2011年新春対談「東京海上グループの成長戦略」―東アジアの事業展開とビジョン

2011/01/31

ゲスト:東京海上日動火災保険 株式会社 取締役会長 石原邦夫氏
聞き手:桜美林大学 教授 馬越恵美子氏

はじめに

事務局 おかげさまで日本取締役協会は来年で10年になります。現在年間100回ぐらいの会合を行い、非常にまじめな議論を真剣にやっているので、とてもいい会だというご評価をいただいています。今後はもう少しテーマを幅広く、いろいろなことをやったらというご要望もあり、10年目にして初めてこのような企画をしました。協会のメンバーの人となりや今思っていること、生き方を含めてぜひ皆さんに紹介したいと考えています。今日は帝国ホテル・レセゾンでおいしいものを食べながら、対談という形で皆さんに広く知っていただきたいと思います。最初に、日本取締役協会について感じておられることが何かあればお話しください。

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石原 私どもの会社は1879年に創業、日本に海上保険を導入したのが始まりです。日本の会社では一番早くきちんとした定款を作り、本格的な株式会社のはしりのようなものだったようです。 経営と執行を分離し、昔でいうと番頭さんが執行の役目を負っていました。海上保険はもともと国際的な性格をもっていたせいか、戦前は海外展開も相当進んでいましたが、戦後は、日本の企業が海外に出て行くのに呼応して国際化を再スタートさせたわけですが、現在では、グローバル化時代の中で、昨年度のグループ収益の半分近くを海外で挙げるまでになっています。それだけに異文化経営におけるコーポレートガバナンスの在り方について、取締役協会の活動は大いに参考になりますし、今日、専門家である先生のお話を聞けるのを楽しみにしております。

事務局 先生は日本取締役協会についてはいかがですか。

馬越 私はただただ恩恵を受けております。学術会員のような制度は大変ありがたいです。もっと大学の先生が来られれば、きっと勉強になると思います。本当にすばらしい会です。もう少し開かれていくといいと思います。

事務局 会員のなかに女性が少ないのが残念です。

馬越 大学でも経営学など、学部によっては女性の教員が少ないです。

石原 当社も近年女性の役割変革を進めていますが、今や、女性の活力が会社を支える原動力の一つだといっても過言ではないと思っています。最近、女性の起業家も大活躍しておられますね。


石原邦夫氏
石原邦夫
東京海上日動火災保険 株式会社 取締役会長
東京都出身。生まれは旧満州・新京市=現・長春市。東京大学法学部卒業後、66年東京海上火災保険(現 東京海上日動火災保険)入社。2001年同社取締役社長を経て、07年より取締役会長。経済同友会では08年から中国委員長、10年副代表幹事に就任。日本経済新聞『こころの玉手箱』での多彩な人物像が記憶に新しい。


東京海上グループにおける海外事業展開のなかで、東アジア(特に中国市場)についての可能性

馬越 海外事業展開において東アジア地域の事業をどう位置付けておられるのでしょうか。とりわけ、中国で随分とビジネスを拡大されていますね。

石原 東アジア、中でも中国の経済発展のスピードの速さが世界経済の牽引力となっていることはご承知のとおりですが、保険の普及率からみると、アメリカやヨーロッパに遙かに及びません。ただ、一人当たりGDPの伸びや権利意識といった保険マーケットを支えるインフラという点からみると、東アジアの保険マーケットも経済発展にあわせ、急速に拡大することが予想されますし、中でも中国は、今後さらに潜在的な成長性のある市場です。現状では、当社の東アジア地域の収益はまだまだですが、今後飛躍的な発展の余地のある当社戦略上の重要地域と位置づけているところです。

馬越 今後の中国保険マーケットはどんな規模になっていくのでしょうか。

石原 ある保険アナリストの予測では中国における損害保険市場規模は2009年度には4兆円ですが、2020年には14兆円、生命保険市場は2009年度10兆円が2020年には50兆円にまでなるとのことです。日本の現在の市場規模が損保7兆円、生保27兆円ですので、この数年のうちに中国が日本を大きく上回り、アメリカに次いで第2位のマーケットになるということになると思います。GDPの伸びがかぎになると思いますし、停滞している日本も何とか成長軌道にのって欲しいと思っているところです。

