thum150526_01.jpg

リレーブログ:コーポレートガバナンスの真の狙いは?

2015/05/26

UBPインベストメンツ株式会社 代表取締役社長 吉原和仁

5月に改正会社法、6月にはコーポレートガバナンス・コードの適応開始と、上場企業にはガバナンス強化が求められています。
どうして、企業にはその改革が必要なのでしょうか。

第3回は、UBPインベストメンツ 吉原和仁社長にお聞きしました。

 日本のみならず世界中でコーポレートガバナンスの議論が白熱しています。6月3日から5日までロンドンで開催されるICGN(International Corporate Governance Network)の20周年記念大会はロンドン市が全面的にバックアップし、世界を代表する企業や年金基金、運用会社、アカデミィア、弁護士、政治家など総勢650名を超える参加者がコーポレートガバナンスについて意見を交わすようです。議題は、「取締役会の未来」、「安定に向けた資本市場改革」「投資家が知っておくべき人権問題」など多岐にわたります。日本ではご存知の様に「日本再興戦略」においてコーポレートガバナンスを通じて「稼げる日本」を取り戻し、企業の持続的成長を促す施策が2013年以降目白押しです。コーポレートガバナンスと題するセミナーは大入り満員です。

 では、何故ここまでコーポレートガバナンスが世界中で近年注目を浴びているのでしょうか。アングロサクソンにおける経営陣の不正防止や日本における持続的成長を「攻めのガバナンス」により後押ししてくれると言う期待感からでしょうか。これらの回答は間違いではないのですが、上場企業の経営者や取締役会にとってはもっと切実な思いがコーポレートガバナンスに対してあると思います。つまり、世界中の上場企業が良質なリスクマネーを取り組むことに必死なのです。良質なリスクマネーなくして上場企業の持続的な成長は難しいでしょう。困った時に相談に乗り追加資金を投入してくれる株主は、企業のピンチをチャンスに変える事ができる重要な資本政策を担うプレーヤーです。リーマンショック以降銀行に対する資本規制が厳しくなり、銀行は制度上リスクマネーを十分供給できなくなってきています。良質なリスクマネーとは、長期に亘り病める時も健やかな時も寄り添ってくれる重要なパートナーです。

 さて、その長期投資家が投資対象企業を選別する際の一丁目一番地がコーポレートガバナンス原則です。株主の権利が公平に確保されているのか、業務執行役の迅速な意思決定をサポートしそれを制御できる取締役会のけん制機能があるのか、アニマルスピリットに富んだ人材をCEOに登用しまた解任できる仕組みがあるのかなど、会社の根幹に関わる哲学の精査が第一ステップとなります。この試験をパスしない限りは第2次、3次審査には進むことが出来ず、長期投資家を引き付けることは出来ないのです。故に世界中の一流上場企業は必至でコーポレートガバナンス原則をアピールしているのです。

 ところで、読者の皆様は長期投資とは何年くらいの期間だと思われますか。ダボス会議を主催するWEF(World Economic Forum)によると10年以上と定義されています。つまり、景気の1サイクルを超える期間と言うことです。金余り現象を背景に現在の世界の株式時価総額は約9,000兆円と世界のGDP総額に匹敵するほど巨額ですが、10年以上の長きに亘り、支援・応援し続けてくれる株主を探すのは容易ではないのです。世界水準で見ても、投資家の平均投資期間は3年を超えれば御の字なのですから。企業も投資家を選別し情報を発信しないと時間を浪費することになり、結果として株主価値を壊しかねません。

 一方、長期投資家も責任ある投資を彼らの顧客から要請されています。良い運用リターンを投資家に提供するだけではなく、どれだけ資本市場の安定に貢献したかなどを求められる時代なのです。金余り現象で投資額が膨張し「池の中の鯨状態」で投資家が利己的で無責任な投資行動をとると市場は混乱し、国家ひいては納税者に大きな負担がかかることになります。それはリーマンショックで既に経験済です。日本で採用されたスチュワードシップコードの真の狙いは、日本における責任ある長期投資家の育成と考えても良いのではないでしょうか。日本の高度成長を支えた間接金融システムから直接金融へのパラダイムシフトがようやく起ころうとしているのです。

 今年末までに3月決算企業のコーポレートガバナンス原則が出そろいます。各社が原則の中身について自慢競争をすることにより世界の長期投資家の耳目を集め、日本のコーポレートガバナンスがさらに進化することを期待しています。

次回は、指名委員会等設置会社に移行を決断し、CEOを歴任された株式会社 大和証券グループ本社名誉顧問 原良也さんに実務面でのお話をお聞きしてみたいと思います。


photo150526_01.jpg
吉原和仁(よしはら かずひと)

1982年大和証券入社、企業調査や海外投資家向けリサーチ営業を経験。ロンドン赴任中の1988年、伝説のファンドマネジャー、ピーター・リンチの著書「ONE UP ON WALL STREET」に感銘を受け、1991年ファンドマネジャーに転身。以来24年間、一貫して運用畑に身を置く。転身後最初の運用会社であるドイチェ・モルガングレンフェル投資顧問では、国内外の公的・私的年金および投資信託の運用に従事。1999年よりWestLB投資顧問(2004年社名変更しフォルティス・インベストメンツ)の最高経営責任者と運用責任者を歴任。フォルティス在任中は、「もの言う株主」として日本企業の価値向上のために経営者と対話し改善提案を行う。その後、BNPパリバ インベストメント・パートナーズとの合併を機に退社、2010年10月スイス・ジュネーブに本拠を置く資産運用専業銀行であるUBP日本法人の代表取締役社長に就任し現在に至る。