関西を見ると、有力な大学・研究機関で"宇宙太陽光発電"、"レーザー核融合発電"、"人工光合成"など次世代エネルギー分野で世界トップクラスの研究が進められている。また、グリーンエネルギー関連の企業も集積している。関西には、未来エネルギーの共同研究拠点となる条件が揃っている。むしろ、民の力を引き出し自由闊達な研究環境を提供するには、首都圏では無く関西の方がふさわしいのではとも思う。

 産・学・官が連携した共同研究機関の成功例では、ベルギー・フランダース州政府の支援の下に創設されたIMEC※が有名であるが、これにならい『関西版IMEC』のようなものの創設を具体化できないだろうか。

 勿論、世界から優秀な研究者が集まる機関とするには、魅力ある研究環境の整備、安定的な資金の調達、構想力、実行力を備えたリーダー選び等々、課題は多くあるだろうが、知恵を絞れば解は見つかるはずだ。

 低迷が続き閉塞感がただよう今だからこそ、未来を見据えた夢のある科学技術プロジェクトが必要であり、それがこの国に元気を取り戻す一番の方策になるではないかと考える。

※IMEC(Interuniversity Microelectronics Center)
1984年ベルギー・フランダース州政府の支援を受け設立された、ナノテクノロジー/マイクロエレクトロニクスの非営利独立研究機関。現在では、60ヶ国を超える国籍の研究者、約600社に及ぶパートナー企業を持つ世界最大級のオープンイノベーション拠点に成長している。