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リレーブログ:最近のわが国におけるコーポレートガバナンス論議に関する私見

2018/09/10

ゲスト:ラッセル・レイノルズ・アソシエイツ・ジャパン・インク マネージング・ディレクター 安田結子氏

CGコード導入から3年。今年6月に初めての改訂が行われ、CEOの選解任について、客観性や適時性の観点による説明が求められるようになりました。

第17回は、世界4大エグゼクティブリクルーティング会社である、ラッセル・レイノルズ マネージング・ディレクターの安田結子さんに、日米の違いから見えてくるCEO選解任の課題について語っていただきました。

 本年2018年6月のコーポレートガバナンス・コード改訂版においては、「CEO選解任の適時性・公正性」など、日本企業でも取締役会、経営陣が取り組むべき重要課題とする新たな項目が加わった。

 《取締役会は、CEOの選解任は、会社における最も重要な戦略的意思決定であることを踏まえ、客観性・適時性・透明性ある手続きに従い、十分な時間と資源をかけて、資質を備えたCEOを選任すべきである》(補充原則4-3②)

 日本の企業風土では、長らく〝奥の院〟で決定されてきたCEO後継者選任、そして解任という最もセンシティブな事案の手続きを制定する、という 指針に、企業内でのガバナンス対応の部隊において、多少の困惑と混乱が生じているのではないだろうか。

 弊社はニューヨークに本社を置く、リーダーシップ育成と取締役会関連のコンサルティング会社であるが、かねてより、"取締役会の最も重要な任務はCEOのHiring(選任)とFiring(解任)だ"と提唱している。しかしながら、今回、CEO後継者の選任プロセスはともかく、解任プロセスを作るということに、多少の違和感があるのは事実である。

 弊社の米国事務所のコンサルタントに確認をしたところ、米国の取締役会においては、CEOの解任プロセスの規約等は特に存在はしない。取締役会の大多数が社外取締役で占められ、取締役会議長も社外であることが多いガバナンスの構造においては、CEOの業績不振時等において、取締役会もしくは筆頭社外取締役が主導してCEOの解任を行うことは基本の行動様式であって、敢えてプロセスを文書化したり、規律にしたりすることはない、というのだ。

 日本の企業文化では従来、CEOの選解任は現在のCEO、もしくは前任のCEO(多くは会長、相談役)といった経営トップの専権事項とされ、第三者がその人選を論じ合うなどという行為は、もってのほかと考えられていた。一部経営者には、後継者の指名権を独占することで、自らの社内統率力の源とする考えもなかったとは言えない。


CEO選解任プロセスの実情

 CEOの選任に関しては、経産省が実施した2017年12月期の調査によれば、社長やCEOの後継者を決めてゆく具体的な計画を未だに持っていない企業が全体の48%とされるが、先進的な企業においては、既にCEO後継者育成計画を策定し、運営する事例も見られる。

 一方、解任に関しては、解任基準を公開している企業は極めて少ない。ある企業では解任基準として、"反社会的勢力との関係、不祥事等において企業に多大な損失、業務上の支障を生じさせたこと"等、定めているが、この基準も極めて常識的なものである。また業績不振、xx期連続赤字といった基準も、普遍的な解任理由にするには難しい。

 しかしながら、今回のコーポレートガバナンス・コードが、ガバナンスの肝でもあるCEOの選解任まで踏み込んできたのは、非常に大きな意味があると思われる。

 日立製作所の会長であった川村隆氏が、「いくら良いCEOを選んでも、過去の経験からいくと必ず人間は腐敗あるいは堕落する、もしくはその成長を止めるという欠点があるので、選任、解任というところを取締役会が主導しなくてはいけない」と述べられたという。(経済産業省 CGS研究会議事録より)

 不祥事等の、明らかな有事の場合に限らず、成長を止めた(業績を出さない)CEOを解任する仕組みを作ったことは、コーポレートガバナンス・コードの最も重要な肝となる指針と考える。

 日立製作所は指名委員会等設置会社という組織設計であり、社外取締役が大多数を占める取締役会では、CEOの選解任を主導する仕組みを稼動させやすい設計となっている。

 しかしながら、多くの日本企業の場合は、独立社外取締役を中心とした任意の指名委員会が、公正かつ客観的なCEOの選解任を行うことが期待されているのである。


指名委員会の役割

 CEOの選解任を制度的に支援する機関が、任意もしくは法定の指名委員会である。取り敢えず形式上、任意の指名委員会を作ってはみたものの、実際には機能していない。何を討議すれば良いのかよく分からない。そういった企業も現実には少なくない。

 指名委員会が担うべき役割は、CEO後継者育成計画と、次期取締役を選任するプロセスの監督と支援に加えて、CEOの解任においても実質的な主導権を持っていくことが考えられる。

 2015年より、弊社においても日本企業の取締役会実効性評価の支援を行っているが、どの企業においても最も低い評価項目であるのが、CEO後継者育成計画に対する取締役会の監督と、CEOの業績評価である。報酬委員会と連動しながら、毎年のCEOの業績目標を監督し、モニタリングを行うことが指名委員会のアジェンダの一つであり、この目標に沿わず、業績が振るわなかった場合は指名委員会が主導で解任動議に進む仕掛けとし、こういった機能を活用することで、緊急時のCEO解任プロセスとすることが必要であろう。

 CEOの選任は企業の持続的成長のためのCEO後継候補を育成、選任するといった、将来の企業の戦略を描く前向きの作業であるが、解任作業は、企業不祥事、業績不振等の、非常にネガティブな状況でのプロセスになることは疑問の余地がない。しかしながら、公的な器である企業の継続的成長を実現するために、CEOを選任することと同様、そのCEOが健全に任務の遂行状況を厳正に監督していくことこそが、取締役会及び、指名委員会のもっとも重要な任務であり、リスクマネジメントなのである。

 グローバルの大手機関投資家による適正なCEOの選解任への注目度や要請は、年々強まってゆく傾向にあり、ガバナンスの要諦でもある透明性や客観性、公正さは、その企業や経営陣全体への信頼度を左右する大きな要素になっていくことであるならば、今回のコード改訂に合わせ、このあたりのプロセスを今一度、取締役会で確認することは必要であろう。



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安田結子(やすだ ゆうこ)

ラッセル・レイノルズ・アソシエイツ・ジャパン・インク マネージング・ディレクター
日本IBM、ブーズ・アレン・ハミルトン勤務を経て、1993年よりラッセル・レイノルズに参画。テクノロジー部門及びCEO、取締役会サービス部門の責任者。 日本企業に対しての社外取締役招聘や取締役会実効性評価、CEOのサクセッションプラン支援、経営幹部のアセスメント育成サービス等を行う。公益社団法人 経済同友会 幹事。2017年3月から昭和シェル石油㈱社外取締役(現在)、2018年6月から㈱村田製作所社外取締役(現在)。