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リレーブログ:スチュワード・シップ コードって何?―米国機関投資家の眼から

2015/03/13

ゲスト:ダルトン・インベストメンツLLC 日本代表 兼 経営委員 佐野順一郎

政府の成長戦略にも大きく掲げられた「コーポレートガバナンス強化」
私たちの生活への影響は何か、本当に経済がよくなるのかと言った疑問に、識者がわかりやすくお応えするリレーブログ「コーポレートガバナンスって何?」

第2回は、ダルトン・インベストメンツLLC 日本代表 兼 経営委員 佐野順一郎さんに聞きました。

 アベノミクスが日本の株式市場にもたらした、世紀の改革は、"コーポレートガバナンス コード(CGC)"と"スチュワード・シップ コード(SSC)"からなるコーポレートガバナンス改革でしょう。これらは、欧米のケース・スタディを基にして昨年8月にまとめられた、通称"伊藤レポート"を、お手本としています。これには、"持続的成長への競争とインセンティブ---企業と投資家の望ましい関係構築"と称して、企業の持続的成長の姿、などが提言されているのです。

 CGCを上場企業の経営陣に対して、またSSCは信託銀行、生保、損保、投資信託、投資顧問といった機関投資家に対して、金融庁や経産省の関係官庁、そして東京証券取引所は、2年近くを費やして、ガイドラインを練りました。
その間、反対勢力からの横槍が入ったり、素案は右往左往を繰り返したのです。そんな大揺れの中で、日本取締役協会は、グローバルを意識した提言を作り上げ、声を大にして、関係官庁や、東証や証券関係団体に対して、積極的なロビー活動を続けました。

 こうして、出来上がった2つのコードが回り始めると、日本の株式市場も漸く本格的な外国資本を惹きつける事になり、そういった意味でも画期的な出来事と言えるでしょう。

 さてさて、まずはSSCについてです。このコードは、機関投資家の責任ある行動規範の拠り所なのです。同時に、運用機関の受託責任を、そしてガバナンスを求めています。具体的には、投資している企業に対し、受益者に成り代わって、経営をモニタリングする。そして、対話を通じて企業の持続的成長を促していきます。その過程で、"時には、言うべき事はしっかり、提案し、改善を求める"。それこそ、日本人が嫌っていた"物言う株主"の再現でしょう。

 話を米国の運用業界に少し寄り道しましょうか。米国の年金資産を主にした運用環境は、1940年の投資顧問法やSECの証券関係法の実施、そしてなんと言っても1974年のERISA法(従業員退職所得保障法)の影響が、とても大きいのです。運用機関は、常に受託者責任を負って、受益者に代わって、運用成果を高めようとします。そのために、投資企業の経営陣と対話し、常に企業価値の向上を意識します。これを怠って、運用成果が芳しくない、もしくは投資企業が倒産したりすると、訴えられることもあるので、企業経営者との向かい方が違うのです。

 同時に、プロの運用関係者として、常識的な資格となっているCFA協会認定証券アナリスト(CFA)の職業倫理でも、受託者責任について、とても厳しく律しています。

 米国の機関投資家を覗いてみると、その大半は独立系です。比べて、日本の機関投資家は殆どが大手資本系列ですよね。したがって、米国では、日本の機関投資家のように、資本系列や株式持合にとらわれて、ファンドマネージャー達が運用判断を翻弄されることもありません。ですから、"受益者のために、何がベストなのか!?"を徹底的に追求できると言えるでしょう。巷では、日本のようにSSCが取り上げられることも、まずありません。運用機関としてのガバナンスが既に根付いているでしょうね。

 さて、話しを日本に戻します。今回、このSSCを受け入れることを決めたのは、運用一任業務ライセンスを持っている機関投資家250社中、既に200社に登ります。ですから、ほとんどの機関投資家は、投資対象企業との間で、この先、必要に応じて"物言う株主"に変身して行くのです。

 "長い株式持ち合い関係が続き、投資している企業の経営陣に向かって、"物を言う"ことに慣れていない日本の機関投資家にとっては、大いなる挑戦となりますね。"さてはて、何を、どのタイミングで、誰が、どう言ったら良いのか!?"と、当初は戸惑うことでしょう。

 投資企業の経営陣に、"それなりにモノを言う"場合って、殆どの場合は異常事態のときですね。こういう時期には、事業知識や財務・金融知識に加えて、対話の相手を説得できる、エクイティ・シナリオが描けたり、ヒトを動かす人間力、信用力も必要とされるはずです。

 対話を重ねるって、"投資した企業の経営陣と、中長期の視点で持続的な株主価値、そして企業価値の向上について、お互いに尊敬しながらも、ベクトルをあわせてゆく"、そういう地道な努力の積み重ねじゃあないのかなと、感じ始めている。それを強く意識する企業に、中長期投資できれば、投資家にとって、これほど幸せなことはありません。

次回は、欧州のコーポレートガバナンスやスチュワードシップコードについても詳しく、また経営者と投資家の経験に富んだ、UBPインベストメンツ 吉原和仁社長に伺ってみたいと思います。


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佐野順一郎(さの じゅんいちろう)

1978年、日興証券入社。本店営業部で個人営業経験後、ロンドン経済大学院(LSE)に留学。のち、米国機関投資家営業課長を務める。7年にわたる米国駐在から帰国後、商品企画、金融法人部次長、国際営業部長、ホールセール営業部門長を歴任。1999年に日興ソロモン・スミスバーニー証券(後に日興シティグループ証券)に移籍。エクイティ本部でマネジングディレクターとして活躍。CITIグループではグローバル・セールス・コミティの日本代表も務めた。2006年に米国ロサンゼルスに運用本拠を置く投資顧問会社、ダルトン・インベストメンツ株式会社社長に就任。2008年6月より2012年6月まで、日本興亜損害保険株式会社取締役を兼務。2010年には、日本取締役協会から共著として"独立取締役ハンドブック"(中央経済社刊)の執筆に参加。また同年8月にはNHK経済ドラマ"チャンス"の経済考証として、日本の金融業界、およびモンゴル経済を担当した。現在はダルトン・インベストメンツLLC(本社:米国ロサンゼルス)の日本代表。