thum150124_01.jpg

リレーブログ:コーポレートガバナンスって何?

2015/01/28

ゲスト:ニューホライズンキャピタル株式会社 取締役会長兼社長 安東泰志

政府の成長戦略にも大きく掲げられた「コーポレートガバナンス強化」。
それをやって、私たちの生活にどういう影響があるの?本当に経済がよくなるの?
識者がわかりやすく解説するリレーブログ「コーポレートガバナンスって何?」を立ち上げました。

第1回は、ニューホライズンキャピタル株式会社 取締役会長兼社長 安東泰志さんに聞きました。

 このところ「コーポレートガバナンス」という言葉がメディアで取り上げられることが多くなってきました。たとえば、近く制定が予定されている「コーポレートガバナンス・コード」は、安倍政権の成長戦略の一環とされています。しかし、「コーポレートガバナンス」という言葉には、とっつきにくい印象を持たれる方も多いのではないでしょうか。

 まず、「会社がなぜ活動しているのか」という、資本主義経済の根幹に関わる問題から考えを進めましょう。それは、その会社が「誰のために」「何を目的に」活動しているのかということであり、その目的のために「誰が」「どのように」会社を経営するのがいいのかを考えるのがコーポレートガバナンスです。


 会社は「誰のために」「何を目的に」活動しているのでしょうか。昨今、CSV(Creating Shared Value)といって、「会社は、その社会的使命を考えて経営し、利益に結び付ける」という経営理論が広く認知されつつあり、その場合、会社は、環境などの社会的ニーズ、地域社会の要請、社員、債権者など、株主以外の様々なステークホルダー(利害関係者)にも目配りをしなければならないとされています。実際、いわゆる「日本型経営」では、社員は、株主と同じくらい大事にされてきましたし、日本的な「メインバンクシステム」の中では債権者である銀行が強い発言力を持ってきました。しかし、法律的に言えば、会社のオーナーは株主であり、その利益を損なうことは許されません。会社は、様々なステークホルダーに目配りしつつも、理論的には、「株主のために」「株主価値を守ることを目的に」経営されているのです。

 では、会社は、そのために「誰が」「どのように」経営するのでしょうか。日本の上場会社には、会社法が認める幾つかの機関設計の選択肢がありますが、現時点で最も多く採用されているのが「監査役会設置会社」で、これは皆さんにも馴染みが深い、「取締役会」と「監査役会」が設置された企業のことです。それに即して言えば、「誰が」は「取締役(と監査役)が」と言い換えることができそうです。

 先ほど、会社は「株主のために」「株式価値を守ることを目的に」経営されると申しました。言い換えれば、取締役は株主から経営を付託された者(エージェント)としての責任(受託者責任)を負っていることになります(エージェンシー理論)。ですから、取締役が会社を「どのように」経営するかというのは、この受託者責任を十全に果たせるかどうかという観点から検討されなければなりません。


 ところで、読者の皆様は、一般的に取締役や監査役のことをどのように捉えておられるでしょうか。サラリーマンの方であれば、それは出世双六の「上がり」というイメージではないでしょうか。そのためには、上司におべっかを使って、言いたいことも我慢するのが日本社会かもしれません。終身雇用が当たり前だった日本の会社には「会長にモノを言わない人間が社長になり、社長にモノを言わない人間が取締役になり、取締役にモノを言わない人間が部長になり・・」という社内論理が優先される風土はないでしょうか。

 これに対して、先ほどのエージェンシー理論に基づけば、取締役は株主の利益を守るべき存在です。社内論理で選ばれた取締役は、株主にとって最善の人物でしょうか。ましてや、会社の舵取りを担う社長は、単に前任者のお気に入りであればいいのでしょうか。

 実は、コーポレートガバナンスの要諦は、この点にあります。象徴的に言えば、取締役会は、「株主利益の観点から社長を選解任する」という機能を持っていなければなりません。この機能を、社内論理で選ばれる取締役だけに担わせるのは無理があるでしょう。

 このことから、コーポレートガバナンスを考えるに際しては、たとえば、以下のような点について十分な検討が必要なのです。

(1)機関設計(取締役の選解任、報酬、監査の仕組み。経営と執行の関係)
(2)取締役会の役割(株主に対する受託者責任)
(3)独立社外取締役の選任
(4)株主との対話・情報開示
(5)政策投資株式の考え方

 これらについて更に踏み込むと到底紙数が足りませんので、詳細は私に続く執筆者の方々に譲りたいと思います。コーポレートガバナンスについて上記のような観点から改革を行うに際しては、経済界の一部からは抵抗があるでしょうが、日本の成長を確かなものにするためには、旧弊や既得権益に囚われることなく改革を実行に移すことが求められていると言えるでしょう。

次回は、まずはグローバルな投資家の立場からの問題提起に期待して、ダルトン・インベストメンツ日本代表の佐野順一郎さんにお願いしたいと思います。


photo150124_01.jpg
安東 泰志(あんどう やすし)

1981年三菱銀行(現三菱東京UFJ 銀行)入行、ロンドン支店非日系企業ファイナンス担当ヘッド、企画部・投資銀行企画部次長等を歴任。2002 年フェニックス・キャピタル(現ニューホライズンキャピタル)を創業し、代表取締役に就任。主に国内機関投資家の出資による8本(総額約2500億円)の企業再生ファンドを組成、自ら取締役・監査役等に就任し、市田・近商ストア・東急建設・世紀東急工業・三菱自動車工業・ゴールドパック・ティアック・ソキア・日立ハウステック・まぐまぐなど、約90社の再生と成長を手掛ける。事業再生実務家協会理事。日経電子版、ダイヤモンドオンラインなどに月次寄稿中。著書に「V字回復を実現するハゲタカファンドの事業再生」(幻冬舎)。東京大学経済学部卒業、シカゴ大学経営大学院(MBA)修了。