馬越 本格的に中国に進出されたのはいつ頃ですか。また、進出されるにあたってご苦労はありましたか。

石原 中国の改革解放後は、1980年に外資保険会社としては初めて北京に代表処を開設しましたので、2010年は当社が中国に進出してから30周年の節目の年となりました。先般も、この「来華30周年記念イベント」を現地で開催したばかりです。当社の中国における30年の歩みは、ほぼ「中国保険業の対外開放の歩み」と同じとも言えます。当社は、中国の保険市場において、損害保険に加えて、生命保険、保険仲介業と多角化していますが、これからも一層中国の皆様に信頼され、愛されるよう努力していきたいと思っています。

 中国に進出するにあたって最も苦労した点は、中国保険監督管理委員会の各部門や工商局、外貨管理局等で管理されている多くの関係法規の解釈と相次ぎ交付される関係法規・通達への対応でしょうか。中国は関係法規の最終的解釈が監督官庁にあることも多く、よく言われる人治の国という点を感じることもありますが、規範化のスピードは非常に早く、また新しい有効なものを積極的に採り入れて行こうという意欲には大変敬服しています。

 このように中国監督当局には保険業界全体を健全な方向へリードしようとする強い意志を感じますが、一方、監督を受ける立場にある私ども保険会社は中国で業務を行う以上、数多くの細かい法規定への対応という現実的問題に否応なく巻き込まれていきます。当社グループはコンプライアンスを全ての業務に優先させる方針を採っておりますので、目まぐるしく変わっていく法規制への対応は大変です。

馬越 事業活動以外に中国で何か社会貢献活動のような取組みを行なっておられるのですか?

石原 当社は中国で事業を行うにあたり、中国のよき企業市民になるべく、様々なCSR活動を行っています。従来から特に本業である保険を切り口として、自賠責保険制度創設にあたって日本の経験を基に、色々提言を行ってきましたが、その外に中国の保険法起草に際して日本の法制度等を紹介したり、保険事故処理サービスの向上に向けての協力などを実施して参りました。また、上海万博に対しても、日本での万博の経験をご紹介させて頂きました。

 最近はこの活動の範囲を広げてきており、一昨年からは中国共青団(共産主義青年団)を核とする全青聯(中華全国青年聯合会)をパートナーとして、農民工の子弟学校へ学校用品の寄贈等を行っています。私が2009年北京で農民工子弟学校を訪問した際には、子供たちが目を輝かせて喜び、千羽鶴を折ってプレゼントしてくれました。2010年11月には中国の中でも、もっとも一人当たり所得の低い省のひとつである貴州省にある小学校を当社のボランティアメンバー20人とともに訪問し、両親が出稼ぎに出ている子供の心のケアを目的に、多くの子供たちと一緒に卓球をしたり、縄跳びをしたりして、長時間交流の場を持ちました。純粋で好奇心旺盛な子供達の明るい未来に少しでもお役立ちできたと思いますし、こちらも若返ったような感じがしました。

馬越 中国では保険の事業はまだこれからといったところでしょうか。

石原 保険が普及していくためには、一人当たりGDPが一定の水準に達して、将来に対する不安やリスクを考えるようになることが必要ですし、保険契約も約束事ですから、法律のインフラが整備されることも大事です。中国のGDPは世界第2位といっても、1人当たりとなると未だ100番ぐらいですし、法律をはじめさまざまな社会インフラが猛烈な勢いで整備されているところですから、普及率もこれから急速に高くなってくるのではないかと思います。

馬越恵美子氏
馬越恵美子
桜美林大学 経済経営学系 教授
上智大学卒。慶應義塾大学大学院修了。経済学修士。博士(学術)。米国やフランスへの留学や同時通訳の経験を生かし、現職のほか、筑波大学客員教授、異文化経営学会会長、東京都労働委員会公益委員も兼任。NHKラジオ「やさしいビジネス英語」「ビジネス英会話」の講師としても活躍。近著『異文化経営の世界』(白桃書房、編著)


東アジア地域という異文化の中での経営について

馬越 最近、東アジア地域でいくつかの政治問題が顕在化していますが、こうした中で、異文化経営には、いろいろなご苦労があるのでしょうね?

