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リレーブログ:変革期にある我が国のコーポレートガバナンスと監査等委員会設置会社

2016/04/25

森・濱田松本法律事務所 パートナー 弁護士 太子堂厚子

昨年5月に導入された監査等委員会設置会社。

第7回は、森・濱田松本法律事務所のパートナー弁護士である太子堂厚子さんに、今後のコーポレートガバナンスの行方を占うカギとなる監査等委員会設置会社について、わかりやすく解説していただきました。

 2015年はコーポレートガバナンス元年と言われました。2013年6月に政府が公表した「日本再興戦略2013 ―JAPAN is BACK―」において、我が国の成長戦略としてコーポレートガバナンス改革が掲げられて以降、上場会社のコーポレートガバナンス向上のための施策が矢継ぎ早に行われましたが、2015年6月1日にコーポレートガバナンス・コードが適用開始となり、これを踏まえた企業対応が、これまでに無いスピード感をもって行われたことは、「元年」と言われるにふさわしいものだったといえるでしょう。

 2015年5月1日に施行された改正会社法において、新たな機関設計である監査等委員会設置会社が導入されました。2016年3月末の時点で、移行表明した上場企業が500社を超えています。制度導入初年度から移行企業が増加したのは、現在の上場会社をめぐるコーポレートガバナンスの環境下において、制度が企業のニーズに合致したことにあると考えます。

 第1に、独立社外取締役の複数選任の流れです。我が国においては、社内出身者同士の共同体的な一体感を重視する傾向が強く、社外取締役の選任には根強い抵抗感が示されてきました。しかし、経営者への監督機能を実効化するための独立社外取締役の選任促進の要請は高く、コーポレートガバナンス・コードにおいて、上場会社は独立社外取締役を「少なくとも2名以上」選任すべきであるとされたのは、ご案内のとおりです。そして、最低でも社外取締役が複数名存在し、別途社外監査役を選任する必要がない監査等委員会設置会社が、現実的な選択肢として好感されたことは、コーポレートガバナンス・コード適用初年度において移行企業が多数に上った一因と考えられます。なお、社外取締役がいない会社が、社外監査役を監査等委員である社外取締役に横滑りさせて移行するケースを、形式的なガバナンス対応と見る向きもあります。しかし、取締役会に出席して当社経営に触れており、経営への積極的な意見を述べていることも多い現任の社外監査役は、社外取締役として適任である場合も多いです。また、社外監査役最低2名に加えて社外取締役 (複数名)を選任するのが、会社の実情に照らしていかにも負担が重いケースも否定できないところです。社外監査役に加えて社外取締役を選任するのではなく、両者の法律上の権限を兼ね備えた監査等委員である社外取締役をガバナンスの要として活用するとの企業判断には、一定の合理的がある場合も多く、このようなケースを当然にネガティブに捉える必要はないと考えます。

 第2に、取締役会決議事項の取締役への権限委譲のニーズです。監査役会設置会社である企業の声として、取締役会の議題が多く重要議題について十分な議論の時間を割けていない、各事業部門に特有の意思決定は担当役員に権限委譲したいが取締役会決議事項の数値基準にヒットしてしまう、M&Aの意思決定について取締役会決議を待っていたのではスピード感に欠けて海外企業に競り負ける、といった悩みを持つ会社は珍しくありません。また、社外取締役を選任して取締役会の監督機能を強化しようとする場合、取締役会付議事項のスリム化の要請が生じます。なぜなら、事業に関する専門的知識を有しない社外取締役が強みを発揮するのは、日常的な業務執行の決定ではなく、会社の経営戦略を十分に理解した上で、それが経営者によって適切に遂行され成果を挙げているかの業績評価を行い、引き続き経営を委ねるか否かを判断しつつ、適切なインセンティブとなる報酬を設定するという意味での指名・報酬の決定を通じた監督機能だからです。社外取締役の数が飛躍的に増加した我が国において、取締役会決議事項の範囲の見直しを議論する会社が増えているのは、自然な流れであるといえるでしょう。監査役会設置会社においては、法律上、重要な業務執行の決定は取締役会で行う必要があり、この枠組みの中での権限委譲の工夫をする会社も多いですが、法令違反に該当することへの懸念から、どうしても慎重な運用にならざるを得ないという悩みがあります。監査等委員会設置会社においては、取締役の過半数を社外取締役とするか、定款の定めにより、重要な業務執行の決定権限を大幅に取締役に委任することが可能です。前記のような権限委譲に関するビジネス上・ガバナンス上のニーズを有する企業に対し、監査等委員会設置会社は1つのソリューションを提供するものといえます。

 第3に、海外の機関投資家から見たより支持されるガバナンス体制の構築です。現在、上場会社の株式の約3割は外国人株主が保有しています。監査役制度は我が国独自の制度であり、海外投資家から見てわかりにくいという指摘がされますが、監査等委員会設置会社は、取締役会における議決権を有する取締役によって構成され、社外取締役が中心となる委員会が監査を担うという意味で、海外の機関投資家から理解されやすく、海外機関投資家比率の高い企業においては、無視できないメリットとなっています。

 監査等委員会設置会社が導入されたのは、社外取締役の選任がなかなか進まない我が国において、社外取締役を選任しやすく仕組みを提供し、取締役会の監督機能を強化したいというとところにありました。しかし、当然のことながら、機関設計は器であり、ガバナンスが中身を伴った実効性を有するか否かは、それを活かすための不断の取組み次第です。社外取締役の活用にしても、社外取締役への情報提供や社内用語満載の取締役会資料をどのように変えたら良いのだろうかと模索したり、社外取締役を構成員とする指名・報酬に関する任意の委員会を設置したもののその運営は手探り状態、という会社も散見されます。しかし、コーポレートガバナンス元年と言われるこの時期に、多くの日本企業がガバナンス向上に向けて一歩を踏み出したことがまずは重要であり、多くの企業努力の中で、真に実効性の高いガバナンスの実現が図られることに期待したいと思います。


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太子堂厚子(たいしどう あつこ)

森・濱田松本法律事務所パートナー弁護士。1999年東京大学法学部卒業、2001年弁護士登録、森綜合法律事務所(現・森・濱田松本法律事務所)入所。会社法、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、紛争解決等が専門。著書論文として、『Q&A監査等委員会設置会社・社外取締役の実務』(株式会社商事法務、2015)、『株主提案と委任状勧誘〔第2版〕』(共著)(株式会社商事法務、2015)、『新・会社法実務問題シリーズ/10 内部統制-会社法と金融商品取引法-』(共著)(中央経済社、2009)など。