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リレーブログ:やはり、「なんちゃって」が多い日本のガバナンスの実情

2016/10/19

ジェイ・ユーラス・アイアール株式会社 代表取締役 岩田宜子

日本のコーポレートガバナンスを世界で戦える体制にするために、企業におけるIR活動の重要性がますます高まっております。

第9回は、IR活動のプロフェッショナルである、ジェイ・ユーラス・アイアール株式会社の岩田宜子氏に、日本のコーポレートガバナンスの現状と今後の課題について語っていただきました。


 スチュワードシップ・コードとコーポレートガバナンス・コードの適用が開始されて、それぞれ、3年目と2年目となった。特に後者のほうは、コーポレートガバナンスという考え方が紹介されてから何十年間もの企業側の抵抗があったので、すんなりコード自体が適用されたことは、筆者にとっては大きな驚きであった。

 でも、やはり、企業やさまざまな対応をみているとこれは、困ったなと思うことが出てきている。本ブログでは、そのような事例をあげて、読者の皆様に、今一度、コーポレートガバナンスについて、考えていただくきっかけになればと思う次第である。

企業が期待する「なんちゃって社外取締役」

 取締役を斡旋するある会社から、多くの企業は、KY(空気が読めない、あるいはそのような人材)ではなく、「あ・うん」で、空気を読める取締役候補を希望しているとのことだ。取締役会で、過激な発言をするような人材は、御免だと考えているからであろう。せいぜい特定の分野での専門家としてのアドバイザー機能がある人のほうが、企業にとって「お得」という意識も強いようだ。

 一方で、専門分野での論点を強調するばかり、「空気が読めない」社外取締役も誕生しているという声も聞こえ出している。どちらにしろ、社外取締役に期待される役割や、取締役会についての認識が、取締役にも、企業側にも弱いのではなかろうか。このような「なんちゃって社外取締役」では、企業価値向上に向けた肝心な議論ができず、取締役会としての機能も果たせず、企業の存亡にも影響するのではなかろうか。

CGCで散見される「なんちゃってコンプライ」

 コーポレートガバナンス・コード(CGC)への対応の文章を読んでいると、どう目をこらしても、「コンプライ」しているとは読めない「コンプライ」も散見する。よほど「フルコンプライ」したかったのだなとその情熱に感心するが、ここは、潔く「エクスプレイン」したほうがよかったのに、と思う。投資家側からすると「コンプライ」の場合、本当にそうなのか、何か検証する手立てはあるか、確認したい、ということになるからだ。アクティビストがその点を突いてきたらどうするのか、とはらはらさえする。はたして、それを覚悟して日本の企業はコンプライしているだろうか。とにかく無難な表現やあいまいな説明の「コンプライ」は、極力避けたほうがいい。

企業のためという本質をついていない「なんちゃって取締役会評価」

 取締役会評価を、資本市場での評価を得るために行うという考えも変だ。取締役会というものはあくまでも、自社のためのものであり、また、評価もその取締役会のために行うものだからだ。あるコンサルティング会社では、資本市場や外国人株主の関心に応じた取締役会評価を支援すると標榜をしている。そのような取締役会評価は、この分野で一歩リードしている英米の企業では皆無であり、投資家にとっては摩訶不思議なものにうつる。 

 実際、海外IRを行っていると、日本企業が投資家のためにガバナンスを進めているように見えることに懸念を表明している投資家が多い。企業価値やビジネスの発展のために、ガバナンスの議論をしてもらわないと、そのような考え方をしていないガバナンスの議論は空論であり、ガバナンスを本当に理解していない企業としてレッテルをはることになり、そのような企業にはとても投資できないということになるのだ。したがって、投資家のための取締役会評価などありえない。

そもそもの「なんちゃってガバナンス議論」

 「拙速は巧遅に優る」という言葉があるが、海外の投資家からは、日本企業のこの2年間のガバナンスへの対応は、まさに「拙速」にしか見えないということである。そもそものガバナンスについての理解が欠如したまま、さらに、「うるさい海外投資家からの攻撃を避けるため」ガバナンス・コードを策定しているのではという指摘である。「うるさい」海外投資家からの攻撃をかわすのは、IR活動を通して、自社のガバナンスに対する考え方と体制を語ることである。このことは、投資家にとっては、エンゲージメント活動になり、投資先を安心し、信頼することにつながる。つまり、各日本企業は、じっくりとガバナンスの議論をするべきである。ガバナンスに関して、誰も、拙速を求めていないことに気がついていただきたい。

 以上から、ガバナンスの議論は、企業自体のためのものであり、投資家に強要されたものではないが、投資家に自社のガバナンスの実態を説明することで、投資家による評価をあげるきっかけとなるということがお分かりになったと思う。別の言い方をすると、自社の企業価値向上のためのガバナンスの議論は、そのこと自体、投資家を安心させるものであり、このことは、日頃のIR活動のコミュニケーションの中だけで実現するものである。ガバナンスだけでは、投資家は安心しないし、アクティビストは退散しないということだ。

 このようにガバナンスとIR活動は、急速にコンバージェンス(収斂化・同質化)している。企業経営においてもこの点を認識することが、最重要課題と言えるのではないだろうか。



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岩田宜子(いわた よしこ)

ジェイ・ユーラス・アイアール株式会社 代表取締役
慶応義塾大学経済学部卒業。92年からIR業界でのキャリアを開始。現在16期を迎えるジェイ・ユーラス・アイアール㈱では、日本に軸足を置いた本格的なIR・ガバナンスコンサルティングを展開。2007年より2011年まで東証上場会社表彰選定委員。2016年、京都大学にて博士号(経済学)取得。主な掲載論文:「欧米に遅れる日本企業の資金調達」(ハーバード・ビジネス・レビュー)、「日本企業によるIR活動の現状と今後の課題」(商事法務)、近藤一仁氏との共著「投資家・アナリストの共感をよぶIR」、東証マザーズメールマガジン「IR基礎編」、日経新聞「目からうろこ」シリーズ、「なるほど投資講座」シリーズなど執筆。近著「コーポレートガバナンス・コードの IR対応」。