石原 そうですね。東アジア地域の各国は、地理的に接近していることから、文化的にも大変密接な関係にある一方、歴史認識の違いなど衝突する機会も多く、これが時として事業展開上のボトルネックやリスクになることもありえます。何よりも大事なことは、双方がお互いの立場を尊重して歩み寄りながら、問題解決型の関係を構築していくことではないでしょうか。もともと、文化の源流を共有していることから、必ずこれは実現できると思います。そのためには、各分野で多重的多層的に人的交流を拡大していくとともに、コミュニケーションの質を高めていくことが必要であると思います。

馬越 そうした中で、今後どのような人材が必要になっていくと考えておられますか。

石原 今後もいろいろな問題が発生することが考えられる中、そういった問題が発生した場合にもフランクに、忌憚なく話し合えるような人材を両国の各層で育てていくべきだと思います。それは国のリーダーから企業、そして個人レベルに至るまでそういった人材が必要になってくるでしょう。たとえば、中国では、「老朋友(ラオポンヨウ)」という言葉がありますが、ここで言う「老」は「古くから」という意味です。つまり、「古くからの友人」という意味なのですが、日中間でこの「老朋友」を増やしていき、どんなことでも率直に話し合う姿勢が大事だと思います。私は、今後の日中間の関係強化のキーワードとして最近よく使っている言葉が、まさにこの「老朋友」と「一衣帯水」です。

馬越 経営の現地化という観点で何か留意されていることはございませんか。

石原 海外事業経営は、その国のローカル人材に主体性を持たせ、活き活きと働ける環境を作らない限り成功しないし、拡大していくことは難しいと思います。特に東アジア地域においては、合理性で進めていける欧米諸国とは異なる視点をより重視する必要があるのだろうと思います。例えば、当社の中国の損保現地法人において、現在の管理職は中国人・日本人が半分半分くらいでしょうか。日本から中国へ進出する企業はどちらかというと、日本人がトップに立って組織運営していくケースが多く、これまではそれでもよかったと思いますが、今後は経営の現地化を進めていくことを考えていくべきだと思います。日本人駐在員が中国で仕事や生活をしながら中国をより理解し、一方で中国の方も日本へ足を運んで見聞を深めるというように、多様な文化的背景を持った社員が、お互いに相手国を理解し、意識の差を縮小させつつ、組織運営していくことが大事だと思っています。

馬越 異文化経営においては、国の文化や性別の差異を問わずに、マネジメントしていくことが求められるということですね。

石原 その通りです。確かに現時点では日本は高い技術や豊富な事業経験を有しており、これを現地企業や現地社員に移植していくことが必要で、その意味で研修等の人材育成は不可欠でしょう。しかしながら、実際には、現地のことは現地の方がよりよく理解されていますので、「お互いに学ぶ」という姿勢が必要であり、判断に迷った時などは、やはり現地の方の考え方を優先させるのだろうと思います。馬越先生の著書にも書かれておられるとおり、「グローバル経営においては、文化的差異を強調するのではなく、ビジネスにおける共通の価値観を基本にし、ベストプラクティスを追求し実践することが大切である」ということだと思います。お互いの良さを学び、新たな企業文化を創造していくことを大切にしていきたいと考えています。また、もうひとつの観点は、社員一人一人が自社に誇りを持ってもらうことではないかと思います。自分の勤務する会社が、品質の高い商品・サービスを提供している会社であり、また自国の経済や社会に貢献しているという実感を持ってもらう。さらにこうした活動を自らが担っているという実感を持つことによって、自己実現、自己の成長につながり、現地社員がさらに改善を図っていこうと活き活きと働くようになる為のインセンティブになります。このようになってくれば、安心して現地社員により経営を任せていくことができます。

馬越 異文化のなかでの融合は、なかなかむずかしいのではないでしょうか。

石原 私の場合、先生のように本当に若い時代から異文化の中に飛び込んで身をもって融合されておられる方と違い、会社に入ってから初めて海外との接点を持ちました。体で覚えるのではなくて、頭で詰め込まれてということで、中々身に付かず、今もって苦労しています。今の若い人には是非若い時代から、海外に雄飛して貰いたいと思いますね。


東アジア地域という異文化の中での経営について

馬越 会長が、昔、英語学校に通われていたのは、四谷にある日米会話学院ですね。

石原 随分あそこには通いました。1年半通って、それから会社の研修でアメリカに行く前に半年くらい受講しました。そのまま駐在員になっていればと思いますが、そうはなりませんでした。やはり、その土地に住んでみないとだめですね。私の生まれは一応満州という海外ですが、なにしろ2歳半での帰国ですから記憶にないです。

馬越 発音とかは、中国語の読みもされたんでしょうね。

石原 住んでいましたので、そうだったと思います。ただ、中国語は難しいですね。

馬越 私も昨年から中国語の個人指導を頼みまして、毎週1回勉強しているのですが、発音が難しくて。

石原 発音もさることながら、中国語の文法は英語と同じですので、そういった意味では先生には覚えやすいかもしれませんね。

馬越 微妙に違うところがありますね。日本語に似ているところもありますし。

事務局 最近は定年退職後に英語をやろうという人が増えているみたいですね。

馬越 英語に興味のある方が多いですね。

事務局 英語がうまくなる秘訣は何かありますか。

馬越 いや、とにかくコツコツと。それから機会あるごとに英語をしゃべることです。

石原 私の高校時代からの友人は英語のディベートクラブをやっています。もう退職していますが、ものすごく頭の刺激になっているようです。

馬越 ディベートは難しいですね。英語の場合はちょっと違って、少し攻めの姿勢なのかな。日本はどちらかというと同意するほうですよね。最近社内公用語を英語にするという企業がありますが、会長はどのように見られますか。

石原 仕事をしていく上で少なくとも日本をマーケットにしていく限りは、日本語の微妙なニュアンスを英語で伝えるというのは、所詮無理だという風にも感じます。ただ、そのぐらいの覚悟でやらなければいけないということがあるのでしょうね。同時通訳というのは自分なりの創意工夫というのはあるのですか?

馬越 なるべく自分の色を出さないというのが良い通訳です。会議が終わった後に通訳があったかないか分からないというのが理想です。あの通訳はすごく良かったというのは2番目にいいわけで、今日はひどかったというのが、もちろん1番良くないです(笑)。

石原 私どものお願いする通訳の方はこちらのあやふやな発言や言い間違いは通訳の方なりに、修正している場合もあるようですが、そのままとどちらが良いのでしょうか。

馬越 そこが非常に難しくて、私はやったほうがいい場合もあってやることもあるんですが、やりすぎてしまうと今度はいけないのです。

石原 同時通訳は翻訳とは違うのですね。

馬越 はい、違います。翻訳は何回も推敲できるので修正がききますね。

石原 ある程度翻訳のほうが創意工夫が入るのですね。

馬越 そうですね。翻訳はやり直しができます。同時通訳はその場が勝負です。遅れても1秒以内、0.5秒ぐらいですから。

石原 集中を切らさないという点では、通訳は疲れる仕事ということですね。

馬越 ものすごく疲れます。辞めてよかったと思っています。脳細胞を酷使する感じですね。回転が加速するんです。あるとき、すんなりと自分の中を通過しなくなって、自分の意見が首をもたげてきたのを感じたので、通訳を辞めようと思いました。でも20年間やらせていただいて、いろんな方にお会いしたりして大変勉強になり通訳をやって良かったと思います。

馬越 女性の活躍という点では如何ですか。

石原 女性の中から役員になるためには相当裾野が広くないといけないですね。現在は社外の女性の方に監査役をお願いしています。女性の管理職の裾野もだいぶ広がってきましたので、女性役員第一号もそう遠くないと思いますし、いずれ当たり前という状況になってくるのではと思っています。

 例えば、中国では1949年の建国以来、女性は男性と平等に社会的役割と責任を担ってきた歴史があります。「女性の社会進出度指数」という調査がありますが、これは指数100が男女平等という状態を示すもので、直近の調査では中国は90.88、これに対し日本は54.53に過ぎません。

 当社の中国における現地法人でも女性社員が約7割位で、管理職に関しても半数以上が女性です。日本と同様、大変丁寧に仕事をしますし、リーダーシップのある方も多く、まさに女性が牽引する職場になっています。以前、私が社長であった時に、日中韓の保険会社が三社提携をしていく中で「各社の女性社員による交流会」を開催したことがあります。そこでは様々な論議や情報交換がなされたのですが、「女性が社会で一定の地位を築き活躍していく為には、ワークライフバランスの実現と、自立心やキャリア意識の醸成が極めて重要」という結論に至りました。各国の文化や労働環境が異なるものの、女性が働く場合の課題は共通する点が多く、女性が社会における自らの存在意義について真剣に考え、仕事と生活のバランスをうまく保ち、人生をより豊かなものにしていきたいという共通の想いがあることを再確認でき、大変印象的でありました。

馬越 私は上智大学を出ましたが、フランス語学科だったせいもあったと思いますが、クラスの女性で、日本の大手企業で管理職になっている人はいません。

石原 昨今は、会社の中で女性が働く領域も広がっています。今は女性にとって非常にチャンスだと思います。

馬越 35歳ぐらいのところで壁があるようです。

石原 女性の場合、一番力を発揮できるときに結婚し子供が生まれるというハンデを克服して、また戻ってこられるように、出産育児休暇などの制度を会社として整備していないと人材の確保が難しいと思います。女性の場合、辞めたら戻れるかという問題もあるし、休んでいる間に誰かが代わりをするなど、全社的な対応が必要です。また、男性が育児休暇を平気でとれるようなことも必要だと思います。ところで最近の日本の若い人たちが将来に対して希望を持ちにくい状況になっています。したがって内向きになってしまい、外に出ていこうという気概がなくなっていると言われていますが、先生は、どう思われますか。

馬越 何か自分の"快適なゾーン"から外に出ないというか、あえて海外に行かなくても、国内で自分の好きなことをすればいいというように、少し小さくなっているような感じがします。

石原 一般論として言われている若い人の内向きの性質が日本人のすべてかというと、外にどんどん出て行く人もいるし、斬新なことをやっている人もいます。近年、海外へ留学する日本の学生の数が減少しつつあるという報道などを目にしますが、当社では逆に海外部門を希望する社員の割合は増加しつつあります。今、内向きの人の話をあまりにもメディアが取り上げるため、全員が悲観的に物事を考え、自信喪失しているのではないかという気がします。無理してでも異文化と交流すればするほど、逆に日本の良さも問題点も新しい角度から見つかると思います。文句ばっかり言っているのはさびしい気がします。そういう点では女性はどっしりとしているような気がします。

馬越 もともと女性は会社では異文化というところがあります。できる女性は個人プレーには強いですが、、組織の中でのチームワークを学ぶ必要があるようです。

石原 ワークライフバランスと言っても、自己主張をする以上は自己責任を持ってもらわなければいけません。その点、女性の方が、主体性があって、逆に男性の方が依存型が多いのではと、私は思っていますが、如何ですか。

馬越 できれば私も依存したいと思いますけれどね(笑)。

石原 良さを活かして、お互いが補完し合うことが必要です。たとえば、当社の商品を選択するのは3分の1は男性で、3分の1は女性で、あとの3分の1は夫婦で相談すると大体奥さんが勝つから結局は3分の2は女性が選択権を持つ。そうすると消費者の立場に立って考えるということは男の論理ではなくて、女性の論理のほうがよいことがあるんです。 女性を会社で活用することがなぜ大事かというと、いわゆるダイバーシティだとかそういうことが大事なのではなくて、実利的にも当然の帰結となる。

馬越 ダイバーシティマネジメントを戦略的に活用することが会社にとっても本人にとってもいい。CSRではなくて、経営戦略として考えるということなんです。

石原 CSRに逃げると駄目です。つまり、ダイバーシティというのは、ユーザーの立場に立って考えるということ、むしろ会社の経営戦略そのものであると言った方がよいとも言えます。

馬越 海外の方と一緒に仕事をするのも結局は同じことです。自然な形でいくといいですね。

石原 ユーザーがどんどん若くなっていくとすれば、経営もどんどん若返りを図っていかなければならない、つまり新陳代謝をあらゆる場面でくりかえさなければいけないですね。
女性の方が平均寿命は長いわけですから、労働可能年数も女性の方が長い。つまり、高齢化時代においては、女性が主役かもしれませんね。


趣味・プライベート

馬越 私は安定した人生を送る予定だったんですけれども、中小企業の経営をしておりました夫が早くにがんで亡くなってしまいました。それからというもの、同時通訳で生計を立て、幼かった息子たちを育てながら、さらに大学院に入学し、慶應の島田晴雄先生のところで経済学を勉強しました。島田先生は私の恩人です。その後、縁あって再婚しました。良かったと思います。ありがたいことです。

石原 お子様4人はそれぞれに2人ずつおられるのですか。

馬越 はい、私には息子が2人おりまして、夫には娘が2人おります。娘たちはそれぞれ独立していますし、長男は結婚し京都で月刊誌の編集をしておりますので、家族はいくつかに分かれて暮らしています。まさにダイバーシティです。でも、家族の絆は強く、お正月は我が家にみんなで集まり、私も年末年始は専業主婦をやります。今年は初孫が生まれたので特に賑やかでした。運命のいたずらで2回結婚いたしましたが、幸せを感じます。大学のときに軽音楽同好会に入っておりまして、そのときに少しジャズを歌ったりピアノを弾いたりしていましたが、その後、30年間封印していました。50代の今からやらないとあとでは無理かなと思い、最近、歌を再び始めまして、今年は6回ぐらいステージに立ちました。最初のトークはすごく受けるんですが、いざ歌い出すと......。


最近の関心事

馬越 テレビの視聴率も国際的な話だと瞬間的に視聴率が下がるという話を聞きますね。

石原 自分の関心事というのはどうしても、基本的には井戸端会議みたいなものになりますね。 NHKの朝7時とか夜の7時のニュースはある意味では日本の代表のような番組で、その番組がどんな話題から始まるかということや、新聞の一面のトップと記事は国の品格をあらわすようなものだと思います。

馬越 国としての気概とか品格というのが失われているのではないかと思い、日本の今の状況が気になります。広く考えようとか世界の中の自分の役割って何なんだろうというような考えが少ないという気がします。

石原 それは自分の国を外から見ていないからですね。同じ環境のなかにいると分からない物事も比較して初めて分かるので、そういう視点が大切です。日本はきれいだし、清潔好きだし、水がこれだけ安心して飲めるという国はそんなにないと思います。それも日本にいれば当たり前になってしまって良さが分からないですね。ダムから一般家庭までの水の減耗率というのは日本が一番低いそうです。単なる要素技術だけを海外に持って行くのではなく、それにからまるインフラやソフト面をあわせたシステムとして、パッケージで持って行くというようになれば、日本は安心と安全を輸出することができます。 

 例えば日本で自動車事故の死亡者数はピーク時の1/3以下ですが、これは車や道路が良くなっていることもありますが、それ以上に交通ルールを守っているとか、飲酒運転を禁止するというようなことを強化して、総合的に事故を減らしてきたのです。安心と安全は日本の誇るべき財産だと思いますし、競争力のある輸出財だと思います。 

馬越 日本には飛びぬけてすごいところはないかもしれないけれども、一定レベルが確保されているという意味で、非常に安心な国ですね。あまり言葉で言わなくても分かってもらえる。けれども、そこがまた問題で、海外では理解されないというのがありますね。

石原 これまで美徳だった日本人の謙虚さも、国際化が進んできた場合には、逆にマイナスになってしまうこともあると感じています。

馬越 個人的なことですが、私が夫を亡くして1人になったときに、海外の友人が日本は女性に厳しい国だから1人では住めないんじゃないかと心配してくれましたが、実際は結構楽でしたから。

石原 最近は近所付き合いが失われ、隣近所のことがよく分からなくなってきましたね。

事務局 個人情報というのもややこしいですね。

馬越 個人情報の関係で、大学でも以前はもらえた先輩の就職先リストが今はもらえなくなって不便です。

石原 日本の場合には決めるとすみからすみまで徹底的にやるのですね。私は、よく完璧主義の弊害と言っているのですが。

馬越 まじめですからみんなが一斉に同じ方向に行ってしまいますね。もうちょっといい意味での遊び心があったほうがいいかなと思います。

石原 日本の製品なども技術や性能は最先端を追求しますが、逆に海外のマーケットなどでは、ガラパゴス現象などで競争に負けてしまうことになりかねないというのも、その一例だと思います。消費者の人たちがどう考えるかということですね。

馬越 アメリカはリーマンショック以来、最近はどうでしょうね。

石原 雇用と住宅がまだなかなかですね。クリスマス商戦はいいようですが、依然として先行きの不透明感が強いです。ただ、オバマ大統領もいろいろ言われているけれどもリーダーシップを持っていると思いますね。1年間あれだけの選挙運動の中で、鍛えに鍛えられて、勝ち抜いてくるわけですからね。政治家を育てるシステムが出来上がっていることが、特に若い人達への世代交代をスムーズに行う秘訣なのかもしれませんね。

馬越 逆境を跳ねのけるというのが、指導者としては非常にうまいですね。オバマ大統領は、言うことがころころ変わらないからいいですね。人生はいろいろなことがあると、学生にはそういっていますが。みんなを見ていると、これからどんな人生が待っているのかなと思いますよね。日本も変わるでしょうし。

石原 変化があって、そのときはつらいけど、後で見れば栄養剤になっているはずです。

馬越 でも、会長はお辛いことなんてなかったのではないかと思うのですが。

石原 いやいや私の社長時代というのは、何かと保険業界が話題になることが多く、記者の皆さんにも随分取材を受けました。特に記者会見の模様がニュースになることもあって、神経を使いながら腐心したものです。常に記者の後ろにいる読者やテレビカメラの後ろの視聴者にいかにわかり易く、かつ真摯に説明するかに意を用いたものです。

馬越 私は同時通訳のときに記者会見を担当したことがありましたが、結構、こちらが嫌がる質問をされますね。

石原 如何に冷静さを保つか、簡潔にかつわかりやすく伝えるか、逆に記者の皆さんに色々教わったような感じがします。

馬越 こちらからはうかがい知れぬそういうこともありましたか。

石原 いろいろありました。

事務局 最近の学生は新聞を読まないでしょう。

馬越 読まないです。読みなさいと言っても読まないし、先輩もあんなの読まなくても平気だなんて言っている人もいるのです。情報入手は早いですが、論説的な分析のところは弱いですね。

石原 情報が少なければ、少ない情報を深読みして咀嚼することができるのでしょうが、今はインターネットの普及で情報の量は、飛躍的に増えていますし、携帯などで結論だけを即効的に取得できるだけに若い人達の情報量は格段に増していると思いますが、逆に氾濫しているだけに、整理されて、分析された情報を深めていくという点が欠けてきたように感じます。


大学や大学院で行うべき教育とは

事務局 先生の教え子はどうですか。

馬越 教え子にはいろいろいまして、学部の学生は素直な人が多いです。、大学院は中国人が大半です。全員もちろん1人っ子です。最近は昔と違って裕福な学生も多いですね。

石原 アメリカやヨーロッパを選ばずに日本を選ぶというのは何か理由がありますか。

馬越 たぶんできる子はアメリカに行くという感じがありますが、日本に来る学生の中にも優秀な人もいます。筑波大学でMBAコースを教えていますが、これは日本の企業の社会人の方や海外から来た社会人の方のクラスです。大手企業の課長レベルの方もいます。企業からの派遣ではなく自分のお金で来られています。 土曜日と平日の夕方6時半から9時までというハードスケジュールで、休憩時間にパンをかじって必死でやっている姿を見ると、新しい日本の将来が見えるような気がします。皆のやる気と迫力はすごいです。大体30代〜40代の方が多いですが、50代の方もおられます。日本人が多くともすべて英語で授業をします。会社には内緒だとか、やっと許可をもらって来たというような人もいます。ところで、企業からご覧になって、大学でどういう教育をしたらいいかというのを教えていただきたいのですが。

石原 企業側から言うと、大学を出ても即戦力にはならないと言いますか、即戦力だけを採ってもしょうがないとも思います。人材は、日本の場合、中長期に育成するという企業が未だ多いと思います。会社は会社で1つの育成方針を持っているので、学生時代には、専門的な知識もさることながら基礎学力がどうしてもほしいです。私は法学部ですが、法学的な物の考え方を身につけることが大事だと思います。

 専門的知識は、あとで横に井戸を掘るようにやることもできるでしょうし、理工系の人はノウハウを持っていますね。やはり、日本はこれからも優れた科学技術が支えていくと思います。最近、学生の理工離れということが言われていますが、若い人達が小さいうちから理工系に興味を持つような環境を早いうちから整えていくことが大事だと痛感しています。

馬越 私は兼職として、東京都労働委員会の公益委員をお引き受けしていますが、法律を勉強された方は、判事・弁護士・検事の方など、みなさん、鋭い切り口を持っていらっしゃると感じています。会長も法学部でいらっしゃいますが。

石原 コンピューターの世界では、論理的な考え方を持っているので、理工系は勿論ですが、法学部出身がいいと言います。判事・検事というのは非常に論理の世界なのですが、対象とするのはきわめて下世話な世の中ですから、これをどう判決に入れるかということですしね。裁判員制度というのはまさにそれをつなげるものではないかと思います。意外に人間というのは情というか、感じたもので動く、行動する習性があるから、必ずしも割り切れない存在ですね。社会に出て、何でも割り切れると考えると、挫折する人も出るのではないですかね。割り切れないことばっかりです。

馬越 論理性の追求はすごいですね。私はあまり論理的ではないものですから、一緒にやるとかみ合いません。なかなか合わないということが狙いでバランスを取るため、一緒にやっているのではないかと思うんですね。議論をすると大変勉強になります。

石原 論理で情に打ち勝てるかということですね。そこで妥協がうまれるのでしょうね。

馬越 情と論理の妥協の産物が事件の解決を導くのです。これは社会のいろいろなところで応用できると思います。


対談後記―馬越恵美子

 はじめてお目にかかった石原会長。その柔らかな物腰にすっかり魅了されました。ご自分の人生をもっと波乱万丈だったら面白かったのに、と謙遜されておっしゃっていましたが、一見、順風満帆と思われる石原会長の人生も、よくお話を伺ってみると、その中に、並々ならぬご苦労があることを垣間見ることができました。特に、日本を代表する企業のトップとして采配を振るわれた際のご心労は想像を超えるものであったと思われます。そういったものすべてを、ご自身の中に包含され、暖かな眼差しを向けてくださっている石原会長に、指導者としての風格を感じました。

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